中部大学教育研究23
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4まとめ4.1新プログラムが有する教育効果本研究では、ライフキャリア教育の視点を取り入れた新プログラムの「自己開拓」について、2021年度にみられた教育効果が単年度限定の効果ではなく、2022年度も同様に確認できるかを明らかにすることを目的とした。はじめに、毎回の授業における教育効果を検証した結果、2022年度の「自己開拓」受講者において、授業での学びは高く評価されており、新プログラムは、授業への高いコミットメントを促し、キャリア意識を深めることが示された。本結果は、2021年度と同様であり、新プログラムの教育効果は単年度に限定されない可能性が示された。次に、授業全体の教育効果について検証した結果、性格特性における開放性の向上、自尊感情の向上、進路選択に対する自己効力の向上、時間的展望における現在の充実、目標指向性の獲得、キャリア・アダプタビリティの向上、コミュニケーション・スキルにおける解読力・他者受容・関係調整の獲得など、2021年度と同様の教育効果が示された。すなわち、これらの教育効果は、2021年度に限定されない効果であり、新プログラムがもつ教育効果であると考えられる。これらのことから、「自己開拓」の新プログラムは、単年度に限定されない十分な教育効果を有する可能性が示されたといえよう。本授業では、ライフキャリアの視点を取り入れ、自己理解を深めるために、授業前半では自己や他者の視点から自己理解を促した。そうした自己理解に基づいて、授業の後半では他者のライフキャリアと比較しつつ自身のライフキャリアを考えたり、他者と異なる自分がいかにライフキャリアを構築するかを考えたりと、現実的なライフキャリアを想定しつつ統合的な自己理解をはかっている(杉本他,2022)。大学生にとってライフキャリアについて考えることは、ワークキャリアよりも相対的に容易であり、さらには、他者との比較の中で将来について段階的に理解を深めていくことにより、学生自身が抱きやすい将来のキャリアについて考える際の心理的抵抗感をおさえ、主体的な授業参加を促したものと考えられる。ライフキャリア教育は、キャリア教育の本来的な理念を勘案すると教育内容がワークキャリアに偏重しないという点から重要であるが、学生の授業に対する主体性を促すという点からも意義があると考えられる。4.2新プログラムがもたらす波及効果ところで、大学適応に目を向けてみると、これまで入学当初に抱いていた大学生活や将来に対する希望を、大学生は入学後、徐々に失っていくことがさまざまな研究で明らかにされてきた。たとえば半澤(2007)では、大学における学業イメージや期待が、大学での専門的な学業に、さらには大学で学んだことを生かした仕事に就くことにつながっているという時間的連続性に着目し、これらが大学入学後に学業に対するリアリティショックを感じることによって崩壊すること、さらにはリアリティショックが学業意欲や授業意欲を低下させることを示唆している。これまでも時間的展望やキャリア関連指標において、学年間で比較すると2年生が最も不適応的になることから、“sophomoreslump”(cf.Baumgardner,1976)として古くから注目を集め、支援プログラムの策定も行われている(O'Connor,2016)。本研究においては、とりわけ、自尊感情や時間的展望における現在の充実感といった現在の自己に関連する変数と、進路選択に対する自己効力やキャリア・アダプタビリティといったキャリアに関連する変数は、“sophomoreslump”の影響を受けやすい変数であるといえるだろう。しかし、「自己開拓」を受講するかしないかで授業前にこれらの変数に違いはみられなかったにもかかわらず、「自己開拓」を受講した者のみが授業を通してこれらを獲得し、授業後には受講していない者よりも高い水準になることが明らかとなった。また、統制群においては、これらの変数の大きな変化はみられなかった。すなわち、自己形成やキャリア形成を促す「自己開拓」の新プログラムは“sophomoreslump”を抑制し、大学適応にも貢献していると考えられる。したがって、低年次に自己形成やキャリア形成を促すようなライフキャリア教育を履修できるようにカリキュラムマネジメントを行うことは、非常に意義があると考えられる。4.3新プログラムを受講する学生の特徴ただし、「自己開拓」の新プログラムの教育効果については、「自己開拓」が選択科目であるために、本授業を選択する学生の特徴の影響も考慮する必要があるだろう。2022年度の「自己開拓」受講者は、授業前の時点で、ビッグファイブの外向性・開放性・神経症傾向が高く、協調性・勤勉性が低い、また、コミュニケーション・スキルの自己統制や解読力が低い特徴がみられた。こうした傾向の一部は、従来の「自己開拓」にも確認された特徴であり、従来から「自己開拓」を受講しようとする学生は、自身の将来やコミュニケーション・スキルに不安を抱えてはいるものの、それを乗り越えようと、教育内容や教育方法を吟味したうえで授業を主体的に履修している様子がうかがえる。そのため、「自己開拓」の受講者は、もともと授業に対する主体的な態度を有している学生であり、授業を通中部大学教育研究No.23(2023)―10―

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