GLOCAL2026 Vol27
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一Profile 国際人間学研究科言語文化専攻博土後期期課程1年杉山侑姫(SUGIYAMAYuki) 次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)に参加している。現在は、コーパスおよびアンケート調査から得られたデータを用いた言語使用実態の分析と、話者へのインタビューによる質的調査を組み合わせ、ジェンダー拉括的表現の使用傾向とその背景を明らかにすることを目指している。ジェンダーを読み解く英語コーパス研究の出発点はじめに1960年代後半以降、英語の中には性差別的な価値観を反映した言葉が含まれていることが指摘されるようになり、それを是正するためのガイドラインが数多く提案されてきた。それに伴い新たに提案された表現がどの程度定着しているのかを具体的に明らかにするコーパス研究が注目されてきた。本稿では、性差別的表現およびジェンダー包括的表現を対象とした英語のコーパス研究を取り上げ、研究者たちが何を分析対象とし、どのような指標を用いて、何を明らかにしようとしてきたのかという点に焦点を当てて、その研究の出発点を整理する。ジェンダーを読み解くコーパス研究の出発点1980年代後半以降、電子化された大規模コーパスの利用が可能になると、英語のジェンダー表現を実際の使用例に基づいて検討する研究が現れた。初期の研究では、man/womanなど性別を直接表す語の出現頻度に眉目し、その使用傾向を数量的に捉えることが主な関心であった。Kjellme「(1986)はBrown CorpusとLOBCorpusを用い、男性を指す表現が女性を指す表現よりも多く用いられていることを示し、女性が相対的に話題にされにくい社会的状況を反映しているものとして解釈された。一方で、1960年代から1990年代にかけて女性への言及が増加し、男性への言及が減少していることも報告されており、ジェンダー表現の通時的変化が指摘されている(Sigley& Holmes, 2002)。その後、研究の関心は出現頻度の比較から、語が用いられる文脈へと広がった。man/womanやboy/girlの共起語を分析した研究では、女性や少女を指す表現に、否定的評何や外見・感情に関わる語がより多く付随する傾向が指摘されている(Romaine,2000)。さらに、性別を特定しない場合の代名詞使用に関する研究も進み、singulartheyとgene「icheの比較が行われてきた。Newman(1998)は口語コーパスを用いてsingula「theyの優勢を示し、Paterson(20ll)は新聞コーパスの比較から、書き言葉においてもsingular theyの拡大を明らかにしている。ジェンダー表現に関するガイドラインでは、職業名詞における—man/-womanで終わる語が性差別的であるとして批判されてきた。これを背景に、HolmesとSigley(2002)は、1961~1990年に渡る複数の書き言葉コー)口を用い、-manで終わる職業名詞の使用頻度が有意に減少していることを示した。一方で、Holmes(2001)は、chairperson/spokespersonといった代替表現が提案されていたにもかかわらす、chai「man/spokesmanが依然として多く用いられていることを報告している。敬称に関しても変化が見られ、Holmes(2001)は、1961年に収集された英米コーパスでは、「Ms」の使用例が一件も見られない一方、1986年のニュージーランド・オーストラリア英語の新聞コーパスにおいて、「Ms」が「Miss」を上回っていることを示した。なお、「Ms」は1970年代当時、「忌まわしい言葉」や「肉食的な女性が使う呼称」といった否定的な評価を受けることも多く、既婚女性の中にはその使用をパートナーヘの不敬と感じる者もいたと報告されている(Pauwels,l 987)。こうした社会的評価を考慮することで、言語使用の変化という記録を、その時々の社会的背景と結びつけて解釈することが可能となる。まとめ英語のジェンダー表現を扱うコーパス研究は、性別を示す語の出現頻度や使用傾向を通じて、言語使用に内在するジェンダーの偏りやその変化を明らかにしてきた。しかし、比較対象となるコーパスの年代や地域が必すしも統ーされていないため、観察された差異が時代的変化によるものか、国地域差によるものかを判別しにくいという課題がある。2008年にCo「pusof Contempo「a「yAmerican Englishが公開されたことで、年代別に整備されたデータを用いた通時的分析が可能となったものの、統計手法を用いす、出現頻度の表面的な差異に主眼を置いた議論にとどまるものも見られる。以上を踏まえ、今後、年代別に整備された大規模コーパスを用い、言語使用の変化を実証的に検証したい。引用文献Holmes, J. (200 l). A corpus-based view of gender in New Zealand English. Gender across languages, l, l l 5-l 36 Holmes, J.. & Sigley, R. (2002). What's a WO「dlike girl doing in a place like this? Occupational labels, sexist usages and co「PUS「esearch.In New frontiers of corpus「esearch(pp. 247-263). Brill Kiellmer, G. (l 986) "The lesser man" obse「vationson the「aleof women in modern English writings. In J. Aa「tsand W. Meijs (eds) Corpus Linguistics II, pp_ 163-76 Rodopi Newman, M. (l 998). What can pronouns tell us? A case study of English epicenes. Studies in Language, 22(2), 353-389. Pate「son,L. (20 l l). Epicene p「□nounsin UK national newspapers: A diachronic study /CAME Journal, 35(7), 171-184 Pauwels, A. (l 987). Language in transition: A study of the title Ms in contempo「a「yAustralian society. In A. Pauwels (Ed.), Women and language in Australian and New Zealand society (pp, 129-154). Australian Professional Publications. Romaine, S. (2000). Language in Society: An Introduction to Sociolinguistics (second edition). Oxford University Press Sigley, R. and J.日olmes.(2002).'Girl-watching in corpo「aof English'. Journal of English Linguistics 30 (2), pp_ l 38-57 8

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