GLOCAL 2025 Vol.25(Special edition)
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教員の研究紹介教員の研究紹介教員の研究紹介教員の研究紹介32国際人間学研究科 心理学専攻 教授坂本 剛(SAKAMOTO Go)名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士課程修了。博士(心理学)。専門分野は社会心理学・環境心理学。主に自然資源の管理に関わる人々の協力行動や合意形成、制度の受容などについて研究している。『資源管理における行政への協力意図に関する地域と都市の住民比較:内モンゴルの草原管理を事例として』で2018年度日本グループ・ダイナミックス学会優秀論文賞を受賞。著書(共著)に『近現代モンゴルにおける都市化と伝統的居住の諸相』(東北アジア研究センター叢書)などがある。モンゴル遊牧社会における互酬性への期待の機能/奄美大島の民話における多様性の社会生態学的検討p<.001)、栄養価の高い草情報(adjR2=.15, p<.001)、土壌情報(adjR2=.07, p=.001)、水汲み(adjR2=.15, p<.001)いずれでも有意な重決定係数が示され、互酬性期待の標準偏回帰係数が一貫して有意であった(順にβ=.20, p=.007; β=.35, p<.001; β=..26, p=.001; β=.33, p<.001)。同一視は栄養価の高い草情報(β=.15, p=.041)に対して、相互作用は迷い家畜捜索(β=.16, p=.038)に対して有意な値を示した。懲罰神イメージからは有意な関係が示されなかった。互酬性期待と同一視による交互作用は栄養価の高い草情報に対して見られ(β=ー.13, p=.045)、互酬性への期待が低い場合に、社会的同一視の影響が強くなる傾向が示唆された。 オトルについてイメージが困難と述べた46名の回答を除外し、オトルへの協力行動(α=.77)を目的変数とする重回帰分析を行った結果、重決定係数は有意であり(adjR2=.44, p<.001)、互酬性期待(β=.55, p<.001)と懲罰神イメージ(β=.12, p=.025)からの予測が有意であった(VIF=1.03~2.18)。交互作用は見られなかった。 以上の分析より、モンゴルの遊牧社会における協力行動が互酬性への期待により促進されていることが示され、一つ目の仮説は支持された。交互作用に関する仮説は協力行動の一部で支持される結果となった。全般的に、これまで遊牧研究で見出されてきた互酬性の期待が機能していることを定量的に示す結果となり、一般交換期待仮説(Stroebe et al., 社会心理学をベースにした環境心理学研究 筆者はこれまで環境問題と人間活動の関わりに関心を持ち、主に社会心理学をベースにした環境心理学研究に従事をしている。われわれの社会はどうすれば自然環境を上手に管理できるのかという問いをめぐって、適正な資源管理のための人々の協力行動と規範に焦点を当てた研究、資源管理制度の公共受容に関する研究、そして環境保護に結び付く態度や行動に関わる個人内の過程に関する研究に携わってきた。加えて近年では、社会を支える相互扶助の仕組みがどのような道徳的信念によって支えられているのか、道徳の発生と機能に関しても興味を持ち、検討を始めている。 本稿ではモンゴルの遊牧社会における他者との協力行動のダイナミックスに関する調査分析の結果と、奄美群島を対象に文化的産物の多様性について社会生態学的観点からアプローチした検討を紹介する。モンゴル遊牧社会における互酬性への期待 モンゴル遊牧社会の基盤には互酬性の規範があり、互酬性への期待が牧民の柔軟な集団成員性と移動を可能にしている(Fernandez-Gimenez, 2002; 坂本他, 2015)。 本研究は移動の前提条件となる牧民の協力行動に対して互酬性期待が持つ機能を明らかにする。互酬性期待が高い場合、柔軟な移動を行う見知らぬ他者に対する協力も促進されると予想される。さらに交互作用として、互酬性期待が低い場合は社会的同一視の程度によって協力行動が影響を受けると予想される。 モンゴル国Tov県内の3郡とウランバートル市郊外2地区にて、自治体行政の牧民基本台帳を用いて各郡60世帯、UB内各地区30世帯ずつを無作為抽出し、世帯主に対して訪問面接調査を行った(男性185名、女性55名、Mage=48.49、SD=12.12)。 主な調査内容は次の通りであった。協力行動は、畜産労働を基にした4種の協力行動について、必要な時に協力し合う可能性のある隣人であるサーハルトアイル(以下、隣人)、及び緊急の非規則的な長距離移動を行う牧民オトルそれぞれから協力を求められた際の行動意図を尋ねた。互酬性期待は、同4行動を、隣人及びオトル先の牧民からどの程度期待できるか尋ねた。相互作用はこれら行動それぞれに隣人及びオトルと情報交換や相互協力をした経験の頻度を尋ねた。社会的同一視はKarasawa(1991)を基に同一視の程度を尋ねた。宗教的信念は遊牧社会の神テンゲルの懲罰神イメージの強さをShariff & Norenzayan(2011)の手続きに基づき測定した。 隣人への協力行動の内的整合性を示す信頼性係数が低いため各項目を個別に目的変数とする重回帰分析を行った(VIF=1.06~1.36)。隣人への協力では迷い家畜捜索(adjR2=.12,
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