GLOCAL 2025 Vol26
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2国際人間学研究科 言語文化専攻 准教授竹内 美都(TAKEUCHI Mito)オハイオ大学大学院教育研究科博士課程修了。博士(学術)。広東外語外貿大学南国商学院東方言語文化学部日本語科副教授、岡崎女子大学子ども教育学部子ども教育学科講師を経て、2024年4月中部大学に着任。専門は教育社会学。多文化教育や多様性について研究をしている。著書にA Case Study of “Othering” in Japanese Schools: Rhetoric and Reality(2015, LAP Lambert Academic Publishing, 単著)など。中学生が選ぶ国際的な活動の一考察―教科書分析が示す国際化との関連から―通えないことが書かれ、バザーを開催してFPの資金を集めたいと続いている。後日援助を受けた少女から中学生へお礼の手紙が届く。手紙には、支援のおかげで、自宅のそばに新しい井戸が設置され、少女は学校へ通学できるようになったこと、また両親も大人向けの授業で読み書きを学び、自宅で一緒に勉強することを喜んでいるという内容だ。 更にコラムでFPの紹介があり、「FPとは、発展途上国の子どものために、わたしたちが日本にいながらできる支援活動です。(中略)現地からはフォスター・チャイルドからの手紙ばかりでなく、毎年成長レポートやプロジェクトレポートも届きます。一方的にお金を送るだけの支援ではなく、文通などの心の交流を通して、ともに生きる世界をめざしています」(p. 24)と書かれている。ここでも「インクルージョンとしての共生」の概念が書かれている。日本社会の同質性の維持 英語の教科書には、日本の文化や伝統を説明する英文が掲載されている。琉球の文化を代表する首里城や琉球三味線の写真がある一方、先住民族アイヌの文化については載っていない。それ以外は、マジョリティの日本人の食べ物や文化、スポーツ、年中行事などの紹介に限られる。 また、写真に着目して『心のノート』を見ると、日本の場面では、外国人は写真の中に入っていない。例えば、中見出し「公正、公平な態度で差別や偏見のない社会を」(pp. 102―103)には、22名の老若男女が2重の円になはじめに 「カンボジアの地雷撤去とミャンマーの水問題への募金活動にご協力をお願いします」2008年1月、ある中学校の全校集会で、3年生の代表生徒がこう呼びかけた。これは、「総合的な学習の時間」で、「国際理解教育」を学ぶ3年生が考えた、自分たちにできる国際的な活動であった。筆者は、その後、他クラスでも募金活動をしたいという意見を多く聞いた。その一方で、通学区域にある公営住宅の外国人住民に対する活動を選んだグループはいなかった。 なぜ地域に住む外国人を対象にした活動案が出てこないのか? 生徒たちは、教科書を参照しながら活動案を話し合っていたため、生徒たちの使用する教科書の中で、国際協力の情報が載っていた、社会(公民)(2006年発行、2005年検定済)と英語(2006年発行、2005年検定済)の教科書、道徳の副教材『心のノート』(2009年)の計3冊を調査対象として、記述の分析を行った。具体的には、「外国人」、「国際化」、「国際協力」、「国際連合(国連)」のキーワードに関連する記述と写真を調査した。本稿では、その4つの調査結果を報告し考察を試みる。国連活動への支持 社会の教科書には、「もっと知りたい 国連の活動」(p. 162)のコラムがあり、国連難民高等弁務官事務所の緒方貞子氏の難民救済と、国連カンボジア暫定統治機構代表である明石康氏の国家再建の内容が写真とともに本文で紹介されている。また、写真と写真に添えられた説明文に限られるが、戦後の日本もユニセフから学校給食や支援物資の援助を受けていたことが書かれている。なお、緒方氏が中学生に向けたメッセージは、『心のノート』にも記載されている。共生の概念から、 外国への国際協力の強調 社会の教科書「身近な国際協力をしよう」(p. 156)の大見出しの中に、国際協力の定義として、「国際社会の平和と安定のために、世界の国々や人々を支援・協力すること」(p. 156)という記述があり、更に以下のとおり続く。「相手に対して自分ができることをすることは、めぐまれない人々を救ったり、教えを授けたりすることではなく、ともに生きることを学ぶことではないでしょうか」(p. 156)。この最後の「ともに生きること」は、共生の概念である。この共生は、早川・早川(2023)が4つに分類した共生の中の「インクルージョンとしての共生」にあたり、「多様な人々が互いに個性を認め合い、コミュニティにおいて包括的に参画する」(p. 98)ことを意味するであろう。 共生の観点から国際協力の必要性を説く内容は、英語の「Our Sister in Nepal」のユニット(pp. 20―24)にもみられる。バザー開催準備中の会話文が載っているのだが、バザーの目的はネパール人少女を支援するフォスター・プログラム(FP)の寄付の設定だ。バザー参加者向けのパンフレットには、少女が毎朝遠くの井戸に水汲みに行くために学校に

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