中部大学教育研究24
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らの3年間、一貫して性格特性における開放性の向上、自尊感情の向上、進路選択に対する自己効力の向上、時間的展望における目標指向性の獲得、キャリア・アダプタビリティの関心・コントロール・好奇心・自信の向上、コミュニケーション・スキルの他者受容・関係調整の獲得がみられた(杉本他,2022;2023)。これらは、進路意思決定や対人関係の構築を促す要因であり、全学共通教育におけるキャリア教育として、ライフキャリア教育科目「自己開拓」は十分な教育効果を有しているといえるだろう。なお、2010年度の「自己開拓」開講当初から、学修成果・教育成果の評価を可視化すべく、教育効果検証が行われてきた。2021年度から3年間、新プログラムの教育効果検証についても実施され、新プログラムの学修成果・教育成果の評価の一端を可視化することができたものと考えられる。複数クラスから構成される授業の場合、教育内容を同一にしても担当者による教育効果の違いはしばしばみられる。しかし、学修成果・教育成果の評価は、教員個別の測定に依拠する場合が多く、クラスや担当者に依拠しない客観的な教育効果検証が求められている。本研究では、クラスや担当者に依拠しない教育効果が「自己開拓」にみられることが示されたが、このように教育効果を確認しながら、授業の改善を行っていくことは、本授業はもちろん、ほかの授業においても重要であろう。その結果、大学教育の質は確実に高まっていくと考えられる。4.2短期集中型「自己開拓」との比較検証さらに本研究では、1コマ×15回で構成されるライフキャリア教育「自己開拓」の教育効果について、2コマ×8回で構成される従来の「自己開拓」との比較検証から検討を行うことも目的の1つであった。その背景には、キャリア教育科目の受講希望者の大幅な増加に対して、土曜日開講・短期集中型の授業設計では対応できないこと、教育内容を同一のまま1コマ×15回構成の授業設計では十分な教育効果が得られなかったこと(佐藤・杉本,2017)があげられる。新プログラムのライフキャリア教育科目である自己開拓(15回構成)と従来から行われてきた短期集中型の自己開拓(8回構成)の教育効果について検証したところ、自己開拓(8回構成)では履習者数が少なかったため、有意な効果があまり確認されなかった。そこで、効果量をもとに比較検証したところ、自己開拓(8回構成)は自己開拓(15回構成)に比べ、とりわけ自尊感情の向上や時間的展望の拡大、さらにセルフ・コントロールとの関連性の強いキャリア・アダプタビリティのコントロールや自信の向上という側面でより高い教育効果が確認された。これらは、先行研究と同様の効果といえ、自己開拓(8回構成)の教育効果の特徴といえるだろう。他方、自己開拓(15回構成)は自己開拓(8回構成)に比べ、性格特性の勤勉性の向上や情緒不安性の低下、キャリア・アダプタビリティの好奇心の向上という側面でより高い教育効果が確認された。自己開拓(8回構成)はより限定された自己のキャリアについて深く取り上げる授業構成であるのに対し、自己開拓(15回構成)は自己のキャリアのみならず社会に広がるライフキャリアについて幅広く取り上げる授業構成である。こうした授業構成の違いが、それぞれの教育効果の違いとしてあらわれたものと考えられる。4.3今後の課題本研究では、2021年度より実施されているライフキャリア教育科目「自己開拓」が有する一貫した教育効果が示された。しかし、あくまでもこれらの教育効果は、授業を通した即時的・短期的な教育効果といえる。ここで確認された「自己開拓」のキャリア教育としての効果がその後の学生生活やキャリア意思決定に影響を及ぼすのかについてはさらなる検討が必要である。これまでに、2010年度に開発された短期集中型の「自己開拓」については、即時的・短期的な教育効果のみならず、長期的な教育効果を有していること、すなわちその後のキャリア意思決定にまで影響を及ぼすことが明らかにされている(杉本・佐藤・寺澤,2014;2017)。今後、ライフキャリア教育科目「自己開拓」も長期的な教育効果を有しているのかを検証することが課題としてあげられる。また、本研究では短期集中型の「自己開拓」とライフキャリア教育科目「自己開拓」が異なる教育効果を有している可能性が示された。ただし、本研究で検証された指標は、短期集中型の「自己開拓」の教育効果を検証する際に用いられた指標である。プログラム間の教育効果の比較検証のためには、指標を同一にする必要があったが、たとえばライフキャリア意識の発達を測定できる指標などを用いることで、ライフキャリア教育科目「自己開拓」の独自の効果も検証する必要がある。こうした検証は、さらなる学修成果・教育成果の評価を可視化することにつながり、授業内容の改善やカリキュラム改善といった大学教育の質におけるミクロレベル、ミドルレベルの向上に大きく役立つだろう。また、大学におけるキャリア教育は、専門教育の学びの意味づけを高めるため、大学におけるキャリア教育の質向上は、大学教育におけるマクロレベルの質向上に貢献できるものと考えられる。中部大学教育研究No.24(2024)―10―

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