中部大学教育研究24
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1はじめに小児看護学実習は、小児看護の知識・技術の統合を図り、対人関係能力や倫理観を養うための重要な機会である1)。しかしながら、少子化や核家族化、在院日数の短縮化の影響により、小児看護学実習を取り巻く状況は年々厳しくなっている。多くの学生が子どもと関わる機会を得られないまま実習に臨み、児を受け持つ日数も短い。本学の小児看護学実習においても、児の受け持ち期間は3~4日間が最も多く、短期入院の受け持ちが全体の49%を占めているというのが現状である。また、看護系大学の増加等により、小児看護学実習における実習施設の確保が不安定な状況にある大学は154校(52%)にのぼる2)。このような短い期間や限られた実習場所の中で、子どもとの接触経験が少ない学生が、子どもを多角的に理解し信頼関係を築きながら看護ケアを追求することは容易ではない。実際に、学生は、実習において知識・技術や患者との関わりに不安を感じている3)。本学でも、臨地実習において学生とケアの振り返りをすると、うまくできたことより、うまくできなかったというネガティブな内容を語ることが多い。しかし、実習を継続する中で、ネガティブな感情から「楽しかった」とポジティブな感情に変化して実習を終了する学生もいる。このような感情の変化について、基礎看護学実習や成人看護学実習における先行研究では、医療者や教員による安心感をもたらす配慮などの外的要因や、患者との関わりの面白さや難しさの実感、看護の学びの習得、看護ケアや看護過程の実践などの内的要因があった際に、「楽しい」や満足感といったポジティブな感情を感じる実習体験をしていると示されている4)5)。ポジティブな感情は、学生に内発的動機付けをもたらし、学びに効果的な意味付けをするだけでなく、看護職者としてのアイデンティティの形成を促す6)と考えられる。また、領域別実習を終了した大学4年生において、楽しさの経験値が高い群は自己効力感が有意に高いという報告もある7)。これらより、臨地実習において、学生のポジティブな感情の獲得に向けた教育支援は重要であると考える。しかしながら、小児看護学実習では、患児の拒否的な反応や援助技術の未遂行による落胆、疾患だけでなく発達もふまえた知識の統合の複雑性といった学習・実践内容の特殊性より、学生は小児看護学実習に困難を抱きやすい8)。加えて、本学では短期入院の受け持ちが多いため、さらに、学生がポジティブな感情へ至るための継続的な関わりをすることが困難であると推察される。小児看護学実習における学生の困難感に対する学生自身の対処として、指導者の助言や模倣、学生同士の励ましの他に、患児と根気強く継続的に関わ―13―看護学生が小児看護学実習の中でポジティブな感情に至る要因の検討新家彰子*1・清水いづみ*2・石井真*3・大村知子*4要旨小児看護学実習を履修する学生の、実習開始前の感情、および実習終了時のポジティブな感情に至るまでに影響する要因を明らかにすることを目的に、小児看護学実習をポジティブな感情で終了した本学科4年生11名を対象にインタビュー調査を行った。その結果、実習開始前の要因は、【学生の個性】【育まれる小児実習への期待と実感】が抽出された。実習中の要因としては、【実習しやすい病棟】【看護師の尊敬できる価値観】【患児との親密性の実感】【家族との信頼関係】【学びの実感】【良好なメンバーとの関わり】【教員による学びの支え】であった。実習前のポジティブな感情は実習への内発的動機付けとなりうるため、学生の小児看護学実習への期待、不安を把握することが大切であると示唆された。実習中のポジティブな感情は、患児や家族との良好な関わりを通して育まれ、指導者・教員には、学生が学びを実感できるような指導が求められることが再認識された。キーワード看護学生、小児看護学実習、ポジティブ感情、ネガティブ感情、実習指導*1看護実習センター助教*2愛知県立大学看護学部講師*3生命健康科学部保健看護学科准教授*4生命健康科学部保健看護学科教授

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