中部大学教育研究2022
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でも今では、地元のペルピニャン大学に行ったことをよかったと思っています。なぜなら、そのおかげでペルピニャン大にある日本との交換留学制度を使ってここに来られ、皆さんに会えたわけですから」と言っていた。ルカさんは20代前半で学生たちとの年齢も近い。日仏の学校制度の違いはあるものの、進路選択において挫折があった場合、そこでどのように頑張るか、自分の失敗談を正直に語ることで多くを教えてくれた。ルカさんがコロナに負けず日本に来たいと希望し続けていた理由、動機も、理解できるように思った。発表後には、学生から多くの質問が出た。エクセルにまとめて彼に送ったところ、すべてに対して次週丁寧に答えてくれた。その中からいくつか選んで紹介する。1)「日本とフランスの大学を比べて双方の良い所と悪い所を教えてください」ルカさんによれば、フランスには大学入試というものが存在せず、バカロレアを取得できればどの大学でも入れ(しかし前述の通り進級が厳しいが)、また学費がかからないのが良いとのことだった。日本の良いところは、大学内にコンビニや銀行など便利な施設があり、部活やサークル活動が盛んであることが良いと思う、ということだった。2)「フランスは学費が実質無償ということですが、学費が無償ということはその分授業の質が低くなるのですか?教授たちはタダ働きなのですか?」ルカさんは、フランスの大学がほぼすべて国立であり、教授職は給与面でもかなり優遇された職業である、と言った。フランスでは教育は社会が行うものと考えられており、家庭が行うものと考える日本とは、根本的に教育観が大きく異なることに学生たちは驚いていた。3)「部活は何があるのか知りたいです」フランスには大学に部活やサークルというものがなく、スポーツや文化活動は、地域が運営する団体に加入して行うという説明があった。4)「日本は高校生までは髪色やメイクに厳しいですが、フランスではどうですか?」ルカさんにとっては、「髪を染める」というのはショッキングピンクなどの派手な色にすることを意味するらしく、黒髪から明るめの茶色にする程度のことを念頭に質問した学生とははじめ話が噛みあわなかった。教室に一人として同じ髪の色の学生がいないフランスの教室風景と日本のそれとの違いが思い起こされ、このすれ違い自体が筆者自身には興味深かった。ルカさんの答えは「目立つ色に染めるときには親の許可があればOKだろう。学校ではまあ問題ない」とのことだった。二つ目のルカさんによるプレゼンテーションは6月末に行われ、自分の故郷であるカタルーニャ地方について語ってくれた。カタルーニャ地方がフランスとスペインのはざまで困難な歴史を背負わされてきたこと、現在もそれが続いていることがわかる大変貴重なものだった。自らの、フランス人でありカタルーニャ人でもあるというアイデンティティの複雑さについても語ってくれた。例えば親友は同じカタルーニャ人だが、スペイン人だということである。しかし学生の側にヨーロッパの歴史や地域問題についての基本的な知識が欠けており、筆者も時間の制約から詳しい解説を補足できなかったため、当事者の生の証言、せっかくの貴重な話も学生側の理解は浅いものになってしまったかもしれない。しかし、カタルーニャ州旗の成り立ちや意味を聞く学生もいて、これに対してルカさんは丁寧に説明してくれた。学生の側からは例えば以下のような感想が出た。1)「フランスが日本と違い多様性のある国だからなのかどうかは分かりませんが、スペイン語や英語を話せるというのは旅行や海外での仕事で役に立つ様なことを自然に話せるようになるということで羨ましいと思いました」これに対しルカさんは、「フランス人すべてが必ずしも語学が得意なわけではありません。自分はたまたまカタルーニャ地方の出身であり、多言語の環境にあったからだと思います。一般的なフランス人の中には、世代によりますが、実は英語が話せるのに積極的には話さない人も多いです」とのことだった。2)(ルカさんが、父親がカタツムリ料理をしてくれる話をしたことに対して)「カタツムリを取って食べていることに驚きました。釣りをしてお魚を食べると同様に、カタツムリをとって食べることは普通にされているのですか?」ルカさんの答えは「はい」だった。気をつけるべきは、小さいカタツムリは取らないこと、大きいカタツフランス交換留学生TAとの授業―41―図3フランスでの学生生活について紹介

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