中部大学教育研究2022
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1問題と目的1.1新たなキャリア教育科目開発に至る経緯中部大学におけるキャリア教育は、2010年度に全学共通教育科目としてキャリア教育科目「自己開拓」が開設されたことを嚆矢とする。「自己開拓」では、「自尊感情の向上」や「ライフ・プランの設計」が主な教育目標とされ、体験学習をベースとした参加型ワークショップ形式による授業が、2コマ連続で8週間にわたり展開されてきた(詳細はハラデレック・林・間宮・小塩(2011)、および、小塩・ハラデレック・林・間宮(2011)を参照)。2021年度には開設12年目を迎えたが、大学の置かれた環境が日々変化する中、そうした変化に対応すべくキャリア教育科目の運営方法についてこれまでさまざまな改善が進められてきた。たとえば、安定的な授業開講に向けたキャリア教育を専門とする外部講師からキャリア教育を専門としない専任教員への授業担当の移行、受講希望者の大幅な増加に対するクラス数の拡充、学生の受講機会が損なわれないような開講曜日・時限の調整、2コマ連続の授業運営による教員負担の軽減など、さまざまな工夫が取り入れられてきた。ただし、こうした授業の運営方法についての改善が積極的に進められる一方で、教育内容については近年のキャリア教育の動向を勘案すると検討の余地が残されている。そもそも大学におけるキャリア教育は、2011年にキャリア・ガイダンスの義務化が大学設置基準に導入されて以来、大学教育に急速に浸透していった。各大学はキャリア教育を教育課程内で実施すべく、大学独自の教育を展開してきた。しかし、現行のキャリア教育は、正規雇用されることを目的とする「正社員モデル」が前提とされ、就労に焦点化されすぎている(児美川,2013)。教育の関心が職業準備に過度に傾斜すると、批判的思考や問題解決能力、社交スキルや労働倫理、シティズンシップやコミュニティへの責任、体育や芸術など学校教育が本来果たしうる多様な役割を封殺し、教育をゆがめてしまう(広田,2015)。こうした指摘を勘案すると、大学のキャリア教育において教育内容がワークキャリアに偏重しないように教育内容を設定することが肝要である。キャリア教育が社会的・職業的自立を目指す教育であることを踏まえると、仕事などのワークキャリアのみならず、生活や生き方に関するライフキャリアの視点を重視したライフキャリア教育の充実は喫緊の課題といえるだろう。とはいえ「自己開拓」は開設当初から、順調な就職活動、安定した社会人生活のような目標設定では不十―13―*1人間力創成教育院客員准教授/関西大学社会学部准教授*2九州工業大学教養教育院准教授*3経営情報学部経営総合学科教授ライフキャリア教育科目「自己開拓」の開発および教育効果の検証-2021年度授業に基づく検証-杉本英晴*1・佐藤友美*2・寺澤朝子*3要旨本研究では、大学におけるキャリア教育の近年の動向を勘案し、従来行われてきた「自己開拓」を発展させるべく、ライフキャリアの教育内容を導入したライフキャリア教育科目「自己開拓」の開発を行い、その教育効果の検証を行った。その結果、新たに開発された「自己開拓」は、各回の授業プログラムにおいて学生の授業に対する高いコミットメントやキャリア意識の深まりを促し、授業全体を通して自尊感情の向上、進路選択に対する自己効力の向上、時間的展望の未来の側面の拡がり、キャリア・アダプタビリティの向上、さらにはコミュニケーション・スキルの獲得など、十分な教育効果が確認され、教育目標の到達を示すものであった。今後も継続的に教育効果の検証を行い、単年度に限定されない教育効果を有しているかについて、検討する必要性が示唆された。キーワードライフキャリア教育、教育効果の検証、キャリア発達

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