中部大学教育研究24
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ンスを踏まえたライフ・プランニングや多様な働き方・生き方の理解、シチズンシップ教育、金銭・金融教育など多様な教育内容から構成されている。こうした教育内容は、高等学校までの教育課程で触れる機会は少なく、自己開拓(15回構成)でこれらについて自分事として理解を深めることにより、キャリアに対する好奇心をより高める効果が見いだされたものと考えられる。3.2.2.6コミュニケーション・スキルの変化分析の結果、コミュニケーション・スキルについては、群と時期の交互作用が表現力と自己主張において有意であり、他者受容と関係調整で有意傾向であった。そこで、単純主効果の検定を行ったところ、表現力は、授業前に群間の有意差はなかったが、自己開拓(15回構成)受講群、自己開拓(8回構成)受講群で、授業前より授業後の得点が有意に高く(15回構成:p<.001;8回構成:p<.05)、授業後において自己開拓(15回構成)受講群が統制群より得点が高い傾向がみられた(p<.10)。自己主張性と他者受容は、自己開拓(15回構成)受講群において、授業前より授業後で得点が有意に高かった(自己主張性:p<.001;他者受容:p<.01)。関係調整は、自己開拓(15回構成)受講群、自己開拓(8回構成)受講群で、授業前より授業後の得点が有意に高かった(15回構成:p<.01;8回構成:p<.05)。なお、効果量dDについては、自己開拓(15回構成)受講群では表現力、自己主張、他者受容、関係調整においてdD=.23-35を示し、授業前から授業後にかけて表現力、自己主張、他者受容、関係調整の得点が高まる効果が確認された。自己開拓(8回構成)受講群では自己統制、表現力、解読力、自己主張、他者受容、関係調整においてdD=.25-64を示し、授業前から授業後にかけてコミュニケーション・スキルの得点が全体的に高まる小から中程度の効果が確認された。これらのことから、2023年度の自己開拓(15回構成)の受講によって、コミュニケーション・スキルの表現力、自己主張、他者受容、関係調整を有意に高めることが明らかとなった。なかでも、他者受容、関係調整の教育効果は、2021年度および2022年度で同様に確認されており(杉本他,2022;2023)、自己開拓(15回構成)の有する頑健な教育効果であると考えられる。また、従来の自己開拓(8回構成)においても、受講によってコミュニケーション・スキルの表現力と関係調整を有意に高めることが示された。また、効果量を勘案すると、コミュニケーション・スキルを全体的に高める効果を有していることが示された。そのため、今年度の結果からは、自己開拓(8回構成)のほうが自己開拓(15回構成)よりも受講によって大きな効果がもたらされると考えられる。ただし、佐藤他(2017)では、従来の自己開拓(8回構成)の受講はコミュニケーション・スキルを有意に低下させることを明らかにしており、今年度の効果と一貫しておらず、自己開拓(8回構成)がコミュニケーション・スキルを高める効果を有しているとは断定できない。コミュニケーション・スキルの獲得については、新型コロナウイルス(COVID-19)の流行前後で大きな違いがあると考えられる。流行前は、対人関係を築くことや交流する機会をもつことは当然のものとされておりコミュニケーション・スキルは自然に獲得されている部分も大きかったが、流行後は対面での交流が難しくなったため、コミュニケーション・スキルの獲得の機会自体が阻害された。その結果、流行後は他者とのつながりやコミュニケーションの価値が再評価されたといえよう。実際に、新型コロナウィルス流行後の2021年度の「自己開拓」の受講に際し、自身のコミュニケーション能力の向上のみならず,多様な他者と交流したい,他者の視点を理解したいというように「自己開拓」で展開されるグループワークで,知らない他者と関わることに期待していることが明らかにされている(杉本他,2022)。こうした期待が、自己開拓(8回構成)においてこれまでと異なる影響を及ぼした可能性があり、今後継続して検討することが求められる。4まとめと今後の課題4.1新プログラムの一貫した教育効果2021年度に開発されたライフキャリア教育科目「自己開拓」は2023年度で実施3年目をむかえた。そこで本研究では、ライフキャリア教育科目「自己開拓」が有する一貫した教育効果について検討することが目的の1つであった。まず、授業の各回における学びについて、学びへのコミットメントとキャリア意識の深まりの観点から検討した結果、2021年度および2022年度と同様、学生は授業に積極的に取り組み、授業内容の理解・関心を深め、キャリア意識を醸成していることが示された。とりわけ、キャリア意識については、2021年度・2022年度よりも、受講者が授業を通して自分の人生や将来の生き方への関心を高め、自身のキャリアに関連付けて考えることをより促していた。本授業は、全学共通教育科目に位置付けられ、授業担当者はそれぞれ専門分野をもち、元々キャリア研究領域を専門とする者はいない。しかし、3年の実施を通して、担当教員におけるキャリア教育の実施に対する熟達が進んだことが、本研究結果からうかがえる。次に、授業全体の教育効果については、2021年度かライフキャリア教育科目「自己開拓」の教育効果―9―

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