中部大学教育研究24
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1はじめに2022年7月、中部大学は自然科学研究機構基礎生物学研究所及び生理学研究所(所在地:岡崎市)と研究、教育等の連携に関する包括協定を締結した。両研究所のような「大学共同利用機関」が、研究のみならず教育や施設供用等も含め幅広い連携のために私立大学と包括協定を結ぶのは全国的にも珍しい。この連携協力関係によって本学の教育研究活動が活性化し、一定の効果が現れ始めている。本稿では、中部大学が大学共同利用機関と包括的連携関係を築いた経緯と意義、その後の教育研究活動の進展と展望について考察する。「大学共同利用機関」とは、国内外の研究者に研究の場を提供し、先端的な共同研究を行う中核的な研究拠点であり、大学共同利用機関法人が設置する学術研究機関である。基礎生物学研究所、生理学研究所のほか、分子科学研究所、核融合科学研究所、国立天文台、国立情報学研究所、国立民族学博物館、総合地球環境学研究所など全国に19の研究所や施設等が整備されている。基礎生物学研究所(以下「基生研」という)1)では生物の多様性や環境への適応など全ての生物に共通で基本的な仕組みを解明する研究を、生理学研究所(以下「生理研」という)ではヒトの体、特に脳の動きに関する研究を、内外の研究者と連携し最先端の測定・分析装置を用いて実施している。2連携協力の始動2.1連携協力のきっかけと準備作業包括協定締結に至ったのは、2021年春、筆者が中部大学に赴任した当時(学術研究担当副学長・先端研究センター教授)、工学部平田豊教授(当時)、AI数理データサイエンスセンター津田一郎センター長・教授(当時)、旧知の応用生物学部前島正義教授(現副学長)、基生研阿形清和所長、生理研鍋倉淳一所長と個別に意見交換したことが契機である。大学の研究環境を向上し研究力を強化する方策として、当該大学と他の優れた研究機関との連携が有力な選択肢であり、それが大学院・学部教育の充実にも繋がり大学のブランド力向上に寄与する可能性がある。中部大学のケースでは連携協力先として、設置趣旨が相違する故に相補的関係を結びやすく、比較的距離の近い岡崎市に所在する大学共同利用機関を対象とすることが効果的だろうとの仮説を基に検討に着手した。関係者との意見交換の過程で、中部大学の相当数の研究者が既に基生研、生理研と個人的に繋がりがあることを把握でき、また、両研究所が最近AI・データサイエンス分野に組織的に力を入れ始めていることや、中部大学での教育実践に関心があることも判明した。まずはお互いを知る機会を設けるために、三機関の研究活動を紹介し、意見交換をするセミナーの開催を―21―大学共同利用機関との包括的連携協力による教育研究活動の進展磯谷桂介*1要旨2022年7月、中部大学は自然科学研究機構基礎生物学研究所及び生理学研究所(所在地:岡崎市)と研究、教育等の連携に関する包括協定を締結した。「大学共同利用機関」が幅広い連携のために私立大学と包括協定を結ぶのは全国的にも珍しい。これは三機関持ち回りの連携セミナーの開催等を通じた成果であるが、そのプロセスと包括協定をきっかけに、三機関の共同研究の推進、研究者交流の活性化、大学院・学部教育の充実、教育・研究支援機能の充実がみられ、互恵的関係が築かれつつある。中部大学が実践した「私立大学と大学共同利用機関との包括協定」という試みによって、研究活動や人材育成が推進され、新たな学術の振興と社会の発展に貢献することが期待される。キーワード大学共同利用機関、包括協定、教育研究活動の進展、研究力強化*1先端研究センター教授
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