中部大学教育研究24
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ることの重要性について指摘されている8)が、学生が小児看護学実習を「楽しい」などポジティブな感情を抱いていたかは定かではない。ポジティブな感情にアプローチする教育支援の検討は重要と考えるが、小児看護学実習においてそのようなポジティブな感情に至るまでの認識とその要因は明らかになっていない。さらに、実習開始時からポジティブな感情を抱いている学生が、よりポジティブな感情に変化している場合、教員は学生の感情を見落としやすく十分な振り返りが出来ていないと想察する。しかし、そのような学生へも効果的な学びを振り返るという点で、教育的支援を検討する必要があると考える。今回の教育研究によって期待される教育上の効果は、ポジティブな感情に影響する要因に焦点をあてることで学生個人の気持ちを尊重した指導につなげ、学生の主体的に学ぶ力を養うことができることである。また、小児看護学実習における学生への効果的な学習支援の示唆を得ることで、個々の学生のニーズに応じた教育を行うことができる。その結果、多様化する医療現場に対応できる専門性を備えた看護師の育成につながる。以上のことから、小児看護学実習の中で、学生が認識している実習開始前の感情に影響する要因、および実習終了時のポジティブな感情に至るまでに影響する要因を明らかにしたいと考えた。この研究疑問を明らかにすることで、実習開始時の、実習に対する意欲に影響する要因について検討できると推察した。また、教員が見落としやすかった、ポジティブな感情を抱いている学生が、よりポジティブな感情に変化した場合の影響要因についても検討ができ、短い実習期間の中でも学生の力が最大限に発揮できるような効果的な学習支援の示唆を得ることができると考えた。2研究目的小児看護学実習の中で、学生が認識している実習開始前の感情に影響する要因、および実習終了時のポジティブな感情に至るまでに影響する要因を明らかにすることを目的とする。3用語の操作的定義ポジティブな感情:実習において「うれしい(率直な感情)」「頑張ろう(前向きな行動に結びつくもの)」「感動した(肯定的感想)」といった実習への意欲が高い感情を指す。ネガティブな感情:実習において「不安(率直な感情表現)」「嫌だ(後ろ向きの行動に結びつくもの)」「残念(否定的感想)」といった実習への意欲が低い感情を指す。4研究方法4.1研究デザイン質的記述的研究デザイン。4.2研究対象者2019年度秋学期に小児看護学実習(本学の小児看護学臨地実習)を履修した学生のうち、研究参加に同意がえられた学生に自記式質問紙調査を配付し、実習前後のポジティブ・ネガティブな感情、追加インタビューへの参加の意思を確認した。実習終了時にポジティブな感情で実習を終えたと回答した学生のうち、インタビュー参加への意思を表明した学生10名程度を対象とした。4.3データ収集方法自記式質問紙調査では、説明書・調査用紙を該当学生に配付し、以下の項目について質問した。①あなたは小児看護学実習前(学内実習前)において、これから始まる病院での実習に対してどのような感情でしたか。②あなたは小児看護学実習終了時において、どのような感情でしたか。回答は、「どちらかと言えばポジティブ・どちらとも言えない・どちらかと言えばネガティブ」の三択とした。自記式質問紙調査にて、実習終了時に「どちらかといえばポジティブ」と回答した学生の中から、インタビュー調査への同意が得られた者を研究対象者とした。インタビュー調査では、学生が認識している実習開始前の感情に影響する要因、および実習終了時のポジティブな感情に至るまでに影響する要因について話してもらった。インタビュー開始時に、研究対象者が実習中の感情の記憶を想起しやすいように、実習記録を学生の手元に置き、実習をとおして感じた感情の推移について軌跡グラフに線で表現してもらった。その際、グラフの上部をポジティブ感情、下部をネガティブ感情と仮定した。聞き取り調査で得た情報と、感情の軌跡の推移のグラフを参考にしながら、ネガティブからポジティブにグラフが変化している部分や、ポジティブを保っている部分に着目し、インタビューを行った。調査時期は2020年10月から11月の期間であり、20~30分程度の半構造化面接を行った。4.4データ分析方法面接の内容は、同意を得て、ICレコーダーに録音し、面接終了後、録音したデータの逐語録を作成した。小児看護学実習の中で、学生が認識している実習開始前の感情に影響する要因、および実習終了時のポジティ中部大学教育研究No.24(2024)―14―

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