中部大学教育研究23
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にまつわる神話(CareerMyths)」(Stead&Watson,1993)に焦点をあて、大学生が有するキャリアに対する思い込みについて検討している。その結果、「1つの仕事を生涯継続することが求められる」や「大企業・有名企業への就職は、将来の安定した生活につながる」、「学校卒業後は働くことが中心で、ライフキャリアを充実させる時間がない」などの回答が得られており、大学生が単線型キャリアパスに強くとらわれていることがうかがえる。こうした学生に対して、ワークキャリアに偏重したキャリア教育を行うことは、より単線型のキャリアパスへの傾倒を促すがゆえにライフキャリアを考慮した将来展望を困難にし、さらには、ライフキャリアやワークキャリアに対する特定の思い込みを客観的に理解する機会を逸し、そうした思い込みを強めると考えられる。実際、思い込みの内容によっては、キャリアの選択肢を最大限に探求しなくなり(Ladany,Melincoff,Constantine,&Love,1997)、十分な情報に接しないことで、キャリア神話に固執する傾向が強くなることが示唆されている(Leal-Muniz&Constantine,2005)。昨今、ワークキャリアに偏重したキャリア教育への批判から、ライフキャリアの視点を重視した教育実践が広まりつつある(前田,2022;丸山・河﨑,2016)。今後、大学におけるキャリア教育には、ワークキャリアに偏重せずライフキャリアの視点を取り入れ、ライフキャリアに関する知識を提供すること、そのうえで、ライフキャリアとワークキャリアから構成されたマルチステージの複線型キャリアパスを自ら意思決定できるような資質・能力を形成することが求められる。1.3ライフキャリア教育「自己開拓」の新設こうした背景から、中部大学で従来行われてきた「自己開拓」にライフキャリア教育を導入し、新プログラムとして考案されたのがライフキャリア教育科目「自己開拓」である(杉本・佐藤・寺澤,2022)。具体的には、仕事や家庭のみならず、趣味・市民性など多重役割を踏まえたライフ・プランニングや将来の生活に使用する資金を考えさせる金融教育などを通して多様な生き方・働き方の理解を深めることができるよう、ライフキャリアの視点や複線型キャリアパスをより強調した授業構成とした。なお、授業方法としては、従来の「自己開拓」で実践されてきた体験学習をベースとした参加型ワークショップ形式を踏襲し(ハラデレック・林・間宮・小塩,2011;小塩・ハラデレック・林・間宮,2011)、グループワーク形式のアクティブラーニングを採用した。この新プログラムの「自己開拓」は2021年度より実施され、教育効果の検証もなされた(杉本他,2022)。その結果、ライフキャリア教育科目「自己開拓」は、各回の授業において、学生による授業への高いコミットメントを促し、学生のキャリア意識を深めることが示された。また、授業全体の教育効果においても、学生は本授業を受講することで、自己理解を深め、コミュニケーション能力を向上させており、自尊感情の向上、進路選択に対する自己効力の向上、時間的展望の未来の側面の拡がり、そしてキャリア・アダプタビリティの向上など、従来の「自己開拓」とほぼ同様の十分な教育効果が得られた。さらに、コミュニケーション・スキルについての向上も確認され、従来とは異なる効果も見出された。このように、杉本他(2022)では新プログラムにおいても十分な教育効果を有する可能性が示されたが、教育効果を検証するうえでの課題も指摘されている。1つは、「自己開拓」の受講群と比較する統制群で学部の偏りがみられた点である。もう1つは、単年度限定でみられた効果である可能性が否定できない点である。これらは、示された教育効果が、2021年度に「自己開拓」を受講した学生のみに確認される可能性を示しており、ライフキャリア教育「自己開拓」の教育効果を明らかにするためには、さらなる検証が必要である。1.4本研究の目的以上より、本研究では2021年度に開発されたライフキャリア教育「自己開拓」の授業各回および授業を通しての全体的な教育効果が、単年度にとどまらず2022年度の授業においても同様に確認できるかについて検討することを目的とする。その際、2021年度に課題とされた統制群の対象者の偏りを考慮すべく、受講群と統制群の協力者の所属学部が偏らないように配慮することとする。ライフキャリア教育「自己開拓」が十分な教育効果を有するのであれば、2021年度の受講群と同様の教育効果を示すであろう。また教育効果は、統制群よりも受講群において高く見られるだろう。2方法2.1調査協力者調査協力者は、「自己開拓」の受講者(以下、「受講群」)194名と全学共通教育科目の受講者(以下、「統制群」)240名であった。それぞれの平均年齢は、受講群18.98歳(SD=0.98)、統制群18.82歳(SD=0.85)であった。なお、受講群、統制群ともに、特定の学部に偏ることはなく、工学部87名、経営情報学部76名、国際関係学部19名、人文学部75名、応用生物学部63名、生命健康科学部73名、現代教育学部36名、未回答5名中部大学教育研究No.23(2023)―2―

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