GLOCAL 2025 Vol.25(Special edition)
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院生の研究紹介院生の研究紹介院生の研究紹介院生の研究紹介48人訪日客は再度増加し多様化することが考えられる。今後のインバウンド観光を考える上で、中国人訪日客に関わる添乗員は重要な役割を担っている。 団体ツアーだけでなく、個人客も添乗員を雇用していることなどは、日本であまり知られておらず、このような添乗員についての研究は、日本の経済発展および日本の観光産業の発展に寄与できると考える。図1 中国人団体客を案内する添乗員(2018年、筆者撮影)参考文献JNTO(2019)『訪日旅行データハンドブック』pp. 47―50,日本政府観光局橋本佳恵(2000)「海外主催旅行における添乗員の役割に関する研究」『大阪明浄大学紀要』(開学記念特別号),pp. 73―81はじめに 日本政府は2023年3月に策定した「観光立国推進基本計画」のなかで、2025年までに訪日外国人観光客数が2019年の3,188万人を上回ることを目指している。 そのためインバウンド旅行の手配やアレンジをし、同行する添乗員に重要な役割が求められている。しかしながら、そのような人々について注目した研究はまだ少ないように考えられる。 私の研究課題は中国人訪日客の日本観光旅行に添乗員が果たす役割としている。本稿ではその一部を紹介する。特に中国人訪日客の日本観光をアテンドする添乗員の属性について述べたい。中国人の訪日旅行における添乗員の重要性 2019年までに中国人訪日客は観光目的入国者のうち、団体ツアーは40%ほど占めていた。2020年以降、中国の「ゼロコロナ」政策の影響で低迷したが、2023年の4月ごろから、中国からの個人の旅行者が増え続けている。 2023年8月日本の水際規制緩和により、団体旅行、パッケージツアーも解禁されたことで、今後、日本を訪れる中国人訪日客の数は大幅に増えるだろう。 添乗員は団体ツアーだけではなく、個人客でも全行程中の2、3日添乗員を雇って観光する人も多い。英語も日本語も話できない中国人訪日客にとっては添乗員が日本の観光地や観光関連業との唯一の接点である。添乗員は多様化する中国人訪日客の日本観光を一手に引き受けている印象である。添乗員の属性とツアーのトラブル 添乗員は中国人訪日客について旅程管理をはじめ、様々な業務を行う者であり、日本の「国内旅程管理主任者」の資格を有している。 これらの添乗員の属性を見ると、専業添乗員と兼業添乗員がある。中国国籍の者では専業と兼業が見られたが、日本国籍の兼業添乗員はいなかった。専業添乗員は旅行会社に所属している社員であり、兼業添乗員はいわゆる資格をもつアルバイトである。中国人訪日客に関わる添乗員はこのような雇用形態である。(図1) この中で兼業添乗員は、経験があまりないにもかかわらず、専業添乗員と同様に添乗することで、様々なトラブルが報告されている。筆者の調査では、食事の管理、客との連絡の問題、代金支払いのトラブルが多く見られた。特に支払いトラブルが多発している。それに対して専業添乗員は手慣れており、トラブルが少ない。添乗員の雇用形態の違いは、様々な問題に影響を及ぼしている。 兼業添乗員の雇用は、これまでに見られた中国人客の急増に対応するには便利であるだろうが、何らかの形での訓練等が必要と思われる。まとめ 今後日本のインバウンド観光の中で、中国中国人訪日客の日本観光における添乗員の役割国際人間学研究科 国際関係専攻 博士後期課程3年王 蛍雪(WANG Yingxue)中部大学の国際人間研究科国際関係学専攻博士後期課程3年中国天津市出身。修士(国際関係学)。専門はインバウンド観光学。研究テーマは中国人訪日客の観光行動の特性に関する研究などである。主な論文「中国人訪日客に対する観光案内に見る添乗員の「仲介者」としての役割―高山市を例として」(第35回日本観光学会全国大会学術論文集、2020)などがある。

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