中部大学教育研究24
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1.2「自己開拓」の教育効果中部大学の全学共通教育科目に設置された「自己開拓」は、2010年度の開設当初から複数クラスが開講されたキャリア教育科目であった。そのため、授業担当者間の教育効果の差については、当初から関心が持たれつつ、授業全体の教育効果の検証が行われてきた。その結果、授業の教育効果についてクラスごとに有意な差は見られず(小塩・ハラデレック・林・間宮,2011)、2013年度までの4年間、受講生において自尊感情の向上、進路選択に対する自己効力の向上、より広い時間的展望の獲得、生活習慣を変化させるような改良型セルフ・コントロールの向上、という一貫した教育効果が示されてきた(小塩他,2011;小塩・ハラデレック・林・間宮・後藤,2012;佐藤・小塩・ハラデレック・林・間宮,2013;2014)。こうして中部大学の全学共通教育科目にキャリア教育科目が定着する中、キャリア教育に対する学生のニーズは年々高まり、受講希望者数が大幅に増加していった。そこで、クラスを拡充するにあたり、学生の受講機会が損なわれないような開講曜日・時限の調整が求められ、2014年度以降、新たなクラスが設定されることとなった。これまで土曜日に2コマ×8回構成(受講定員数40名)で開講されてきたクラスに加え、教育内容は同一で平日に1コマ×15回構成で開講するクラス、さらには教育内容の異なる平日1コマ×15回構成(受講定員数60名)で開講するクラスが設定され、教育効果の検証が行われた。その結果、60名のクラスにおいて教育効果の低下がみられ(佐藤・杉本,2015)、2コマ×8回構成のクラスの方が1コマ×15回構成のクラスよりもキャリア・アダプタビリティ〈2.2参照〉を向上させることが示された(佐藤・杉本・寺澤,2017)。これらの結果から、教育効果を高めるためには、少人数でグループワークにコミットしやすいクラスサイズで実施すること、さらには1つのテーマを1回に長い時間をかけて深く考えることの重要性が示唆されている(佐藤他,2017)。1.3「自己開拓」の発展このように2017年度の時点で、中部大学におけるキャリア教育科目「自己開拓」は、土曜日2コマ×8回構成のクラスが最も教育効果が高いことが示されてきた。しかし、土曜日、そして2コマ×8回という実施形態は、全学共通教育科目のカリキュラムに組み込みづらいだけでなく、学部によっては専門教育との兼ね合いで受講が困難であり、受講者に学部の偏りがあらわれてしまう可能性があった。そのため、平日1コマ×15回開講で十分な教育効果が認められる授業設計が課題とされた。こうした背景から、4年間の試行を経て、2021年度に新設されたのがライフキャリア教育科目「自己開拓」である。このライフキャリア教育科目「自己開拓」では、従来の「自己開拓」と同様、体験学習をベースとしたグループワーク型のアクティブラーニングを採用した。授業においては、ライフキャリアの視点や複線型キャリアパスが強調され、仕事や家庭のみならず、趣味・市民性など多重役割を踏まえたライフ・プランニングや将来の生活に使用する資金を考えさせる金融教育などを通して、多様な生き方・働き方の理解を深めることを目標とした。また、受講機会の確保という課題を踏まえ、平日1コマ×15回構成で授業設計がなされた。2021年度および2022年度の教育効果を検証したところ、自尊感情や自己効力の向上、時間的展望の目標指向性の獲得、キャリア・アダプタビリティの向上といった従来の「自己開拓」が有する教育効果のみならず、性格特性における開放性の向上やコミュニケーション・スキルの獲得など、従来の「自己開拓」にはみられなかった新たな教育効果も確認された。1.4本研究の目的このように、十分な教育効果が認められたライフキャリア教育科目「自己開拓」ではあるが、教育効果が最も高いとされた2コマ×8回で構成されている従来の「自己開拓」と同等以上の効果が認められるかについては、未検討である。そこで、本研究では新たに開発されたライフキャリア教育「自己開拓(15回構成)」(1コマ×15回構成)の教育効果について、従来の「自己開拓(8回構成)」(2コマ×8回構成)の教育効果との比較を通して検討することを目的とする。具体的には、はじめに2021年度、2022年度と授業効果と同等の教育効果が「自己開拓(15回構成)」においてみられるかを検討したうえで、自己開拓(15回構成)における受講群、自己開拓(8回構成)における受講群、統制群で、授業全体の教育効果について、比較検証を行う。2方法2.1調査協力者調査協力者は、新しく開発された1コマ×15回から構成されたライフキャリア教育「自己開拓(15回構成)」の受講者(以下、「自己開拓(15回構成)受講群」)158名、2010年に開発された2コマ×8回から構成された「自己開拓」の受講者(以下、「自己開拓(8回構成)受講群」)25名、全学共通教育科目の受講者(以下、「統制群」)199名であった。それぞれの平均年齢は、自己開拓(15回構成)受講群19.21歳(SD=1.02)、自己開拓(8回構成)受講群18.65歳(SD=0.49)、統制中部大学教育研究No.24(2024)―2―
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