中部大学教育研究23
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1問題と目的1.1大学におけるキャリア教育の課題終身雇用や年功賃金といった従来の日本的雇用慣行は、経済成長を支える重要な仕組みとして機能し(濱秋・堀・前田・村田,2011)、高度経済成長期においては、家庭における収入の安定化をもたらし、近代的な性別役割分業体制の大衆的なレベルでの成立を促したとされる(cf.関井・斧出・松田・山根,1991)。その結果、個人のキャリアパスは平準化し、近年まで「教育・仕事(家庭)・老後」という3ステージからなる単線型の人生が、多くの人に共有されるキャリアパスであった(cf.中央教育審議会,2018)。しかし、バブル崩壊後のいわゆる「平成不況」やリーマンショックは、伝統的な雇用慣行が前提としていた産業構造を大きく揺るがした。さらに、新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な大流行は、結果として、日本において生き方・働き方の多様化を促したといえよう。昨今、単線型のキャリアパスを想定することは困難になりつつあることから、個々人のキャリア発達を検討するうえでは、異なるマルチステージの複線型キャリアパスを想定することが求められている。今後、ライフコースの個人化(前田,2022)はより一層顕著となるであろう。それにもかかわらず、大学でのキャリア教育においては、教育から仕事という従来の単線型キャリアパスが想定されているかのごとく、ワークキャリアに偏重したキャリア教育が広く実施されてきた。確かに、キャリア教育が学校段階に導入された当初は若者の不安定な就業対策が必要であったこと、また大学進学率の向上に伴い大学が仕事への移行直前の主要な教育機関となったことを勘案すれば、大学におけるキャリア教育においてワークキャリアを強調することが重要であったとも考えられる。しかし、ワークキャリアに偏重したキャリア教育を受けた学生は、大学卒業後のキャリアについて、ワークキャリアの観点から捉える態度を醸成しやすいといえる。すなわち、キャリア教育においてワークキャリアを強調するほど、学生は教育から仕事への単線型キャリアパス志向に陥りかねない。1.2ライフキャリア教育の意義現状、ライフコースの個人化が進んできたとはいえ、大学生の中には、いまだに従来の産業構造や単線型キャリアパスを前提としている者が少なくない。たとえば、杉本(2023)では、客観的事実を踏まえず漠然と信じられているキャリアに対する考え方である「キャリア―1―*1人間力創成教育院客員准教授/関西大学社会学部准教授*2九州工業大学教養教育院准教授*3経営情報学部経営総合学科教授ライフキャリア教育科目「自己開拓」における教育効果の検証-2022年度授業に基づく検証-杉本英晴*1・佐藤友美*2・寺澤朝子*3要旨本研究では、2021年度に示されたライフキャリア教育「自己開拓」の教育効果が、単年度に限定されずに確認される授業特有の教育効果であるかを検討することを目的とした。授業の教育効果について検証した結果、2022年度の受講者においても、各回の授業プログラムは学生の授業に対する高いコミットメントやキャリア意識の深まりを促し、授業全体を通して性格特性における開放性の向上、自尊感情の向上、進路選択に対する自己効力の向上、時間的展望における現在の充実、目標指向性の獲得、キャリア・アダプタビリティの向上、コミュニケーション・スキルの獲得など、単年度に限定されない十分な効果を有していることが明らかとなった。今後は、本授業がライフキャリア教育として、学生の柔軟な生き方や働き方に関する資質・能力の発達を促すかについて検討する必要性が示唆された。キーワードライフキャリア教育、教育効果の検証、キャリア発達

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