中部大学教育研究2022
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ていたよりもずっと奥が深く、学ぶ価値のあるテーマだと感じた」の回答に文系・理系の統計的な有意差が見られたことの原因であるとも考えられる。4.2興味や主体性の変化(1)意欲・熱意を持って取り組めたか教育現場では「学ぶ意欲」が課題とされる。今回の中大連携活動における大学教員による講義では、第一線の研究者である講師により「本物との出会い」が工夫されていた。本物に出会うことは、驚きと感動、そして迫力を感じる機会となる。受講前後で生徒の意識がどう変わったか検討したところ、活動前よりも活動中・後の方が、生徒の活動に対する情熱が向上しているという結果が出た。これは、元々テーマや学習内容について情熱を持っていた生徒の意識をより高めるだけではなく、元々情熱を持っていない生徒に対して、テーマに対する情熱を引き出すことができたということを意味している。その理由として、第一線の研究者である大学講師が、生徒に魅力的なテーマ活動とともに、講師が直接に生徒と語り合う対話型の講義を通して、生徒に身近な存在として理解と興味を深めさせる効果があったと考えられる。生徒の想像以上に、各分野において学問の奥深さを啓発することができたといえよう。(2)テーマへの理解・新しい発見中等教育(中学校・高等学校)で「課題研究」が実施されるようになった。研究は未解決の問題に解を与える取り組みで、まだ答えが解らない課題が対象となる場合がある。それは「答えを覚えるよりも、考えるプロセスが最も重要である」という科学的な態度を学ぶ機会を生む。大学教員のテーマは、自らが第一線の研究者として取り組む課題につながり、未解決の課題に触れ、考えるプロセスを学ぶ機会となる。この特徴は、STEAM教育でも重視される。生徒を対象としたアンケートの調査結果で「学ぶ中で新しい発見や知識が得られた」という設問に肯定的な回答が多く(80%超)、「もっと学びたいという気持ちを持った」という設問にも肯定的な回答が多かった(70%超)のは、上述の効果と考えられる。4.3将来に関わる影響(1)進路選択への影響中学生の進路決定の意識に及ぼす影響は限定的であった。この高校進学後の文理選択の意思決定に及ぼす影響について、調査対象生徒の所属校は中高一貫校で文理選択は高校2年時であるため、中学生の段階では文理選択に対する意識がまだ薄いことが原因であると考えられる。大学の学部選択や職業選択については高校進学後であるので、中学生の段階では積極的な回答の割合が少なかった。本プログラムはもともとキャリア教育に位置付けた活動ではなく、文系と理系の両方に興味を持つことを大切にしている。後述の教員ネットワークでは、文理融合の交流会や文理融合研究も推進されている。Society5.0に向けた人材育成では、「文理分断からの脱却」として、より高度な内容を学びたい生徒の条件整備等を行い、文理両方を学ぶ人材を育成することを高大接続改革に示している2)。中学生にとっては、文系・理系の選択がまだ先の話であり、文系・理系の進路を具体化して自分を位置付けるのではなく、興味・関心の対象を広げることを大切にしているようだ。今回の中大連携活動では、自らの視野を広げるにあたり、研究者と「深さ」を感じる体験ができたことに意味があったと考えられる。「大学で選択したテーマについて、より深く勉強できる学部に入学したいと感じたか」という設問は、統計的に有意に理系テーマの方が肯定的な回答をした。多くの生徒が消極的な回答をしている中で、一部の少数の生徒に対して大学進学の意識を持たせるほどのインパクトは、文系テーマに比べて理系テーマの方が大きかったといえる。(2)総合評価・体験型授業の面白さ今回の中大連携活動の特徴は、大学教員が講師を務めることだが、体験的な講義内容を工夫していることとともに、単発の出前授業ではなく「シリーズ講義」によりテーマへの理解が深められることがある。生徒は講義内容をもとに、啓明祭での体験的・対話的な出展内容を創作して発表していた(図9)。総合的な満足度と評価は総じて高かった。大学教員が来校して、学年横断的に活動するという非日常的な活動に刺激を受けたことも相まっていると考えられる。また、過半数の生徒が、今後も本プログラム時間の増加を希望している。大学との連携講義により、生徒たちが学問の入門的講義に触れる機会を持たせることは、座学で得られる知識や教養だけではなく、続く高校や大学での教育に対する意識やモチベーションを向上させるため効果があり、生徒もこのような活動に価値を感じて「もっと参加したい」と考えていた。中部大学教育研究No.22(2022)―6―

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