GLOCAL 2025 Vol.25(Special edition)
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教員の研究紹介教員の研究紹介教員の研究紹介教員の研究紹介36国際人間学研究科 心理学専攻 准教授山内 星子(YAMAUCHI Hoshiko)名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士後期課程修了、博士(心理学)。臨床心理士、公認心理師。大学院を修了後、大学の学生相談室カウンセラーとして勤務。その他、精神科病院、精神科クリニック、大学病院の神経内科等での臨床経験がある。主な研究テーマは、青年期の人々の精神的健康を促進する要因は何か、ということである。また、臨床的支援の経験から、発達障害傾向のある学生の能力発揮促進的支援にも関心を持っている。臨床・教育実践のための研究を目指して―IRデータをベースとした検討の試み―援につなげていった。同時に、応答率、極めて調子の悪い学生の割合などを順次データ化し、それをその次の支援のための基礎データとして蓄積していった。 2つ目に、完全に匿名化した上で大規模データとして統計的処理を行うという量的アプローチである。学年、性別、専攻分野などの属性、居住形態、COVID―19によって生じた物理的影響(アルバイト解雇、友人と会う機会の減少など)の環境的な要素などがどの程度学生のメンタルヘルスに効果を持っているのかを検討する。結果として、COVID―19流行下においても、学部生/院生の別、専攻分野等の属性によってメンタルヘルスのありようが異なっていることが徐々に明らかになった(例えば、山内他、2020;山内他、2022)。 この2つのアプローチは全く個別に行われていたのではなく、電話やメールによる支援で得られた情報から、重点的に統計的分析を行うべき部分を検討したり、特に不調と思われる属性を持つ学生の背景情報を個別ケースの語りから探るなど、2つのアプローチは常に両輪のように動いていった。 そうして日々を過ごすうち、COVID―19が流行し始めた当初は手段がなかった学生相談も、徐々にオンラインでのカウンセリングができるようになり、元通りとまでは言わないまでも多くの学生の相談対応が可能になった。しかし、大学はオンライン授業を続けていたことから調査は継続され、昼間はオンラインや電「学生の悩みはいつどのように発生するか」という問いについてのこれまでの知見 私の前職は大学の学生相談室カウンセラーであるが、相談室には日々多くの相談が寄せられる。入職した当初は、悩みは人それぞれ、と感じていたが、数年すると学年、学部学科、理系・文系など、その学生が属するカテゴリー対応した“よくある相談”というものがあることに気が付く。あるときには、性別、学年、学部、相談内容がほぼ一致した相談者(もちろん細かく聞いていけば違う部分はたくさんある)が同時期に来談し、話を聞きながら、3人兄弟の末っ子なのはこっちの学生だったっけ……? などと混乱してしまうほどである。 こうした学生の属するカテゴリーに対応した共通の心理的課題について鶴田(1999)は、学生相談室に寄せられた悩みを時期別に整理したデータをもとに「学生生活ライフサイクル」という概念を提唱した。すなわち、大学生の4年間を入学期、中間期、卒業期の3つに分け、それぞれの時期の特徴と、それに対応した特有の悩みや心理的課題が存在することを示したのである。 この概念は学生相談カウンセラーにとって非常に有用で、学生が初めて来談したときに属性を聞くことで、学生の背景に関する一定のイメージを持つことが可能になる。もちろんカウンセリングの中でこれを修正したり補ったりする作業をしていくが、イメージの土台があることが、カウンセラーの支えになる。コロナ禍で始まった、心理臨床(学生支援)のための研究 先述のような知見を頼りに日々臨床に取り組んでいたさなか、COVID―19が流行し、大学は大きな混乱に陥った。平時でもシビアな状態に陥る学生がいるのに、この状況の中で彼らはどのように過ごしているのだろうと大変心配になる。何とか学生の状況を把握したいという大学執行部の先生方の意向を受け、全学生を対象にしたWebアンケート調査を半年に1度行うことになった。なにせ1万5千人以上の学生を対象とした縦断的調査であることから、データの収集、整理、分析の道のりは極めて険しい。また、研究のためだけのデータ収集とは異なり、ハイリスクな学生を取りこぼさないよう1人でも多くの学生の回答を得ることが重要である。〇名データが集まったからそこで調査打ち切りとはいかず、未回答の学生に連絡を繰り返しながら締切を延ばし、都度都度統計的な処理をして学内で報告し続けた。 得られたデータは、2つのアプローチで使用された。1つ目に、ハイリスクな学生をスクリーニングし支援につなげるという個別アプローチである。最初に設定した基準では数百名が要支援群に分類され、カウンセラーは手分けしてメールや電話での個別連絡を行い支
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