中部大学教育研究23
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2021など)、今後さらに詳細を検討した研究が積み重ねられていく必要がある。そこで本研究では、学部教育における心理実習の受講生に対してインタビュー調査を行い、臨床現場の見学や関与を通しての受講生の意識変容と成長のプロセスについて検討し、学部教育における心理実習の受講生の成長を促進する実習教育の在り方を提案することを目指す。本稿はその第一報として、実習前の受講生にインタビュー調査を行った結果について報告する。実習前の受講生の詳細な意識や感情、これまでの授業で学んだ内容や事前学習で調べた各実習施設に関する理解の程度について質的に検討することが、本稿の目的である。2方法2.1研究協力者と手続き研究協力者は、研究の趣旨、インタビュー内容や倫理的配慮について説明後、同意が得られた心理実習受講生AからHの8名(男性1名、女性7名)、全員4年生であった。受講生は、保健医療領域の施設として単科の精神科病院ないしは精神科クリニックと総合病院の精神科の2施設、教育領域の施設としては適応指導教室、福祉領域の施設としては児童自立支援施設ないしは養護施設、司法領域の施設としては少年鑑別所ないしは刑務所の、計5施設へ実習に行くことになっていた。保健医療・司法領域の施設では主に見学、教育・福祉領域の施設では利用者との関与を中心とした内容であった。インタビュー調査は、実習の事前学習・事前指導を終え、学外実習に出る前の期間である2021年6月に行った。実習の事前学習・事前指導では、主に自身が実習に行く施設の特徴について調べて発表するとともに、実習担当教員から実習に関する諸注意を受けた。Zoomを使用して1対1による半構造化面接(約60分)を行い、研究協力者の同意に基づき録音し、逐語に起こした。なお、インタビューは、公認心理師資格を持ち、心理実習を担当する4名の教員(著者)が行った。2.2調査内容インタビューの内容は、①心理実習を受講した理由、②将来、公認心理師になることを希望しているか、③今回実習に行く各施設、利用者に対して率直にどのような印象や思いをもっているか、④これまでの授業で学んだことを踏まえて、現時点で心理職一般について、さらには今回実習に行く各施設の心理職についてどのように捉えているか、⑤実習に対して不安に思うこと、⑥実習において期待すること、学びたいこと、⑦心理実習に参加することが自身にとってどのような意味があると思うか、⑧現時点で多職種連携や地域連携をどのようなものとして理解しているのかについて尋ねた。2.3倫理的配慮本研究は、中部大学倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号20210018)。インタビュー実施前に、研究の趣旨、参加は任意であり協力しないことに対する不利益は生じないこと、心理実習の成績には無関係であること、匿名性と守秘義務の約束、質問への回答の拒否や研究協力への中断は可能であること、得られた内容を研究成果として公表する可能性があること、インタビュー調査によって得られたデータは研究終了後に全て破棄することを文書および口頭で説明し、署名をもって同意を得た。2.4分析方法分析に当たっては、実践的質的研究法である木下(2003)の修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下M-GTAと略す)を用いた。M-GTAは人間同士が直接やりとりをする社会的相互作用に関係する人間行動の説明力に優れ、ヒューマンサービスの領域において有効な分析法とされており(木下,2003/2007)、本研究の分析方法として適切だと考えられた。まず始めに、分析焦点者を「公認心理師養成のための大学院課程をもたない大学の学部教育における心理実習を受講する4年生」とし、分析テーマを「心理実習受講に至る経緯とこれまでに習得した臨床現場に関する知識やイメージの状態、及びそれらに基づいた実習を控えた気持ちや実習に関するイメージの形成」と設定した。2.5分析の手続き分析は以下の3ステップで行った。①概念生成:得られたデータから分析テーマと関連する語りを抽出し(具体例)、それが研究協力者にとってどのような意味があるのかを考え概念を生成した。なお、概念の生成にあたっては、木下(2007)による分析ワークシート(概念名、定義、具体例、理論的メモを記述)を使用した。8名全員のデータを分析し、新たな概念が生成されなくなった時点で理論的飽和に達したと判断した。②カテゴリーの作成:①で生成された概念をカード化し、共通する概念をまとめサブカテゴリーを作成した。さらにいくつかのサブカテゴリーをカテゴリーとしてまとめた。③プロセス図・ストーリーラインの作成:カテゴリー間の関係性や影響過程について検討し、プロセス図を作成し、ストーリーラインとして文章化を行った。分析にあたっては、臨床心理学を専門とする大学教員である著者4名で慎重に合議を行って進めた。中部大学教育研究No.23(2023)―32―

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