中部大学教育研究2022
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開拓の受講者は、自尊感情を高め、受講しなかった者よりも高い自尊感情を有することが示された。これは、従来の自己開拓で示されてきた効果と同様であり、新プログラムも今年度の受講者においては自尊感情を高める効果が示された。3.2.2.3進路選択に対する自己効力の変化分析の結果、群と時期の交互作用が有意であった。そこで、単純主効果の検定を行ったところ、進路選択に対する自己効力は、授業前において受講群が統制群より得点が低い傾向にあり(p<.10)、受講群において授業前より後で得点が有意に高かった(p<.001)。つまり、受講前に自信をもって進路選択ができると強く思えない学生が「自己開拓」を受講しているが、受講した結果、進路選択に対する自己効力を受講していない学生と同水準にまで高めていることが示された。これは、従来の自己開拓で示されてきた効果と同様であり、新プログラムも今年度の受講者においては進路選択に対する自己効力を高める効果が示された。3.2.2.4時間的展望の変化分析の結果、群と時期の交互作用が有意であった。そこで、単純主効果の検定を行ったが、有意な単純主効果は認められなかった。つまり、自己開拓の受講によって時間的展望に変化は認められなかった。従来の自己開拓は受講者において時間的展望が拡がることが示されてきたことを勘案すると、新プログラムは時間的展望に変化をもたらすには不十分であるといえる。ただし、時間的展望の変化をより詳細に明らかにするため、時間的展望の下位尺度ごとに検討したところ、現在の充実感で群と時期の交互作用が有意であり、目標指向性と希望で群と時期の交互作用が有意傾向であった。そこで単純主効果の検定を行ったところ、希望は有意な単純主効果が得られなかったが、現在の充実感は統制群において授業前より授業後で得点が低い傾向にあり(p<.10)、目標指向性は授業前において受講群が統制群より得点が低い傾向にあり(p<.10)、受講群において授業前より後で得点が有意に高かった(p<.01)。すなわち、自己開拓の受講者は、授業前、将来を自ら目標をもって切り開いていくという自信をあまり持つことはできていない。しかし、大学生活が進むにつれて自己開拓を受講していない学生が現在の充実感を低下させていく中で、自己開拓を受講することによって、将来を自ら目標をもって切り開いていく自信を高めることができ、現在の充実感を受講していない学生のように下げることなく維持していることが示された。このことから、従来の自己開拓が時間的展望全般を拡げる効果を有していたのに対し、新プログラムは今年度の受講者においては、とりわけ時間的展望の未来の側面により効果を示したといえる。新プログラムは、キャリア・ストーリーやライフ・プランニングの内容を取り上げる際、シティズンシップを含めたワーク・ライフ・バランスや様々な働き方や生き方など、卒業後の自分を想定する内容を設定したこと、さらにはそれらを自己と関連付けて考えることができたことが教育効果としてあらわれたものと考えられる。3.2.2.5キャリア・アダプタビリティの変化分析の結果、キャリア・アダプタビリティの4下位尺度すべてで群と時期の交互作用が有意であった。そこで、単純主効果の検定を行ったところ、キャリア・アダプタビリティのすべての側面で、受講群において授業前より後で得点が有意に高かった(ps<.001)。また、好奇心は、授業後において受講群が統制群よりも有意に得点が高かった(p<.05)。自信は授業前において受講群は統制群より有意に得点が低く(p<.05)、統制群において授業前より後で得点が低い傾向にあり(p<.10)、授業後において受講群は統制群より得点が高い傾向にあった(p<.10)。つまり、「自己開拓」を受講することによって、キャリアにおける新しいあるいは変化した環境に適応できる資質である関心、コントロール、好奇心、自信が高くなることが示された。これは、従来の自己開拓で示されてきた効果と同様であり、新プログラムも今年度の受講者においてはキャリア・アダプタビリティを高める効果が示された。3.2.2.6コミュニケーション・スキルの変化分析の結果、コミュニケーション・スキルの自己統制、解読力、他者受容、関係調整で群と時期の交互作用が有意であった。そこで、単純主効果の検定を行ったところ、これら4つのコミュニケーション・スキルで、事前において受講群は統制群よりも得点が有意に低く(自己統制のみp<.001、その他はps<.05)、受講群において授業前より後で得点が有意に高かった(解読力のみp<.01、その他はps<.05)。また、自己統制は、統制群において授業前より後で得点が有意に低く(p<.05)、解読力は、統制群において授業前より後で得点が有意に低い傾向にあった(p<.10)。自己主張は有意な交互作用は認められなかったが、期間の主効果が有意傾向であり、授業前より後で得点が高い傾向にあった(p<.10)。つまり、自己開拓を受講する前の学生はコミュニーション・スキルにおける自己統制、解読力、他者受容、関係調整について得意であるとは認識していなかったが、自己開拓の受講によって、こうしたコミュニケーションについて得意でライフキャリア教育科目「自己開拓」の開発および教育効果の検証―19―
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