中部大学教育研究25
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巻頭言人間は生まれつき、知ることを欲するこのタイトルは、2300年以上も前の哲学者アリストテレスの言葉です。しかし、もしこの説明を小中学生が聞いたら、子供達には疑問が湧きます。書物が普及していたわけではないそんなに昔の言葉がなぜ、どのようにして今に伝えられているのか?そんな昔に哲学者という職業の人がいたのか?当然のように浮かび上がる疑問は、学ぶことの入り口になります。人は、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚などの感覚器を通して様々な情報を入力し、それぞれの意味するところを処理・統合し、解釈し、知ること=理解に繋げています。目の前にボールが飛んでくれば、捕球するかボールを避けるか瞬時に反応します。おいしそうな香りが漂えば、食べ物がどこにあるか探そうとします。現生人類(ホモ・サピエンス)が現れたのは30万年前と言われています。その前にネアンデルタール人、デニソワ人などの旧人類がいましたが、ホモ・サピエンスとの競合の中で交代していきました。ホモ・サピエンスが生き延びた背景には、遺伝子の変異により優れた脳神経系をもつ系統に進化して認知機能が高くなり、具体的な物や現象を伝える言葉が発達し、情報を言語により記憶し周りと共有できた点も要因になったと言われています。地球の歴史と比べれば一瞬ともいえる人類の歴史の中で、人間が築いてきた知の体系・伝統は人類の知的財産です。高等教育機関は、その知の体系を次世代に伝えること、そして議論し研究を進めて新しい知を加え、更新していくことを大きな役割としています。利害関係のない環境の中で、論理的な概念や自然現象の原理を学ぶことができます。そのことは人類の知恵として、物、現象、人、社会を理解していくことに繋がるけれど、すぐさま何かの利益になる、儲けになるというものではありません。しかし、英国でも議論がされているように、"ValueforMoney"(学生は金銭的な投資に見合った価値を得ているか)という観点も出ています。これは一面的な見方ですが、無視しづらい点でもあります。大学では具体的な資格を得て将来の職業のプロに育成する学科、あるいは将来の専門家に必要な専門知識とスキルの付与を目的とする学科が設置されています。将来のプロにふさわしい能力を身につけることで、それにふさわしい職を得ることに繋がるという意味では、投資に見合う価値を得ていることになります。大学は、人として、国際人としての教養(リベラルアーツ)を学ぶ場であり、専門性を身につける場でもあります。そのことを前提としてカリキュラムが組まれています。人生において得る好機は、教育により増えます。さて、中央教育審議会は、本年2月に『我が国の「知の総和」向上の未来像~高等教育システムの再構築~』を答申しています。ここでは、「知の総和」(数×能力)としています。たとえ留学生が増えたとしても我が国の学生総数は減少していきますので、大学での教育の質を高め、学ぶ者の能力を高めることに力点が置かれています。多くの教員が、どのようにしたら効果的に学問を伝え、学生が意欲をもって学んでくれるか、学ぶことへの火をつけてくれるかを工夫し、そして学んだ結果が知識やスキルとしてどのように身についたかを検証しつつ授業を担当されています。『中部大学教育研究(JournalofChubuUniversityEducation)』は、1979年創刊の『教育資料』が、2001年に衣替えをしたもので、今回第25号となります。それぞれの分野、それぞれの視点での研究成果と実践がこの小冊子にまとめられています。具体的でもあり、たいへん貴重な記録です。多くの方に読んでいただければ幸いです。2025年12月中部大学学長前島正義
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