GLOCAL 2025 Vol.25(Special edition)
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2025 Vol.252025 Vol.252025 Vol.2537数名で検討を重ね、学生の停滞や不調に関連しており、教育的実践に活かすことができると考えた変数である。今後数年間にわたってデータの収集を行い、学生の入学時から中間期を経て卒業間際まで、どの時点で、どのような要因が学生の適応に効果を持つのかを検証していきたいと考えている。今後に向けて 近年少子化が加速し、大学に入学する学生数の減少が懸念されている。このような中で、学生の性質や考えも変化していくであろう。大学にとっては、いかに学生募集を行うか、魅力ある大学にするためにも在学生によりよく学んでもらうこと、学生の不調を予防すること、卒後社会で活躍できる人物になってもらうことなど、検討していかねばならない問題が山積している。 こうした問題に対応していくにあたり、状況や目的に合わせて収集したデータを正しく利用していくことが非常に重要であると思われる。研究はまだ始まったばかりであるが、まずは目の前の学生に還元できる知見の獲得を目指し、努力していきたいと考えている。 本研究は、2024年度中部大学特別研究費(領域CP)に採択していただきました。この場をお借りして、支援してくださる大学、共同で分析にあたってくださっている先生方、ご協力いただいております学部、学科の先生方、学生の皆様に厚く御礼申し上げます。引用文献鶴田和美(2001).学生生活ライフサイクルとは鶴田和美(編) 学生のための心理相談――大学カウンセラーからのメッセージ―(pp. 2―11)培風館山内星子・松本真理子・織田万美子・松本寿弥・杉岡正典・鈴木健一(2020).大学における新型コロナウイルス感染症流行下の学生支援実践と今後の展開 学校心理学研究,20(1),47―54.山内星子・杉岡正典・鈴木健一・松本寿弥・織田万美子・松本真理子(2022).コロナウイルス感染症流行時に入学した学生の心理的特徴:文系・理系・医療系別の検討 学生相談研究,42(3),222―229.話でカウンセリング、夜はデータの整理と忙しい日々が続いた。最初は、昼間にやっていることと夜にやっていることのつながりがうまく感じられず頭が整理されない辛さが大きかったが、ある程度データがまとまってくると、目の前の相談者の状況が、量的なデータで示されたことと合っているようだからこのままフォローアップで良いはずだとか、この人は平均的な学生よりも落ち込みが激しいようだけど、その背景にどんなことがあるのか、今度の調査ではその点についても調べてみる必要がある、などと臨床とデータとを照らし合わせて考えることができる部分も出てきた。 これらの調査はCOVID―19流行という非常事態下で行われたものであるため、一般化可能性がどこまであるのかについては今後取得されるデータとの比較を待つほかないが、こうした経緯で、自分自身で行った研究(量的データの統計的分析)が臨床で役に立つ体験に恵まれたことは貴重な経験になった。いつどこで出来上がったのかは定かでないが、私の中の臨床と研究の間には壁があり、研究はあくまでもやらねばならぬもので、それを臨床に還元するのははるか遠い道のりと感じていたからである。現状、(私の認識では)臨床場面で生まれる研究は1例~少数の事例を素材にしたものが多く、量的なデータから得られた知見との相互作用の機会が少ないように感じられることはとても惜しいように思われる。今度は、教育実践と研究を結びたい COVID―19の収束が見えてきた2022年4月、私は中部大学に異動してきた。相談室で学生を支援することにやりがいを感じていたが、より広く多くの学生と勉強や研究を一緒にやってみたいと考えていて、その希望が叶って本当に嬉しく思っている。初めの1年間は授業の準備やイベントなどに奔走しあっという間に過ぎてしまったが、成績不振や休学希望、退学希望の学生に接するうちに、この学生たちの不調の背景や、不適応を発生させる要因、リスクが高まる時期などについてのデータがあれば、日々の教育の助けになるのに、と学生相談室にいたときに考えていたことを再び考え始めた。 ちょうどそのころ、IRデータや、教育改善・向上のために行われているアンケートデータをよりよく活用することの重要性が強調されはじめた。私は前職でのバタバタの仕事の中で、データというのは数字の羅列のままで置いてあってもほとんど意味をなさないが様々に工夫して整理すれば多くの人の役に立つということを刷り込まれたので、さっそく、学科の先生方と共同でデータの分析を始めることにした。教育現場にいるからこそのリサーチクエスチョンを 大学に蓄積されていたデータを分析する中で、いくつかのことが明らかになってきた。詳細には別の機会に報告できればと考えているが、例えば、中間期にあたる2、3年次は停滞(学業不振、出席状況悪化など)が生じやすい難関な時期であること、入学前までの学力は中間期の停滞にあまり関連が見いだされず、むしろ大学入学後の適応状況重要であると考えられることなどである。 これらの知見は、知っていればもちろん学生対応時の基礎的資料となるが、学生の心理的特徴や状態に関するデータは含まれず、例えば休学の前に気分の落ち込みが先行するのか否か、勤勉な性格、基礎学力、友人のサポートなどの要因のうち、どれが最も大学でのパフォーマンスとより強い関連を示すのかなどは明らかになっていない。したがって、現時点では、「休学する学生を減らしたい」、「成績不振の学生への対応の仕方を考えたい」といった教育実践の中で出てくるニーズに応えるデータが得られたとは言えない。 そこで我々は、学生にIRデータ活用について丁寧に説明し、同意を得られた学生にのみ独自の心理尺度による調査を実施し、データを紐づけて分析を継続することにした(この計画は中部大学研究倫理審査委員会の審査を受けて承認された。承認番号20230093)。 独自の調査に含まれるのは、性格などの特性、自尊感情、うつ傾向、学生を取り巻く環境(居住形態、通学時間など)、大学の志望度などである。いずれも、日々学生と接する教員
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