GLOCAL 2025 Vol.25(Special edition)
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院生の研究紹介院生の研究紹介院生の研究紹介院生の研究紹介54 60の問題文について、1問につき1点を配点し、60点満点にする。そして調査協力者全員に実施した正誤判断アンケート調査の統計の結果と標準偏差を計算する。さらにアンケート調査の結果をもとに学習環境によって日本語学習者が誤用しやすいO語のタイプを分析する。その結果をもとに、JFL環境とJSL環境における中国人日本語学習者のO語の誤用について対照分析を行う。 最後に、学習者による各下位分類の習得を予測するため、分類木分析を統計的手法とし、O語の習得及び誤用における要因を分析する。おわりに 本研究の考察により期待される効果は以下の通りである。まず、JFL環境とJSL環境における中国人日本語学習者の誤用しやすいO語の共通点と相違点が明らかになる。次に、学習環境がO語の習得と誤用にどのような影響を与えるかが明らかになる。以上の分析により、O語の誤用に対する理解が深まり、効果的な日本語教育方法の開発につながることが期待される。引用文献文化庁(1978)『中国語と対応する漢語』東京:大蔵省印刷局.小森和子・玉岡賀津雄(2010)「中国人日本語学習者による同形類義語の認知処理」『レキシコンフォーラム』5,165―200.王燦娟(2013)「品詞と意味における二重誤用されやすい日中同形語に関する研究」『東アジア日本語教育・日本文化研究』16、29―56.呂倬(2023)「JFL環境における中国人日本語学習者の日中同形類義語(Overlap語)の誤用:意味と品詞の誤用をめぐって」『大阪大学言語文化学』32、83―98はじめに 中国語と日本語は漢字という共通の文字を使用している。ただし、同じ漢字を使っていても、必ずしも両言語における意味が同じとは限らない。本研究では、中国人日本語学習者にとって誤用しやすい日中同形類義語に焦点を当て、JFL環境JSL環境の比較を通して、類義語の誤用の実態を明らかにすることを目的とする。日中同形語について 日中両言語における字体の差を問わず、同じ漢字を使う語は「日中同形語」または「同形語」と呼ばれる。中国語と日本語の辞書の意味記述に従い、同形語は、同形同義語、同形類義語、同形異義語に分けられる(文化庁, 1978)。日中両言語においては、多くの同形語が存在していることから、中国語を母語とする日本語学習者の日本語習得を促進する一方で、課題も存在する。特に、日中両言語を比較した際、意味が一部重なっているが、両者の間にずれのある日中同形類義語(以下O語)については、学習者が語彙を共有義の部分のみ理解・推測してしまうため、より誤用を引き起こしやすいことが問題であると先行研究で指摘されている(加藤, 2005; 小森・玉岡, 2010)。 王(2013)は、単語は意味と品詞の統一体であるため、同形語を分類する際に、意味と品詞を結びつけて行えば、より同形語の全体的な特徴を把握できると述べている。 従来の研究では、ほとんどの研究が同じ学習環境の中国人日本語学習者を対象としていた。また、多くの日中同形類義語についての先行研究では、意味と品詞とを切り離して捉えてきた。つまり、O語の意味と品詞の二重誤用についての研究はこれまで十分になされていない。 そこで、本稿では、JFL環境とJSL環境における中国人日本語学習者を調査対象とする。そして、O語の意味及び品詞を結びつけた「二重誤用」について、異なる環境での学習者の誤用実態等を明らかにする。本研究の目的と調査方法 以上のように、本研究では、O語の意味及び品詞を結びつけた「二重誤用」について、中国人日本語学習者がどのO語を最も誤用しやすいかという点について考察する。またJFL環境とJSL環境を比較し、学習環境の違いが学習者の誤用にどのような影響を与えるかを考察することを目的とする。 調査対象は、JFL環境での中国人日本語学習者として、中国のハルビン理工大学に在籍する学生30名を対象である。JSL環境での中国人日本語学習者として、日本の中部大学及び他の大学に在籍し、日本に滞在している1年以上の学生30名が対象である。なお、計60名の中国人日本語学習者は、全て日本語中上級者とする。(日本語能力試験N1かN2に合格している。または、N1かN2のレベルに相当する。) 調査はアンケート調査を用いる。コーパスや先行研究などを参考にし、学習者が誤用しやすいO語については、30語を抽出し、60の問題文を作成する。そして問題文におけるO語の意味と品詞の使用が正しいかどうかを60名の調査協力者に正誤判断文の形(「〇/×」を選ぶ)でおのおの60問に回答してもらう。中国人日本語学習者における日中同形類義語の誤用―JFL環境とJSL環境の比較―国際人間学研究科 言語文化専攻 博士前期課程1年劉 雪(RYUU Setutei)2000年中国大連市生まれ。2023年中国のハルビン理工大学を卒業。2024年に中部大学大学大学院へ進学。卒業論文では、日本語における日常用語の「誤用」をテーマにした。現在、中国人日本語学習者における日中同形類義語の誤用について研究している。趣味は旅行、撮影。
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