GLOCAL 2025 Vol.25(Special edition)
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2025 Vol.252025 Vol.252025 Vol.2545件を備えたものでなくてはならない。必ずしも経済活性化がすべてではない。経済活性化を最終目的とするといずれ破綻する。全国の多くの都市で観光による地域活性化を目指し、その結果、地域の収容力を超え、オーバーツーリズムの問題を引き起こしている状況をみればわかる。市場原理で成り立っている大都市は別として、地方の中小都市では、市場原理で都市を考えることはできないし、これまでの画一的な都市計画では対処できない。集積による経済的メリットを享受する都市と、必ずしも集積の経済に依存せず、市街地密度を低下させてゆとり空間を創出していく都市とを分けて考える必要がある。都市のスポンジ化が問題となっているが、多孔質のスポンジは吸収力がある。店舗や住宅で孔を埋めることができなくても、工夫次第でそのまちや都市の質を高めるための魅力を生み出すことも可能である。各地で観光まちづくりが行われているが、観光に何を期待するのか。経済活性化もあるが、目指すは豊かな暮らしではないだろうか。その暮らしのために都市のスポンジ化をどう活かしていくかが問われている。 まちづくりに終わりはない。外部資本により大規模開発を進めていけばいずれ破綻する。まちに関わる人々が地道に取り組んでいくことこそが、持続可能なまちづくりにつながる。そのためには、まず自分たちにとって豊かな生活とは何か、住民たちが納得できる共通理解を得ることが重要である。何を豊かと感じるか、それは人によって異なる。異なる価値観をもつ人々が共感できる「想い」を見い出すことがまちづくりの原動力となる。目指す方向が違う者同士が集まってもうまくいかない。他都市での取り組みをまねるだけでは、一過性の効果しか得られない。もちろん連携・協力は重要であるが、その先にあるまちの姿を共有できているかが、何よりも重要である。それができれば、都市やまちは持続するのではないだろうか。持続可能な都市をつくるためには、従来の都市全体の効率性から個人の生活に重点を置き、精神的豊かさを軸とした都市づくりを進めていくことが必要である引用文献住吉康大 2021.日本における「二地域居住」の実態と地域振興との関係性―千葉県南房総市および周辺地域を事例に―.地理学評論94―5: 348―363.2023年度地理学野外実習報告 2024『桃花台の住みよさに関するアンケート調査報告書―桃花台の魅力再発見―』中部大学歴史地理学科.ることのできる距離ということになる。親世代が元気なうちは問題ないが、両親の何れかが亡くなり一人になったときに、近くに住んで日常生活を支援したり、何かあればすぐに駆け付けられるよう、近居を望む声が多い(2023年度地理学野外実習報告)。近居は、高齢の親世帯のためだけでなく、子育て中の子ども世帯にとっても望ましい居住形態である。出張や急用などの際に、孫を預かって面倒をみてくれる親世帯が近くに住んでいることは大変ありがたく、今後も近居という居住形態は、少子高齢社会において重要な住まい方として選択されていくであろう。変貌する都市のかたち 時代とともに都市は形を変えている。都市は器(基盤)であり、そこで活動する内容(機能)の変化に伴い、そのかたちも変えてきた。日本の都市は、都市化の段階から郊外化を経て、都心回帰にみられるように再都市化の段階に進んでいる。大都市の都心周辺部では、遊休地を活用し、タワーマンションが建設されている。また、郊外においても駅前でマンション建設が進み、さらに都市圏の外縁部では、既成市街地周辺の農地でミニ開発が行われている。このように新たな住宅供給が行われる一方で、中古住宅市場は限定的で、空き家の増加をもたらし、都市のスポンジ化を促進させている。 都市計画における都市の位置づけも変化している。全国どこの地方都市においてもコンパクトシティ政策が進められており、立地適正化計画と地域公共交通計画による、いわゆる「団子と串」による集約連携型都市構造への転換が図られている。都市経営の効率化という政策の意図は理解できるが、果たしてどこまで実効性があるかは、時間をかけてみていかないとわからない。また、都市における農地の位置づけも変化している。2015年の都市農業振興基本法の制定により、都市農業は良好な都市環境の形成に資するものとして位置づけられた。農作物の生産・供給機能だけでなく、緑地として、防災や都市にゆとりと潤いをもたらすものとして、市街地の農地が再評価されている。今後の都市のあり方 今後の都市に求められるのは、大都市圏の中心都市や郊外都市、そして自然や個性豊かな地方の中小都市などにおいて、多様な生き方や暮らし方を実現できる都市の選択肢を用意することである。大都市圏の中心都市において自己実現を可能とする生き方もあれば、郊外都市で都市的サービスを享受しながら快適に暮らす生活もある。また、地方の魅力的な自然や文化に囲まれて、自身の理想とするライフスタイルを実現する生き方もあるだろう。今後は、そうした多様な生き方、暮らし方を通じて、生活満足度を実感できる都市づくりを進めていくことが必要となる。 いわゆる消滅可能性自治体といわれる都市は、今後の人口推移の見込みによって分類されている。しかし、人口が減少し、都市機能の集積が低下したからといって、それだけで持続不可能とはいえない。人口が減少しても、そこで、それぞれにとっての生活満足度を実感できる日常生活を送ることができれば都市は存続する。人口減少が避けられない状況下においては、住みたいと思う人が住み続けられるまち、いつかは戻ってきたいと思えるまち、暮らしてみたいと思えるまちが持続可能な都市といえるのではないだろうか。 高齢になっても長年暮らしたまちを離れたくない、できることならそこにずっと住み続けたいと思う人が多くいるのではないか。なかには歳をとったら、公共交通の便が良く、医療・福祉サービスが整った歩いて暮らせるまちに住み替えたいと考える高齢者もいるだろう。現に、従来、住宅双六のゴールとされていた郊外戸建て住宅地から、都心周辺部のケア付きマンションなどに住み替えている例もみられる。何れにしても、住み続けたいと考える高齢者が安心して住み続けられるまちであることが、持続可能な都市であるためには必要である。 また、若者が大学進学や就職を機に、地方都市から大都市に流出していくことを引き留めることはできない。将来、何かをきっかけにふるさとに戻ろうと思えるまちであることが重要である。それと同時に、生活の糧を得ることのできる機会を提供できるまちであることが必要である。 さらに、住んでみたい、暮らしてみたいと思えるまちであることも重要である。場合によっては、仕事はどこでもできる。自然環境や子育て環境などが魅力的であれば、大都市圏からの移住も期待できるであろう。持続可能な都市づくり これからの都市を考える際に重要なことは、「住む」ことであり、「暮らす」ことである。都市は、人々が暮らし、生きていくための条
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