中部大学教育研究23
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1問題と目的2015年9月「公認心理師法」が制定・公布され、2017年9月に施行された。これによって、日本において初めて国家資格による心の専門家である「公認心理師」が誕生することになった。公認心理師養成にあたっての学部カリキュラムについては、公認心理師法において25科目が定められている。その中で、公認心理師が業務として行う行為について、適切に実践できる能力を養成することが必要とされ、特に実習・演習の内容については、将来チームワークでの業務を求められる機会が多い現状を踏まえ、質・量ともに充実したものとなるように求められた。学部段階から養成教育が始まり、学部においても外部機関における心理実習が配置されていることなどが、養成カリキュラムが大学院のみに限られるこれまでの臨床心理士養成とは大きく異なる点である。公認心理師に必要となる25科目の中でも、多くの大学で3年次後期または4年次に配置されている心理実習は、学部における公認心理師養成教育の集大成とも言える科目であり、臨床実践の場においてそれまでの授業で習得した知識を統合し、実際の現場での経験と結びつけることで、公認心理師としての技能や資質を高めることを目的とする、極めて重要な科目である。しかし、厚生労働省・文部科学省による心理実習の内容は(ア)要支援者へのチームアプローチ、(イ)多職種連携及び地域連携、(ウ)公認心理師としての職業倫理及び法的義務への理解などの指導を受けることと規定されているにすぎず、学部段階でこれらの事柄について具体的にどのレベルまで教育する必要があるのかが明確に規定されていない。より専門的な大学院での養成課程へのスムーズな接続のために、学部段階で実施されるべき具体的な実習指導の在り方を検討することは重要な研究課題であると言える。これまで心理実習を取り上げた研究はきわめて数が少なく、その内容も実態把握程度に留まっており(伊藤・村瀬・塚崎ら,2001;良原・落合・金坂ら,2010)、実習を通しての実習生自身の心の変容プロセスには目が向けられていない。また、研究のほとんどが大学院における心理実習を対象としている(古田・加藤・森本,2016;伊藤ら,2001など)。学部生を対象とした心理実習の研究としては、学生の発表資料をもとに考察した松原(2004)がある他、実際に行われた実習に関する報告が数本あるのみであり(橋本・江上・福丸,2021;永田・井芹・林ら,2022;櫻井・岩崎・渡邉,―31―*1人文学部心理学科教授*2人文学部心理学科准教授*3人文学部心理学科特任教授公認心理師科目「心理実習」受講生の学びと成長に関する研究-実習前の受講生を対象としたインタビュー調査の分析-願興寺礼子*1・堀匡*2・田中秀紀*2・森田美弥子*3要旨本研究の目的は、公認心理師科目「心理実習」受講生8名に対して半構造化面接によるインタビュー調査を行い、実習前の受講生の意識や感情、これまでの授業や事前学習で習得した事柄に対する理解の程度について質的に検討することであった。インタビューを逐語化したデータを修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析した結果、4つのカテゴリー、10のサブカテゴリー、28の概念が得られた。また、概念、サブカテゴリー、カテゴリー間の関係を説明したプロセス図を作成した。受講生は心理実習受講に至る個人的な背景を持ち、実習施設や利用者に対して一部誤った思い込みをしていることが明らかになった。さらには実習施設や利用者に対するアンバランスな理解の在り方が実習先での利用者との関わりへの不安に繋がっている可能性があることが示唆された。これらの結果を踏まえて、実習に出る前の授業や事前学習の在り方について考察を行った。キーワード心理実習、受講生の意識と理解度、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ

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