GLOCAL 2025 Vol.25(Special edition)
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教員の研究紹介教員の研究紹介教員の研究紹介教員の研究紹介28国際人間学研究科 言語文化専攻 教授嘉原 優子(YOSHIHARA Yuko)兵庫県県出身。関西大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)。専門分野は宗教学、民俗学、文化人類学。研究テーマは、日本を含むアジアの宗教儀礼や奉納芸能、神観念について、近年は老いや延命と信仰の関係について関心がある。主な著書に『バリ島の村落祭祀と神観念』(おうふう、2010年)、論文に「バリ島の仮面―ランダの行方―」(『アリーナ第22号』、2019年)、「バリ島の長老集団の役割と構成について」(『アリーナ第23号』、2020年)などがある。日本で働く外国人介護福祉士候補者たちインドネシア人介護福祉士候補者の訪日前研修を通して考える人は、女性の髪を覆うスカーフの着用、日に5回の礼拝や食事上の禁忌などによって、仕事や生活への不適合などが報告され、課題も少なくなかった。看護師の有資格者を条件としていたEPA介護福祉士候補者が、日本で看護の仕事ができないことに戸惑ったり、看護師と介護士の立場の違いに自尊心を傷つけられたりする事例も見られた。 そもそも当時のインドネシアには介護士という職業はなく、「介護」という概念もなかった。高齢者は自宅で家族と共に暮らすことが常識であり、自宅には誰かしら面倒を見る者がいた。また、Pembantu(お手伝い)という職業が一般的に認知されていることもあって、高齢者介護を専門に行う職業は想定されなかったのである。送り出し機関における訪日前研修 インドネシアは、EPA介護福祉士候補者だけでなく、技能実習生や特定技能生を多く送り出している。彼らは母国の送り出し機関で訪日前研修を受けて来日し、来日後には日本でも研修を受ける。2017年に日本において設立された外国人技能実習機構に登録されているインドネシア国内の送り出し機関は、一覧表によれば2024年2月現在、439箇所にまで増加しており、大都市のみならず地方にもまんべんなく所在が確認できる。 筆者は、2023年度にジャカルタとデンパサール、及びそれぞれの周辺地域の6か所の送り出し機関において訪日前研修を調査した。 これらの送り出し機関に入るための費用は、一例を挙げると、FUJI ACADEMY BALIでは、入学時の費用が約800万ルピア(約73500円)、採用時に必要となる費用が約1300万ルピア(約119500円)である。その他、健康診断費用、パスポート費用などが別途必要となる。また、在学期間は標準的には6ヶ月間で、老い行く日本社会 社会の高齢化が引き起こすさまざまな問題が指摘され始めて久しいが、さほど効果ある対策が取られることなく、2024年9月、日本の総人口に占める65歳以上の人口は29.3%、3625万人で、世界一の超高齢社会である。厚生労働省は、2040年には総人口の35%が、2070年には39%が65歳以上となると推計している。 一方で、2023年の日本の特殊出生率は1.20であり、過去最低を更新した。子どもが年老いた親の面倒を見るのが困難になったこと、親の介護に苦労した世代が歳を重ね、自分と同じような経験を子どもにさせたくないと考え始めたことなどが、高齢者介護が家庭や家族から離れた要因であろう。近年では、老々介護や介護疲れに起因する事故や事件も問題となっている。結果、多くの人は人生の最後の時期をどこでどのように過ごすか考えるようになり、終活がブームとなった。介護施設で晩年を過ごす高齢者を見舞う家族 高齢者介護を施設や専門家に託すようになったことは人口バランスの急激な変化がもたらした必然であろう。 日本では、年々、老人介護施設等が増え、その定員数は2022年には約162.5万人となった。介護に従事する職員数も215.4万人にまで増加したが、厚生労働省によれば2025年には約38万人の介護職員が不足すると試算されている。 近年、介護関係の有効求人倍率は他業種のそれと比べて高いが、仕事の内容や給与の水準から日本の若い世代には敬遠されがちである。そこで、海外にその人材を求める制度が策定されることとなった。外国人介護福祉士候補者の受け入れ 2008年から二国間経済連携協定(EPA)によるインドネシア、フィリピン、ベトナムからの外国人介護福祉士候補者受け入れが始まり、2017年には留学生や技能実習生への「介護」在留資格が追加され、2019年には特定技能をもつ即戦力人材の就労目的での受け入れが始まるなど、次々と外国人介護職人材受け入れルートが策定された。 外国人が介護の現場で就労する場合、さまざまな困難に直面する。制度上の問題、日本語習得の問題、そして文化的障壁などである。制度の厳しさは彼らに長期の滞在を困難なものとする。また、彼らは「日常会話の日本語」だけでなく、「介護業務の日本語」「国家試験の日本語」を習得しなければならず、さらに、日本という異なる生活習慣、文化的背景、価値観をもつ社会で生活をしていかなければならない。 これらの問題の解決に向けては、日本語教育学、看護学、介護福祉学の分野で様々な研究がなされ、新たな日本語教材が開発されたり、改訂されたりするなどしている。インドネシア人介護福祉士候補者 外国人介護福祉士候補者の多くは、東南アジア出身者であるが、それぞれの文化的差異はほとんど考慮されず、「外国人」と一絡げにされており、日本で就労、生活する上での障壁は高い。 なかでもイスラム教徒が多いインドネシア
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