中部大学教育研究23
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1研究の背景1.1研究の背景・課題2006年に障害者の権利に関する条約(以下、障害者権利条約とする)が国連にて採択後、日本では、学校教育法が改正され(2006年)、特別支援教育の本格的実施が図られてきた。その後も、障害者基本法の改正(2011年)、障害者総合支援法の成立(2012年)、障害者差別解消法の成立および障害者雇用促進法の改正(2013年)などが進められ、障害者権利条約に批准(2014年)後の2016年には障害者差別解消法も施行され(2021年改正)、各機関等によっても法に基づいた対応が図られている。学校では、「同じ場で共に学ぶこと」の追求とともに、特別な教育的ニーズのある幼児児童生徒の自立と社会参加を見据えて、その時点で教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組みや小・中学校における連続性のある「多様な学びの場」の必要性から、その整備が図られてきた。しかし、特別支援教育は、主に小・中学校を中心に捉えられ、幼児期及び小学校への移行期の連携した支援の必要性は認識されているものの、保育・幼児教育場面における取り組みや研究はまだ少ない。一方、国連は、障害者権利条約についての日本の取り組み状況を審査し、2022年9月に懸念事項や勧告等を公表した。その内容の一部は次の通りである。「懸念」として、・障害者資格・認定制度を含む、法律、規制、実践にわたる障害の医学モデルの永続化・障害のある子供たちの分離された特別教育の存続・医療に基づく評価による障害のある子供たちの通常教育環境へのアクセスの難しさや、特別支援教育クラスの存在などを示している。さらに「勧告」として、障害者資格・認定制度を含む障害に関する医学モデルの要素を排除するために法律および規則の見直しを求めている。また、分離された特別な教育をやめる目的で、教育に関する国家政策、法律、行政上の取り決めの中で、インクルーシブ教育を受ける権利の認識や十分な予算等で質の高いインクルーシブ教育に関する国家行動計画を採択することなどを求めている。その他、障害者の人権モデルについての認識を高めることや、精神保健医療を一般医療から分離する制度を解体するために必要な立法措置および政策措置を採用することなども求―39―共生社会の実現に向けた保育士・教員を目指す大学生に求められる学び-学生の声からインクルーシブ保育・教育を担う保育士・教員養成の課題を考える-伊藤佐奈美*1・本多祐子*2要旨日本では、共生社会の実現を目指し、「日本型インクルーシブ教育」が実施されている。本研究では、その中で育ってきた保育士・教員養成課程の学生に必要な学びを、共生社会の実現の視点から明らかにすることを目的にし、特別支援教育ゼミの学生を対象とした調査を行った。調査結果からは、子供時代から身近な関係で障害のある子供と過ごした体験が、特別支援教育への関心につながっていることや、幼少期から障害のある子供と障害のない子供が「同じ場で共に学ぶ」必要性を認識していることが示された。また、「日本型インクルーシブ教育」の肯定と共に、国連が指摘する分離教育の課題や、日本に支配的な「障害」観に対する課題意識の低さが捉えられた。共生社会の実現に向けて、保育士・教員を目指す学生に必要な学びは、現行の特別支援教育の専門性や障害の「社会(人権)モデル」に限らない。学生たちが公共倫理に向かうには日本の歴史を支配してきた「共生」を阻む価値、「障害」観、「発達」観、「専門性」と人権保障の在り方などを、自明視している価値と共に考え、議論することにあることを言及した。キーワード保育士・教員養成、インクルーシブ保育・教育、分離教育、共生社会、障害観*1現代教育学部現代教育学科教授*2現代教育学部非常勤講師

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