中部大学教育研究2022
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もキャラクターとしてもまったく知らなかったため、「それは何か」とたずねた。こうした場合、自分たちの間で広く共有されている知識や慣習であっても、場所が変われば常識ではないことに気づかされ、その際には、簡単な文法や言葉を駆使してできるだけ相手にニュアンスが伝わるように工夫をしなければならない。そのような難しいが貴重な機会が、ルカさんのおかげでこのケース以外も多々得られた。学生たちにとってはルカさんと話すことで、自分たちの文化、常識を客観的に見る機会が大いに得られたことと思われる。ところでルカさんの飼い犬の名前は「リュセット」で、これはカタルーニャ語で「光」という意味だということだった。4.2TAからの提言「日本の学生はなぜ授業中発言をしたがらないのですか?間違えて単位を落とすのが怖いからですか?」これはルカさんが筆者に「最後に一つお聞きしたいことがあります」と改まって前置きしてからした質問である。筆者とのフランス語の授業のみならず、他の授業を見学した際にも同じことを感じ、滞日中最も疑問に思ったことの一つだという。残念ながら、日本の学生は、小中高時代に教室内で教師が正解としたこと以外のことを言ったり予期しない質問をしたりすると怒られるということを多くの人が長く体験してきたため、大学生になっても、恥をかきたくないと言う気持ちから発言を控える人が多い、おそらくそれは単位を落とすことが怖いからというよりは、学生同士の間でできるだけ目立ちたくないと感じてのことではないか、と説明した。ルカさんは納得し、日本人が外国語に弱いのはそのせいではないかと思うと言った。彼によれば、フランス人も、外国語習得は他国に比べると得意ではないが、フランスの場合には、特に上の世代に自国中心主義が強く、それが語学学習欲を弱めているということだった。ルカさんは、滞日中、授業と並行して修士論文を執筆しており、それは外国人向けのフランス語の教授方法論についてだった。彼は「メソード・アクショネル(lam・thodeactionnelle)」がフランスで最近最も行われている方法であることを教えてくれた。これは、調べてみると、行動中心主義(アクショネル)なアプローチに基づいた授業のことで、「学習の中心はあくまで学習者であり、彼らのニーズや興味をできるだけ正確に把握した上で授業を組み立てること」を念頭に、「外国語教育を通して学習者が身につけるべき最も大切なことは、外国語の能力そのものというよりはむしろ、21世紀のヨーロッパ市民として不可欠な異文化間意識を備えたバランスのよい人格形成であり、母語や文化の異なる他者と理解し合い、共通の目的達成のために協力し合えるようになること」を目標に掲げる教授方法論だということである。(参考:小西英則「Robert,Jean-Pierre,Rosen,Evelyne,Reinfardt,Claus(2011).FaireclassesenFLE-Uneapprocheactionelleetpragmatique.Paris:Hachette,192p.の書評」《Revuejaponaisededidactiquedufran・ais》10巻1-2号、2015年、pp.177-179.https://doi.org/10.24495/rjdf.10.1-2_177最終アクセス2022年9月20日)手法としては、グループワークの重視なども掲げられており、日本における第二外国語教育にも応用できそうなヒントが多々あり、さまざまな気づきが得られた。教育法の更新には常に努めていきたいと改めて感じた。学期末に行われた「学生による授業評価」においては、驚くほど留学生TAについて評価が高かった。回答者のほぼ全員が自由記述欄に何らかのコメントを残してくれた。自由記述回答者24名の中で、多かった評価意見をまフランス交換留学生TAとの授業―43―図5身近なSNSを教材に
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