中部大学教育研究2022
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あるとの認識が高まることが示された。従来の自己開拓では、本結果とは逆に受講することで自身のコミュニケーション・スキルに対する評価が低下する結果が得られている。佐藤他(2017)では、自己開拓でグループワークを行うことによってスキル自体は向上するものの、スキルの程度を他者との比較によって評価するようになるため自己評価が下がると解釈された。新プログラムは今年度の受講者において、従来の自己開拓とは異なり、コミュニケーション・スキルの獲得にとどまらず、その認識まで高める効果を示したものと考えられる。3.3受講前後の学びへの期待および学びの意味づけ自己開拓を受講した学生において、授業を受講する前の学びに対する期待、および、受講した後の学びの意味づけを検討するため、それぞれの自由記述回答についてKJ法により、カテゴリーの分類を行った。なお、分類については、佐藤・杉本(2016)、佐藤他(2017)に倣い、自己理解、コミュニケーションを大分類カテゴリーとして分類し、それぞれの分類の中でさらに小分類カテゴリーへの分類を行った。そのうえで、各項目の未回答者を除く回答者数で各カテゴリーに分類された回答数を除して、それぞれのカテゴリーの回答率を算出した。大分類・小分類のカテゴリー、カテゴリーの回答例、および、回答率をTable4に示す。3.3.1受講前の学びへの期待分析の結果、受講前の自己開拓での学びへの期待として、約7割の学生が自己理解を、約4割の学生がコミュニケーションを挙げていた。また、単位・資格取得など、自己理解やコミュニケーション以外の授業への期待を有している学生も3割程度確認された。自己理解については、自分を知ること、自分を見つめなおすこと、新しい自分の発見、他者から見た自己理解、苦手なことの克服、自分の将来との関連づけ、就職・就職活動の準備という小カテゴリーに分類された。7割の学生が学びへの期待として自己理解をあげていたことから、自己開拓の履修を希望する学生は自己理解を促すことに期待している者が比較的多いが、自己理解に対する目的はさまざまあり、自分を知りたいという内発的な目的以外にも、苦手なことの克服や、将来の自分について考えること、就職・就職活動の準備を想定した外発的な目的も見出された。また、新しい自分を発見したい、他者から見た自己理解を促したいというように、新たな経験や他者との関わりを通じて、より深い自己理解をしていきたいと授業に期待している学生も散見され、本授業の体験学習をベースとした授業形態に期待している学生が少なからずいることが示された。コミュニケーションについては、コミュニケーション能力の向上、多様な他者との交流、自分と異なる他者の視点の理解、自分の得意なグループワークのある授業形態という小カテゴリーに分類された。4割の学生が学びへの期待としてコミュニケーションをあげていたことから、自己理解ほどではないがコミュニケーションに関することを学ぶことに対する期待を一定数有しており、自身のコミュニケーション能力の向上のみならず、多様な他者と交流したい、他者の視点を理解したいというように自己開拓で展開されるグループワークで、知らない他者と関わることに期待していることが示された。3.3.2受講後の学びの意味づけ分析の結果、受講後の自己開拓での学びの意味づけとして、9割弱の学生が自己理解を、7割強の学生がコミュニケーションを挙げていた。自己理解についてもコミュニケーションについても、受講前の学びへの期待では得られなかった小カテゴリーが見出された。自己理解については、受講前の学びへの期待でも見られた自分を知ること、自分を見つめなおすこと、新しい自分の発見、他者から見た自己理解、苦手なことの克服、自分の将来との関連づけの小カテゴリーのほかに、自己理解の再確認、自己理解の重要さ、生きるうえでの大切なことへの気づきといった小カテゴリーが新たに見出された。9割弱の学生が自己開拓で自己理解に関することを学んだと認識していたことから、新たに開発された自己開拓のプログラムは、自己理解を促す授業として多くの学生に学びの意味づけをもたらす授業であったことが示された。とりわけ、本授業では自己理解を深めるべく、教育内容を必ず当事者意識をもって考えられるように授業設計を行ったことが、教育効果としてあらわれたものと考えられる。また、自分を知ること以外にも、新しい自分の発見、他者から見た自己理解については、授業前の学びへの期待を5ポイント以上上回る回答率を示していた。他方、自己理解の重要性や生きるうえでの大切なことへの気づきのように、これからの自分の人生において自己理解に対する重要性を認識した学生も少なからず確認された。これらのことを勘案すると、本授業はただ自己の理解を促すだけでなく、今後の人生の中で自発的に自己理解を深めていこうとする動機づけにまで影響を及ぼす可能性が示された。一方で、受講前の学びへの期待で見出された就職・就職活動の準備については、受講後の学びの意味付けではカテゴリーとして見出され中部大学教育研究No.22(2022)―20―

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