中部大学教育研究2022
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教授方法については、従来行われてきた体験学習をベースとした参加型ワークショップ形式を踏襲し、グループワーク型のアクティブラーニングを採用した。また杉本(2019)に倣い、授業で使用するワークシートはできる限り抽象度を下げる、個別ワークからグループワークへと展開することでフリーライダーの出現を抑制するなど、グループワークが主体的な実践となるように工夫を施した。2017年度から開発をはじめ、4年間の試行段階で授業担当者からの意見を仰ぎつつ、さまざまな調整を加えた。開発をはじめて5年目の2021年度に、暫定的な完成に至ったため、3クラスで実施した。1.3本研究の目的以上のように、新たなキャリア教育科目として、ライフキャリア教育科目「自己開拓」が開発されたが、この新プログラムが、実際に授業の教育目標を達成し、キャリア発達を促すプログラムとなっているか、その教育効果についての検証が必要である。従来の「自己開拓」においては、開発当初から7年間、教育効果の検証を継続的に実施し、十分な教育効果を有する授業プログラムであることを明らかにしている(小塩他,2011;小塩・ハラデレック・林・間宮・後藤,2012;佐藤・小塩・ハラデレック・林・間宮,2013;佐藤・小塩・ハラデレック・林・間宮,2014;佐藤・杉本,2015;佐藤・杉本,2016;佐藤・杉本・寺澤,2017)。心理的側面の変化に着目した教育効果測定を総括すると、「自己開拓」の授業を受講することによって、受講生の自尊感情の向上、進路選択に対する自己効力の向上、時間的展望の拡がり、そしてキャリア・アダプタビリティの向上が見出されている。またこうした短期的な教育効果のみならず、「自己開拓」を受講した学生と受講しなかった学生の進路選択状況を比較する長期的教育効果の検証もなされてきた(杉本・佐藤・寺澤,2014;杉本・佐藤・寺澤,2015;杉本・佐藤・寺澤;2017)。その結果、低年次で自己開拓を受講した学生は受講していない学生に比べ、3年次の就職ガイダンスにより積極的に参加し、卒業時点でより多くの学生が進路を決定していることが明らかにされている。そこで本研究では、新たに開発されたライフキャリア教育科目「自己開拓」の教育効果について検証することを目的とする。具体的には、量的調査による1)授業各回の教育効果の検証、2)授業全体の教育効果の検証、および、質的調査による3)授業全体の教育効果の検証、を行う。調査内容および調査実施デザインは、従来の「自己開拓」との比較検討を可能にするため、ほぼ同様の手法を用いることとする。2方法2.1調査協力者調査協力者は、「自己開拓」の受講者(以下、「受講群」)120名と全学共通教育科目の受講者(以下、「統制群」)92名であった。なお、2021年度はコロナ禍での制約があり、統制群は比較的目的意識が高く、コミュニケーション能力の高い医療系の学科に所属している学生に偏っていた。平均年齢は、受講群18.91歳(SD=0.92)、統制群19.07歳(SD=0.94)であった。2.2調査内容授業各回の教育効果を検証するため、授業での学びに関する調査内容を準備した。授業での学びキャリア教育科目の授業の教育効果測定を想定し、授業での学びを測定する尺度を作成した。本尺度は、学びへのコミットメント(「授業の目的を意識して授業を受けることができた」など)とキャリア意識の深まり(「自分の人生や将来の生き方に対する考え方が広がった」など)の2つの側面からなる10項目で構成されている。授業を受講した自分自身にどれくらい当てはまるかについて「そう思わない」「ややそう思う」「そう思う」「とてもそう思う」「非常にそう思う」の5段階で回答を求めた。この尺度によって測定されたそれぞれの得点が高得点であるほど、授業を積極的に受講し授業内容の理解・関心を深めたと捉えていること、また、キャリア意識が深まったと認識していることを意味する。さらに、授業全体の教育効果を検証するため、佐藤・杉本・寺澤(2017)と同様の調査内容を準備した。ビッグファイブ・パーソナリティパーソナリティを外向性(活発さ、社交性)・協調性(やさしさ、利他性)・勤勉性(まじめさ)・神経症傾向(情緒的な不安定さ)・開放性(知的な柔軟さ)の5つの側面から測る、小塩・阿部・カトローニ(2012)による日本語版TenItemPersonalityInventory(TIPI-J)を使用した。本尺度は10項目で構成されており、自分にどれくらい当てはまるかを「全く違うと思う(1点)」から「強くそう思う(7点)」までの7段階で回答を求めた。自尊感情自分を肯定的に捉え、自信があり、自分に満足している傾向を意味する自尊感情を測る、自尊感情尺度(桜井,2000)を使用した。本尺度は10項目で構成されており、現在の自分に当てはまるかについて「いいえ(1点)」から「はい(4点)」までの4段階で回答を求めた。進路選択に対する自己効力進路選択に対する自己効力尺度(浦上,1995)は、進路選択に対して認知された効力予期すなわち自己効力を測定する尺度である。ライフキャリア教育科目「自己開拓」の開発および教育効果の検証―15―

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