中部大学教育研究23
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る子供たちを保育・教育する立場にある学生こそが、国連の指摘の真意を理解し、分離教育の環境で学ぶ意味を振り返り、未来の共生社会の形成者を育成するための新たな価値創造をなし得る可能性を秘めていると考えられるのではないだろうか。こうした可能性に着眼した筆者らは、分離教育の歴史を残した「日本型インクルーシブ教育」時代に学び育ってきた保育・教育を学ぶ学生にとっての、共生社会に向けた価値転換に向けての学びの必要性や課題を、学生たちと共に考究していきたいと考えた。本研究では、その端緒として、学生たちの率直な考えや発想を捉えると共に、それらの声の意味や可能性の考察を図るものである。研究を進めるに当たり、調査項目の理解ができ、また特別支援教育の現状や今後の課題についての考えをもつことができると考え、特別支援教育ゼミに所属する学生に調査協力を得ることにした。本研究では、未来社会を共創する子供たちを保育・教育する立場にある、「日本型インクルーシブ教育」の環境で育ってきた学生に必要な学びの追究に向けて、学生が共生社会の実現の視点から捉える課題を明らかにすることを目的とする。2.2研究方法特別支援教育に関心の高い、「日本型インクルーシブ教育」の環境で育ってきた学生の意識を捉えるため、選択式および自由記述による質問紙調査を実施した。倫理的配慮として、調査実施前に、研究の趣旨説明を行い、調査の回答を分析する際には個人が特定されないデータとして扱うこと、公表時には個人が特定される表現はしないこと、回答は成績評価に関係しないことを説明し、承諾が得られた者のみに回答を依頼した。〇調査対象者:特別支援教育ゼミを受講する学生のうち、協力が得られた学部3年生、または4年生の学生31名〇調査時期:2023年5月〇調査内容:資料1に示す質問項目に沿って、以下の内容についての回答を依頼した。・特別支援教育に関心をもったきっかけ・関心につながった子供時代の出来事・分離教育で学ぶ環境を変える必要性の認識の程度およびその理由・幼少期からの交流保育や交流教育の必要性の認識の程度およびその理由・幼少期から同じ場で学ぶ必要性の認識の程度および、その理由・同じ場で学ぶことや交流保育・教育を進める上で困難と考える事柄・保育士や教員を目指す学生が、学んだり考えたりする必要があると考える内容・一般の学生が学ぶ必要性・関心についての捉え方〇分析方法:質問文の内容に対し、その必要性を感じる程度を5段階で尋ねた項目および複数回答可とした選択肢に回答を求めた項目の結果は、段階毎に回答した人数を単純集計し、割合を求めた。自由記述を求めた項目については、データの類似性からカテゴリー化した。その分類方法や命名については、研究者間で協議して導き出した。本文の中で、自由記述内容をカテゴリー化したカテゴリー名は【】、回答例は〈〉で表記している。3調査結果3.1特別支援教育に関心をもったきっかけ・関心につながった子供時代の出来事自由記述式の回答をカテゴリー化した結果、【障害のある家族・親戚の存在】【子供時代の障害のある友人の存在】【障害のある人に関わる家族からの関心】【入学前の交流教育やボランティアの体験からの関心】【特別支援教育に関する学びの必要性の認識や関心】【大学入学後の学外活動で障害のある児童と関わった体験からの関心】【その他】のカテゴリーが得られた。【その他】には、〈大学の授業を受けて〉〈大学に入ってから、なんとなく〉〈新聞記事〉といった回答があった。なお、約半数の回答が、【障害のある家族・親戚の存在】または【子供時代の、障害のある友人の存在】に分類された。これらの回答例には、身近な障害のある他者の〈楽しんでいる様子や笑顔が見られると、自分のことのように嬉しく感じられ、障害のある子の笑顔を増やしたいと思った〉〈支援をしたいと思った。まわりに知識をもっている人が少ないので役に立ちたい〉〈うまくコミュニケーションがとれなかったことから「なぜだろう、どうすれば良いのだろう」と思うようになった〉〈彼らが何を望んでいるのかに興味をもった〉〈学校での生活のしづらさ・家族の苦労に接して、誰もが学びやすい環境にできたらと関心をもつようになった〉〈学校で適切な指導が受けられなかったことと、それにより家庭環境が困難だったこと〉〈一緒に生活をしていく中で関心をもった〉などがあった。【入学前の交流教育やボランティア体験からの関心】の回答例には、〈支援が必要な人が多い事実を知り、自分にできること・関われることは何かを考えるようになった〉、【特別支援教育に関する学びの必要性の認識や関心】の回答例には、〈通常学級に在籍する児童の支援ができるようになるため〉〈通常学級での中部大学教育研究No.23(2023)―42―

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