GLOCAL 2025 Vol.25(Special edition)
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教員の研究紹介教員の研究紹介教員の研究紹介教員の研究紹介44国際人間学研究科 歴史学・地理学専攻 教授大塚 俊幸(OTSUKA Toshiyuki)1987年に筑波大学大学院環境科学研究科修士課程修了後、大阪、名古屋の都市計画・まちづくり系コンサルタント会社に15年ほど勤務。2006年名古屋大学大学院環境学研究科博士後期課程修了。博士(地理学)(名古屋大学)。日本都市学会理事、中部都市学会理事(事務局)、名古屋地理学会会長など。現在、小牧市、稲沢市などの都市計画審議会をはじめ、名古屋圏の自治体において各種委員会等の委員を務める。専門は都市地理学・都市政策論。都市の持続可能性についての一考察家が増加したりするなど、都市のスポンジ化が進行し、都市の持続可能性が問われている。多様化する住まい方 コロナ禍を機にリモートワークが普及し、それに伴い在宅勤務やオンライン会議などが急速に拡大した。コロナ禍の経験を経てリモートワークに適した職種と、そうでない職種が明確になった。ソフトウェア開発や、インターネットで世界と繋がっていれば、毎日、都心のオフィスに通勤する必要がない職種が存在することがクローズアップされ、そうした職種では、居住地選択の自由度が増している。 コロナ下における東京都から隣接県への人口の流出超過はその表れである。居住地を2つ持つ、いわゆる二地域居住も増えており、そうした現象に対する研究も行われている(住吉2021)。地方への移住も選択肢の一つであるが、いきなり地方への移住はハードルが高いと考える人も多いだろう。またリモートワークといっても、月に何度かは都心のオフィスに出勤しなければならない。となると、ある程度、大都市圏からの距離というのも重要な条件となる。何れにしても、就業形態の多様化が進んでいるのは確かであり、居住地選択の自由度を拡大させている。量は多くはないが、もともと地方への移住ニーズは存在していた。多様な働き方を可能にする社会の変化がこれを後押ししている。 少子高齢化が進行し、家族の形態にも変化をもたらしている。核家族が一般化した今日、高齢の親との近居ニーズが高まっている。近居とは、かつては「スープの冷めない距離」と言われていたが、今日の近居は車ですぐに駆け付けはじめに 都市は、様々な要素により成り立っている。その中心となるのが、「住む」と「働く」である。自給自足の村落では、住む場所と働く場所は一致していたが、工業が発達していく過程で、住む場所と働く場所が分離していった。工業は、原料産地や消費地との関係で立地場所を選び、労働力も重要な立地要因となっている。また商業は、消費者の集住状態などに左右され、それらの変化に合わせて立地場所を移動させてきた。このように、産業の高次化は都市の立地や形態に変化をもたらしてきた。そして、今日のように人口が減少し、社会や産業構造が大きく変化するなかで、住まい方や働き方は多様化し、それらの関係性も時代とともに変化している。 従来、地方自治法や都市計画法上では、集住がなされ、商業や工業などの経済活動に従事する人々が一定割合を占める地域を、都市(市あるいは都市計画区域)としている。しかし筆者は、都市の捉え方を今後はこれまでの「働く」から「住む」に重きを置いた捉え方に転換すべきではないかと考えている。つまり、「働く場所に住む」のではなく、「住みたい場所で働く」という考え方で今後の都市を捉えることが必要になっていくのではないかということである。 以下では、こうした観点から、今日の都市や社会の変化を踏まえたうえで、都市の持続可能性について考えてみたい。都市・社会を取り巻く環境の変化 日本の総人口が減少するなかで、これまでのように大都市への人口集中が継続すれば、地方都市の人口は減少の一途を辿るのは言うまでもない。社会の成熟化に伴い人々の価値観も多様化し、少子高齢化が進むなかで、福祉分野をはじめとする様々な行政ニーズが拡大している。そうした多様なニーズを満たすためには、ある程度の都市規模が必要であり、小規模自治体では、市町村合併により一定の財政規模を確保しなければ自治体経営が立ち行かなくなっている。 国は地方創生を進め、地域格差の是正を図ろうとしているが、東京をはじめとする大都市への集中を抑制しない限り、格差拡大は止まらない。現在の日本の都市システムが、市場原理に基づいて成立しているものである限り、行政が介入しても大きな変化をもたらすことはできず、できたとしても限界がある。これまでも、大都市圏への工場立地を制限するなどして、国土の均衡ある発展を国土政策の柱として施策を展開してきた。しかし、地方が活性化する前に大都市の衰退を招いてしまい、大都市の再活性化施策に再び方向転換を図る破目に陥った。過去を振り返ると、日本の産業立地政策では分散化政策と集中化政策が繰り返して行われてきたのである。 限界集落や消滅可能性自治体という用語が使われている。その町や村に住んでいる人への配慮に欠ける表現とは思うが、余ほどの危機意識の必要性を訴えることが狙いであろう。人口減少が続く限り、村落や都市として機能しなくなってしまうことは容易に想像できよう。特に村落においては、高齢化率が50%を超え、地域社会において共同生活が維持できなくなる。また地方都市においては、商店街がシャッター街化したり、条件の不利な郊外住宅地で空き

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