GLOCAL 2025 Vol.25(Special edition)
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2025Vol.252025 Vol.252025Vol.2547Beaudeau, P.(2012). The impact of Heat Islands on mortality in Paris during the august 2003 heat wave. Environmental Health Perspectives, 120, 254―259.(2)Vos, S., Bijnens, E.M., Renaers, E., Croons, H., Stukken, C. Van Der., Martens, D.S., Plusquin, M., Nawrot, T.S. (2022) Residential green space is associated with a buffering effect on stress responses during the COVID-19 pandemic in mothers of young children, a prospective study. Environmental Research, 208, Article 112603.(3)岩間信之・田中耕市・佐々木緑・駒木伸比古・齋藤幸生 2009.地方都市在住高齢者の「食」を巡る生活環境の悪化とフードデザート問題―茨城県水戸市を事例として.人文地理61: 139―156.(4)Walker, R. E., Keane, C. R., and Burke, J. G. 2010. Disparities and access to healthy food in the United States: A review of food deserts literature. Health Place, 16, 876―884.(5)安本晋也・中谷友樹 2021.オープンスペースへの認知的近接性が健康格差に与える影響―大阪府の事例―.人文地理 73: 445―465.(6)Idler, E. L. and Benyamini, Y.(1997). Self rated health and mortality: A review of twenty seven community studies. Journal of Health and Social Behavior, 38(1), 21―37.(7)安本晋也・中谷友樹 2019.GISを用いた客観的および認知的日照アクセスの健康影響の分析―横浜市の事例研究―.日本地理学会春季学術大会,2021年3月26日,オンライン開催,口頭発表.が低い地域(地域レベルの貧困度が低い地域)では、オープンスペースへの近接性に恵まれているかどうかという点は主観的健康観との間に関連性がみられなかった。したがって、地域レベルの貧困度が高い地域の居住者ほど、オープンスペースへの近接性が劣るときに健康影響を受けやすい可能性があることが見出された。 これはいくつかの重要な政策的含意を示唆しているかもしれない。都市公園に代表されるオープンスペースは、地域レベルの貧困度が高い地域に優先的に置いたほうが、健康保全という目的においては効果的である可能性がある。さらに、「近隣環境はオープンスペースへの近接性に恵まれている」と主観的に感じているかどうかは、オープンスペースの有無のみならずその質や、近隣の治安、交通事故リスクなど多様な要因が関連している。これらの要素を改善するには、保健医療や都市計画などの部門、および警察機関などによる多部門間の行政の連携が必要かもしれない。3. GIS(地理情報システム)の貢献 GIS(地理情報システム)とは、コンピュータを用いて様々な地理情報を取得・管理し、地図を用いた可視化や分析を行うシステムを指す。GISの原型は古くは1960年代までさかのぼるが、その後のコンピュータやインターネットの発達、そして近年のスマートフォンの普及によって、GISはより身近な存在となった。例としてスマートフォンのアプリとしてお馴染みのGoogle Mapsが提供する目的地探索や道路混雑度表示などの様々な機能は、GISの発展によって実現したものである。 近隣環境の健康影響の分析においても、GISが活用されてきた。前述の地表面温度を暑熱暴露量の指標とし、人への健康影響をみた研究(1)は、GISやその関連技術であるリモートセンシングを用いた近隣環境による健康影響の研究の一例である。 筆者らのGISと質問紙調査を併用した研究によって、各家屋が享受する日照も健康に影響を与えることが分かった(7)。この研究ではまず郵送質問紙調査を行い、横浜市の調査対象者の社会的属性や主観的幸福感(心理的健康を表す指標の1つ)を尋ねた。次に図2で示されるように、横浜市都市計画基礎調査によって作成された建物の形状と高さ情報を示すGISデータを用いて、各家屋が享受する日照時間を計算した。統計解析の結果、各家屋が享受する日照時間が主観的幸福感に正の影響をもたらしていることが分かった。GISを用いれば、このように広域の日照時間も容易に把握でき、人々への健康影響を統計的に分析することも可能となる。4.まとめ 以上みてきたように、様々な近隣環境の質が健康影響を及ぼす可能性があり、本稿では郵送質問紙調査や、GISを用いての検証例について紹介した。特にGISやリモートセンシングは昨今、データの精緻化やオープンデータ化が急速に進んでいるため、同研究分野における活用が今後も広がっていくと考えられる。参考文献(1)Laaidi, K., Zeghnoun, A., Dousset, B., Bretin, P., Vandentorren, S., Giraudet, E., & 図2 横浜市都市計画基礎調査による建物形状と高さ情報をGISで3次元表示した例

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