中部大学教育研究2022
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ションについても新たに開発された自己開拓のプログラムにおいて多くの学生に学びの意味づけをもたらす授業であったことが示された。とりわけコミュニケーション能力の向上と自分と異なる他者の視点の理解については、授業前の学びへの期待から5ポイント以上上回る回答率を示したことから、期待以上に学生のコミュニケーション能力を向上させ、コミュニケーションを取るうえで重要な自他の違いについて理解できたものと考えられる。なお、コミュニケーション能力の向上については、授業前の学びへの期待で記述されていた全般的で漠然としたコミュニケーションの向上だけでなく、学んだ内容として具体的なコミュニケーションにまで言及されていた。そこで、コミュニケーション能力の向上の小カテゴリー内でさらに分類したところ、全般的なコミュニケーション能力の獲得以外にも、グループワークでのコミュニケーション・スキルの獲得、他者に合わせたコミュニケーション・スキルの獲得、聞くことの大切さとスキルの獲得、自分から話しかけるスキルの獲得、初対面の人とのコミュニケーションへの慣れとスキルの獲得、自身の特徴を踏まえたコミュニケーション・スキルの獲得、といったより具体的な内容に分類された。自己開拓は、従来から普段関わりのない他者との交流を授業に組み込んできたが、新プログラムにおいてもその方針を積極的に踏襲した。昨今、大学生であっても同質性の高い友人関係が築かれ、多様な関わりを築くことの難しさが指摘されている(cf.辻,2016)。しかし、少なくとも自己開拓を受講する学生は、外集団との交流の機会を望んでおり、さらに、新たに開発された自己開拓プログラムによって外集団との交流を促した結果、特定のコミュニケーション能力が著しく向上したと考えられる。4まとめ4.1新プログラムの教育効果近年のキャリア教育において、ライフキャリアの視点を重視したライフキャリア教育の必要性が指摘されている。本研究では、こうしたキャリア教育の現状を勘案し、従来行われてきた自己開拓にライフキャリアの教育内容を導入したライフキャリア教育科目「自己開拓」の開発を行い、その教育効果の検証を行った。教育効果の検証の結果、新しく開発された自己開拓プログラムの各回の授業での学びは学生に高く評価されており、授業への高いコミットメントを促し、キャリア意識を深めることが示された。とくに本授業では、自己理解を深めるために、授業前半では自己や他者の視点から自己理解を促し、そうした自己理解に基づいて、授業の後半では他人のライフキャリアと比較しつつ自身のライフキャリアを考えたり、他者と異なる自分がいかにライフキャリアを構築するかを考えたりと、現実的なライフキャリアを想定しつつ統合的な自己理解をはかった。授業後半で、キャリア意識の深まりが非常に強くみられたのは、こうした段階的な自己理解、および、ライフキャリアと自己との関連付けが、効率的に自己理解、ひいては、キャリア発達を促すことにつながったものと考えられる。また、授業全体の教育効果については、量的な調査による効果検証から、自尊感情の向上、進路選択に対する自己効力の向上、時間的展望の未来の側面の拡がり、そしてキャリア・アダプタビリティの向上など、従来の自己開拓とほぼ同様の十分な教育効果が確認された。なお、コミュニケーション・スキルについては、これまでの効果検証とは異なり、コミュニケーション・スキルの向上が確認された。こうした結果は、自由記述回答に基づく質的な調査による効果検証からも支持される結果であり、学生は自己開拓を受講することで、自己理解を深め、コミュニケーション能力を向上させていることが明らかとなった。これらのことから、新たに開発されたライフキャリア教育科目「自己開拓」は十分な教育効果を有する可能性が示された。ところで本授業では、就職や就職活動といったワークキャリアに関する教育内容に偏らないよう、ライフキャリアの授業内容による構成を行った。具体的には、授業後半で多重役割を援用することで市民性の役割を担うライフキャリアを展望したり、将来生活に使用する資金を考えさせることで多様な働き方について理解を促したりするなどのワークを取り入れている。ライフキャリア教育科目「自己開拓」は低年次向けのキャリア教育科目であることから、受講生が現在の大学生活、そして卒業後の生活を主体的に考え、行動化に向け準備をしていけるよう授業を構成する必要がある。そのためには、学生の能動的な授業参加を促すべく、できる限り学生の授業に対する心理的な抵抗感を低減することが求められるが、ワークキャリアに偏ったキャリア教育は時として、学生の心理的な抵抗感を引き起こす可能性がある(cf.杉本,2019)。しかし、本授業で得られた教育効果を勘案すると、ライフキャリア教育の視点を重視した教育内容を設定した本授業は、学生の心理的な抵抗感を引き起こすことなく、能動的な授業参加を促したものと考えられる。4.2今後の課題本研究では新たに開発されたライフキャリア教育科目「自己開拓」について十分な教育効果が示されたが、それらは今年度の受講生でのみ見られる効果とも考えられる。今後は従来の自己開拓と同様、継続的に教育効果の検証を行い、単年度に限定されない教育効果を中部大学教育研究No.22(2022)―22―

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