GLOCAL 2025 Vol26

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2025 Vol.262025 Vol.262025 Vol.267なりの模倣をしていると考察する。ただ、この劇中劇「小惑星の町」は壮大なSF映画のように作られているが、提示されているのはあくまでミニマムな物語世界である。アンダーソンは、古典ハリウッド映画的な物語を参照しながらも、あくまで架空の演劇であることを観客に示唆している。おわりに　本稿では劇中劇「小惑星の町」の物語構造について紹介した。今後、修士論文では制作過程が描かれる舞台裏の物語構造とテレビ番組としての放映形式について考察していく。　このテレビ番組的枠組みは、物語の現実性を揺るがすだけでなく、観客の没入を巧妙に妨げる仕掛けとして機能しており、『アステロイド・シティ』の入り組んだ二重構造を読み解く鍵となる。今後もその物語構造を多角的に分析していく予定である。引用文献オーモン、J ベルガラ、A マリー、M ヴァルネ、M 著　武田潔訳（2000）第3章「映画と物語」『映画理論講義』勁草書房　pp. 107―185ターナー、グレアム著　松田憲次郎訳（2012）「映画における物語」『フィルム・スタディーズ　社会的実践としての映画』水声社　pp. 109―138ネイサン、イアン　鳥内哲朗訳（2022）『ウェス・アンダーソン：旅する優雅な空想家』フィルムアート社バーゴイン、ロバート著　丸山修訳（2006）「映画物語論」『映画記号論入門』松柏社　pp. 165―173Seitz, Mat Zoller（2025）The Wes Anderson Collection: Asteroid City Abrams Booksはじめに　ウェス・アンダーソン監督の映画『アステロイド・シティ』（2023）は、舞台劇「小惑星の町」の制作過程と舞台上演を示しながらもその劇を映画として表現している。映画内では制作過程に該当すると思われる部分をテレビ番組で放映し、舞台を模した映画と制作裏の同時進行という二層構造が採用されている。この複雑な物語性を分析し、なぜこの形式を採用したのかを考察していくことで、ウェス・アンダーソンの物語構造を明らかにする。本稿では劇中劇「小惑星の町」の物語構造について紹介していく。ナラティブの定義について　ボードウェルとトンプソン（2007）は、時間と空間の中で生起する因果関係をもつ出来事の連鎖をナラティブと定義する。ナラティブは一般に、ストーリーとプロットという二層から成り立ち、さらには「物語言表（レシ）」「物語内容（イストワール）」「物語叙述（ナラシオン）」という三つの具現域を用いる。本論は、物語言表（レシ）つまり映像、音声、構成などの表現レベルを手がかりとして、どのようにして物語内容が構築されているのかを考察する。　物語構造の特徴としてターナー（2012）は、均衡（平常な状態）が崩れ、不均衡な状態となり、それに抗する強力な行動によってのみ再び均衡が回復されると述べた（ターナー 2012 pp. 109―138）。　「小惑星の町」おいては、平和な町の均衡が宇宙人の襲来、そしてアメリカ政府による隔離によって崩壊するが、最終的には隔離された人々の反乱によって、物語は元の状態へと回帰していくのである。　また、「小惑星の町」は、古典ハリウッド映画と呼ばれる1930年代～60年代のハリウッドで製作された映画の物語構造に忠実な物語性を持つと考察する。劇中劇「小惑星の町」　『アステロイド・シティ』は、古典ハリウッド映画の構造を踏襲しつつ、それを極限まで縮小化した物語である。　舞台はネバダ州砂漠の町。冒頭、弾道ミサイルの輸送や原爆実験、ジュニア宇宙科学大会の発明品が対ソ連兵器化される背景が描かれる。　天体観測中に突如UFOが現れ町の象徴である隕石を奪取、主人公オーギーのみが宇宙人を撮影する。この事件を契機に町は米政府により封鎖され、住民は隔離・統制下に置かれる。政府を最大の敵とし、天才キッズが外部連絡を試みる反乱が展開される。宇宙人は危害を加えず隕石を返すだけの存在である。つまり宇宙人は映画のマクガフィンとして機能すると考える。　またジャンル的特徴としてSF、西部劇、メロドラマなど1950年代のハリウッド映画を代表するジャンル映画への敬意が込められていると考察する。ウェス・アンダーソンは、ジャンル的背景を描写全体に強く影響させ、自分『アステロイド・シティ』における古典ハリウッド映画的表現：劇中劇「小惑星の町」の分析を通して国際人間学研究科　言語文化専攻　博士前期課程2年白井　湧宇（SHIRAI Yu）2002年愛知県豊川市生まれ。2024年中部大学大学院へ進学。卒業論文は映画監督スティーブン・スピルバーグの長回し技法に着目し、全作品のショット時間を計測し、長回しが物語とどう密接しているのかを研究した。修士論文ではウェス・アンダーソン監督『アステロイドシティ』（2023）の物語構造を分析する。