中部大学教育研究24
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3.2授業全体の教育効果3.2.1各変数の尺度構成TIPI-J、自尊感情尺度、進路選択に対する自己効力尺度、時間的展望尺度、キャリア・アダプタビリティ尺度の信頼性を確認すべく、先行研究に倣い、TIPI-Jについては下位尺度ごとの項目間相関および事前調査と事後調査間の相関を、TIPI-J以外の尺度については信頼性係数(α係数)を算出した。TIPI-Jについて、下位尺度ごとの項目間相関は、外向性でr=-.58(事前)とr=-.57(事後)、協調性でr=-.21(事前)とr=-.23(事後)、勤勉性でr=-.39(事前)とr=-.28(事後)、神経症傾向でr=-.24(事前)とr=-.26(事後)、開放性でr=-.36(事前)とr=-.32(事後)であった。また、先行研究に倣い各尺度の得点化を行い事前調査と事後調査間の相関係数を算出したところ、外向性でr=.78、協調性でr=.58、勤勉性でr=.55、神経症傾向でr=.64、開放性でr=.72であった。先行研究同様、内的整合性は高くならず、再検査信頼性が高かったため、一定の信頼性を有すると考えられる。自尊感情尺度については、α=.85(事前)とα=.84(事後)の信頼性係数が得られた。進路選択に対する自己効力尺度については、α=.92(事前)とα=.94(事後)の信頼性係数が得られた。時間的展望尺度については、α=.84(事前)とα=.87(事後)の信頼性係数が得られた。また、下位尺度ごとに信頼性係数を算出したところ、過去受容でα=.70(事前)とα=.70(事後)、現在の充実感でα=.75(事前)とα=.77(事後)、目標指向性でα=.61(事前)とα=.62(事後)、希望でα=.73(事前)とα=.71(事後)と一定水準の値が得られた。キャリア・アダプタビリティ尺度については、関心でα=.83(事前)とα=.83(事後)、コントロールでα=.71(事前)とα=.78(事後)、好奇心でα=.75(事前)とα=.77(事後)、自信でα=.74(事前)とα=.75(事後)と一定水準の値が得られた。以上より、これらの尺度についても、十分な信頼性を有することが確認された。3.2.2各変数の授業を通した変化使用された尺度が十分な信頼性を有することが確認されたことから、変数ごとに加算平均点を算出し各尺度得点とした。そのうえで、各尺度得点を従属変数とし、群(自己開拓(15回構成)受講群・自己開拓(8回構成)受講群・統制群)×調査時期(事前・事後)の2要因混合計画の分散分析を行った。各群の平均値(標準偏差)と分散分析のF値および有意水準と主効果・交互作用の効果量(η2G)、さらには各群の事前と事後の平均値の差を表す効果量(dD)について、Table1に示した。なお、一般的にdD=|.20|は小さな効果、dD=|.50|は中程度の効果、dD=|.80|は大きな効果とみなされる。3.2.2.1パーソナリティの変化分析の結果、神経症傾向と開放性において、群と時期の交互作用が有意であった。そこで、単純主効果の検定を行ったところ、神経症傾向については授業前において自己開拓(15回構成)受講群と統制群が自己開拓(8回構成)受講群より有意に得点が低かったが(p<.05)、自己開拓(15回構成)受講群は授業前より後で得点が有意に低くなり(p<.01)、授業後においては自己開拓(15回構成)受講群が自己開拓(8回構成)受講群より有意に得点が低かった(p<.01)。開放性については、自己開拓(15回構成)受講群において授業前より後で得点が有意に高かった(p<.001)。なお、効果量dDについては、自己開拓(15回構成)受講群では、神経症傾向、誠実性、開放性においてdD=|.23|-|.29|を示し、授業前から授業後で神経症傾向の得点が低まる効果が、誠実性および開放性得点が高まる効果が確認された。また、自己開拓(8回構成)受講群では、外向性と開放性においてdD=.42-.49を示し、授業前から授業後にかけて外向性と開放性の得点が高まる効果が確認された。これらのことから、2023年度の自己開拓(15回構成)の受講によって、有意に開放性を高め、神経症傾向を低める可能性が示された。他方、自己開拓(8回構成)の受講によるパーソナリティの有意な変化はみられなかった。開放性については、2021年度および2022年度においても確認された教育効果であり(杉本他,2022;2023)、自己開拓(15回構成)が頑健に有している教育効果といえよう。また、神経症傾向の低下は2021年度に同様の効果がみられており(杉本他,2022)、自己開拓(15回構成)が有する可能性のある教育効果といえるかもしれない。自己開拓(15回構成)のグループワークは、授業を通して固定のメンバーで行うのではなく、授業の中でグループメンバーを3回変更することで、多様なメンバーと関わりをもつことができるように、また関係性を深めることを繰り返し行うことができるように授業を構成している。授業という構造化された場で、安心してグループメンバーとの関係性を深める体験を繰り返すことが、変動しづらい神経症傾向を低下させることに寄与していると考えられる。なお、自己開拓(8回構成)では、パーソナリティに授業を通して有意な変化は見られなかったが、効果量を検討した結果、授業を通して外向性と開放性を高める効果がみられることが示された。また、自己開拓(15回構成)では開放性と神経症傾向のほかに、授業ライフキャリア教育科目「自己開拓」の教育効果―5―

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