中部大学教育研究23
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をしていることが明らかになった。こうした誤った思い込みはそれまでの授業や事前学習によって払拭されていることが理想であるが、一度形成された思い込みは、実体験を伴わない座学のみにおいては変化しにくい部分があると考えらえる。したがって、実習の事前学習において大切なことは、それぞれの領域の施設や利用者について実習生が現在どのような理解やイメージを持っているのかを自覚してもらうことであると考えられる。どのような誤った思い込みであれ、実習に臨む時点で自身がどのような理解やイメージを持っているかを自覚しておくことが重要であり、それが学外実習体験を経てどのように変化していったのかを振り返ってもらうことが、体験ベースの学習を行う実習の核となる学びであると考えらえる。そしてこのことは、受講生の自己理解や成長につながりうる学外実習の大きな意義だと考えられる。4.3受講生の理解度と学びへの不安との関連《心理職の基本的役割に対する理解度の高さ》や〔連携による相補的・総合的支援のメリットの認識〕などが認められ、これらは、これまでの授業等で学んだ内容が一般的な知識として定着している部分であると考えられる。しかし、具体的な多職種連携やチームアプローチの在り方や各実習施設、領域による心理職の個別性の理解は非常に断片的で表層的な理解に留まっていた。このような表層的な理解に留まっている部分は、先述のように個人的な体験や思い込みをベースにして偏った理解がなされているところもあり、総じて【心理職や実習施設に対するアンバランスな理解】をしていると言える。これは、これまでの座学中心の授業や事前学習において心理職や実習施設、連携についての一般的理解は得られているものの、より具体的、実際的なイメージを描くに至っていないことの証左であると考えられる。つまり、理解が曖昧なままで、腑に落ちる理解に達していないのではないかと考えられる。そして、こうした曖昧な理解が利用者との《実習施設での関わりの不安》に繋がっている可能性が推察される。初めて行く施設、そこでの利用者との関わりに対していくらかの不安や戸惑いが生じるのは当然であるが、それが大きくなりすぎて利用者とのせっかくの関わりの機会を逃したり活かし切れなくなってしまうようなことが起きないように留意する必要がある。利用者との関わりに対する不安以外にも、受講生は実習中に想像以上に多職種連携の複雑さや実際の心理職の業務の奥深さに直面し、通常の学生生活とは異なったストレスに直面する可能性があるとの指摘がなされている(永田・林,2022)。こうした指摘からも、学外実習に出る前に受講生のもつ利用者との関わりに対する不安や戸惑いをできるだけ小さくしておくことが求められる。公認心理師科目の授業や事前学習では、より具体的なイメージが形成されるように、実体験に近い形で利用者や実習施設に関する知識が習得できるよう工夫をする必要がある。心理実習の事前学習においては、実習に行く施設についてのみ調べ学習を行うのではなく、領域全体やそこで求められる心理職の役割について具体的な事例を元に学ぶ学習を導入することなどが効果的だと考えられる。授業や事前学習において、具体的にどのような内容や指導を展開していくのかについては、今後さらに検討していきたい。4.4社会人としてのマナーの必要性今回のインタビュー調査において、社会人としてのマナーの必要性について言及した受講生は一人もいなかった。しかし、多くの実習先で真っ先に問題視されるのが、社会人としての最低限の礼儀や立ち振る舞いに関することである。今回言及がなかったということは、心理の専門職である前に社会人としてどうあるべきかという基本的なマナーの大切さに気付けていない可能性が考えられる。学外実習前に、社会人としての基本的なマナーについて、繰り返しきめ細かに指導し、学生に意識付けをしていく必要がある。5まとめと今後の課題公認心理師科目心理実習の受講生に対して、学外実習に行く直前にインタビュー調査を行い、その結果を報告した。心理実習開講初年度ということもあり、教員側も手探り状態であったが、本研究により、学外実習前の受講生の現状と課題が明確になった。受講に至る個人的な背景があり、実習施設や利用者への誤った思い込みをしていることが明らかになった。また、アンバランスな理解の在り方が実習先での利用者との関わりへの不安に繋がっている可能性があることが示唆された。本研究結果を踏まえて、さらには他大学の実践例も参考にしながら検討を重ね、公認心理師科目の授業や実習の事前学習の効果的な在り方を今後も考えていく必要がある。文献古田雅明・加藤佑昌・森本麻穂(2021).医療領域における臨床心理実習の多面的評価方法に関する研究人間生活文化研究,26,31-36.橋本陽介・江上園子・福丸由佳(2021).ブレンディッドラーニングによる心理実習の試み学部における公認心理師養成課程での取り組み白梅学園大学・短期大学情報教育研究,24,45-50.伊藤直文・村瀬嘉代子・塚崎百合子・片岡玲子・奥村中部大学教育研究No.23(2023)―36―

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