中部大学教育研究24
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1問題と目的1.1学修成果・教育成果の定量的評価近年、大学における教育の質保証は国際的な共通課題として認識されている。日本では1990年代以降、高等教育の大衆化・多様化に伴い、大学教育の質保証に対する関心が高まり、2004年には大学評価の認証評価制度が導入された。以後、「我が国の高等教育の将来像(答申)」(中央教育審議会,2005)、「学士課程教育の構築に向けて(答申)」(中央教育審議会,2008)、「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて(答申)」(中央教育審議会,2012)、「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について(答申)」(中央教育審議会,2014)、「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」(中央教育審議会,2018)などを通して、外部機関との連携を強化しつつ、大学が自主的に行う自己点検・評価の重要性が強調されている。具体的には、大学教育の「可視化」を進め、学修成果・教育成果を評価し、それに基づいて教育プログラムの質を改善するなど、教育内容の透明性を担保し、大学教育の質を高めることが求められている。とくに学修成果・教育成果の評価は中心的な課題であり、IR(InstitutionalResearch)の普及もあいまって、学修成果・教育成果の定量化が多くの大学で進められている。全学的なマクロレベルの定量的評価や、課程やカリキュラムといったミドルレベルの定量的評価はもちろんのこと、授業単位のミクロレベルの定量的評価は、授業担当者による授業内容の質の改善に用いられるだけでなく、マクロレベルやミドルレベルの定量的評価の構成要素の1つでもあり、非常に重要である。ただし、IRによるミクロレベルの定量的評価は、異なる授業でも共通した指標が用いられることが多く、個々の授業の教育目標に合わせた評価については、教員による試験や観察/パフォーマンス評価、学修ポートフォリオの評価など、教員個別の測定に依拠することとなる。しかし、全学共通教育科目では、複数クラスから構成される授業が少なからずあり、クラスや担当者に依拠しない客観的な教育効果検証が求められている。―1―ライフキャリア教育科目「自己開拓」の教育効果-短期集中型「自己開拓」の教育効果との比較検証-杉本英晴*1・佐藤友美*2・寺澤朝子*3要旨本研究では、2023年度におけるライフキャリア教育科目「自己開拓」の教育効果について検証することを第1の目的とした。さらに、2コマ×8回で実施されてきた短期集中型「自己開拓」の教育効果との比較検証を行うことにより、ライフキャリア教育科目「自己開拓」における教育効果の独自性を明らかにすることを第2の目的とした。分析の結果、ライフキャリア教育科目「自己開拓」は2021年度の開設から3年間一貫して、授業全体を通して性格特性における開放性の向上、自尊感情の向上、進路選択に対する自己効力の向上、時間的展望における目標指向性の獲得、キャリア・アダプタビリティの向上、コミュニケーション・スキルの他者受容や関係調整の獲得といった教育効果が明らかとなり、本授業の頑健な教育効果が示された。また、短期集中型「自己開拓」と比較すると、性格特性の勤勉性の向上や情緒不安性の低下、キャリア・アダプタビリティの好奇心の向上という側面でより高い教育効果が確認された。ライフキャリア教育科目「自己開拓」は、短期集中型「自己開拓」と比べ、自己のキャリアのみならず社会に広がるライフキャリアを幅広く取り上げていることが教育効果に影響したと考えられる。キーワードライフキャリア教育、教育効果の検証、キャリア発達*1人間力創成総合教育院客員准教授/関西大学社会学部准教授*2九州工業大学教養教育院准教授*3経営情報学部経営総合学科教授
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