GLOCAL 2025 Vol.25(Special edition)
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2025 Vol.252025 Vol.252025 Vol.2553英語の意味を理解しやすくなると考えられる。 次に、英語語彙知識が豊富であるほど、和製英語の意味理解の成績が低くなると予想する。和製英語はしばしば元の英語の意味から大きく離れているため、英語の知識がむしろ「負の転移」を引き起こし、和製英語の日本語的な意味にアクセスするのを妨げると考えられる。 最後に、中国語相当語がある場合は相当語のない場合より意味理解の成績が高くなると予想する。母語に相当する語があれば、母語の知識をそのまま活用して正確に意味が理解できることが学習者にとって認知の負担が少ないと考えられる。具体的に、和製英語の理解に対する影響の程度は日本語語彙知識>中国語相当語知識>英語語彙知識と予想する。 最終的な分析は、今年12月に中国に戻り、ハルビン理工大学での実際のデータを基に行う予定である。引用文献小林善久(2013)「TVCMにおける和製英語のパイロット調査一文字テクストと音声テクストの対照を軸に一」『国立国語研究所』117―126.呉梅(2020)「中国語を母語とする日本語学習者の複合語形式の和製英語の意味推測に関する研究―日本語の語彙知識から―」『国際日本学研究論集』(12)、79―103.呉梅(2022)「中国語を母語とする日本語学習者の複合和製英語の意味推測に影響する要因」『国際日本学研究論集』(16)、13―26.柴崎秀子・玉岡賀津雄・高取由紀(2007)「アメリカ人は和製英語をどのぐらい理解できるか―英語母語話者の和製英語の知識と意味推測に関する調査」『日本語科学』21、89―110.張・玉岡賀津雄・早川杏子(2014)「和製英語の理解における英語および日本語の語彙知識の影響―中国華東地域の日本語学習者を例に―」『日本教科教育学会誌』36(4)、23―32.はじめに 日本語の中に、「和製英語」と呼ばれる語が存在する。小林(2013)によると、日本のテレビのCMの9割に和製英語が登場しており、平均すればCM1本につき2語現れているという。すなわち、日常生活では和製英語を見かける機会は少なくない。これらの語彙は、もともとの英語の意味とは異なり、日本人が独自に作った語彙である。日本語学習者の理解に関する研究が少なく、見解は統一されていない。張ほか(2014)は、英語では品詞が意味理解に影響し、特に動詞が成績を促進するとしつつ、日本語語彙知識には関連がないと述べている。一方、呉(2020)は、日本語語彙知識が意味理解に影響を与えると指摘し、呉(2022)では、母語知識が複合和製英語の意味理解に役立つと報告した。調査方法の違いから単純比較は難しい。語彙知識が中国人日本語学習者の和製英語理解に影響するのかどうか検証が必要である。本研究では、中国人日本語学習者の和製英語の理解に影響する要因を明らかにするために、日本語語彙知識、英語語彙知識と中国語相当語と和製英語の理解の関係を調査する。そして、3つの要素それぞれの影響の程度を明らかにする。和製英語の定義と分類 本研究では、日本語教育において数多く利用されている柴崎ほか(2007)の定義を採用する。柴崎らは、「英単語を短縮したり英単語を組み合わせたりして作られており、英語には存在しない日本語化された語彙」を和製英語と定義する。さらに、柴崎(2007)は、和製英語を4つに分類した。そのうち、実際に存在する英単語を組み合わせて新しい意味を表す複合語タイプの和製英語は、単純語より構成が複雑であり、意味の理解も容易ではないと推測される。例えば、「ベッドタウン」は「大都市周辺の集合住宅地」を意味する。「モーニングサービス」は「喫茶店などで、午前中にする割引メニュー」を意味する。そのため、本研究では、この複合語タイプの和製英語に焦点を絞って検討する。研究方法 本研究では、中国東北部にあるハルビン理工大学で日本語を専攻する2年生(20名)、3年生(20名)、4年生(20名)および大学院生(9名)の合計69名の日本語学習者を調査対象者とする。これらの日本語学習者に日本語と英語の語彙テストと和製英語の理解テストを実施する。重回帰分析で和製英語の理解と各要因の知識レベルとの相関関係を分析し、上記の要因(日本語語彙知識、英語語彙知識、中国語相当語)が和製英語の理解にどの程度影響するかを統計的に分析する。仮説の提示 今回議論した三つの要因、日本語語彙知識、英語語彙知識、および中国語相当語は全て複合和製英語の意味理解が成績に影響を与えることが予測される。 まず、日本語語彙知識について、日本語語彙が豊富であれば、多様な語彙知識を活用しながら意味理解に成功する可能性が高いため、和製中国人日本語学習者の和製英語の理解に影響する要因国際人間学研究科 言語文化専攻 博士前期課程1年韓 彧(カン イク)2000年中国大連市生まれ。2023年7月ハルビン理工大学を卒業し、2024年4月に中部大学大学院へ進学。専攻は日本語教育。修士論文では、中国人日本語学習者の和製英語の理解に影響する要因について調査を行う予定である。趣味は旅行。自然の風景を楽しんだり、その土地ならではの名物を味わったり、新しい場所での発見や体験は、大きな喜びである。

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