中部大学教育研究23
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〈大学に入ってから、なんとなく〉などの回答もあり、上述のように身近な関係性で障害のある子供と過ごした体験でなくとも、障害のある子供と関わる体験や授業等を通して関心が喚起されることも分かる。回答者の関心に影響した体験の具体的内容や、体験の意味づけに影響した背景は不明確であるが、こうした体験が関心につながる学生が一定数いることは明らかである。4.1.2幼少期からの交流保育・教育と同じ場で学ぶことの意味と課題図1、図2、図3の通り、「分離教育の環境を変える必要性」、幼少期からの障害のある子供と障害のない子供の「交流保育・教育の必要性」、「同じ場で学ぶことの必要性」は、いずれにおいても、半数以上の学生がその程度を「5」もしくは「4」と回答していた。このうち、「同じ場で学ぶことの必要性」の高さを「5」とした回答38.7%と「4」とした回答38.7%を合わせると、8割近い学生が、その必要性を認識していることがわかる。その理由は、障害のある子供と障害のない子供の互いの理解、互いの学び、垣根をなくす必要性、幼少期からインクルーシブな環境で学ぶことによる偏見の解消、多様性の理解といったことに多い。これらの回答例には、「“障害のある子”と“障害のない子”が互いに」という表現と、「同じ社会を生きている」「共生社会」「多様性」とした表現の両者があることも興味深い。すなわち、「障害のある子」と「障害のない子」を区別した上で交流することが前提とされた回答と、これらを区別しない表現をしようとした回答の両者があることから、分離が当然視された教育を受けてきた学生たちが、その前提を問うような質問に対し、分離教育の課題を問い直すような表現をしたとも捉えられる。一方で、区別した上で交流することを前提とする回答からは、「互い」の理解や接し方、将来関わり合うことに向けた経験の必要性として、その意義を回答していると捉えられる。そして、「同じ社会を生きている」ゆえに、幼少期から同じ場で学ぶ必要性を感じているとする回答からは、そもそもが多様な個々が共生する社会ゆえに、インクルーシブな保育・教育環境を用意する必要性を考えていることが推察できる。一方で、【個々の状況や自分の意思で学ぶ環境を選択できる現状】【現時点で、ある程度整っている】などにある通り、多様な学びの場がある現状を肯定的に捉えている回答も見られた。その理由は、〈差別というような言い方がされるが、区別であって、その子に合った教育をした方がいい〉〈分けることに批判する声もあるが、分けることで障害者の能力を向上する授業ができると思う〉〈他の子との違いをつきつける必要はない〉〈生きづらさ、学びにくさを感じるのであれば、必ずしも一緒の場で学ぶ必要はないと思う〉といったもので、「分ける」場があることのメリットに言及した回答であると捉えられる。すなわち、「分ける」ことによってその子供に合った教育ができることや、同じ場で学ぶことの強要は望ましくなく、自分の意思で選択できる環境を肯定的に捉えていることが窺える。図4からは、障害のある子供と障害のない子供が同じ場で学ぶことや交流保育・教育を進める上で、学生が困難と捉える事柄が分かる。障害のある子供本人や保護者、地域社会の理解よりも、「周りの子供の理解」「周りの子の保護者の理解」「先生方の負担」「幼稚園・保育所、学校の指導体制」などを困難と捉える傾向にあり、最も困難と捉える事柄としては、「幼稚園・保育所、学校の指導体制」や「周りの子供の理解」「周りの子の保護者の理解」「地域社会の理解」とする回答がみられた。学生たちは、同じ場で学ぶことや交流保育・教育の必要性の認識と共に、その困難さを、指導体制や障害のある子供の「周り」の子供・保護者の理解の困難さに感じていた。こうした回答の傾向から、この「困難さ」を解消していくには、保育・教育現場の認識の変化と共に、時間をかけて、保育士・教員を目指す全ての学生に、学生時代から関心を高められるような教育が求められることが分かる。4.1.3保育士・教員を目指す全ての学生が学ぶ必要があると考える内容と、学生の関心についての捉え方図5からは、保育士・教員を目指す全ての学生が学ぶ必要があると考える内容についての傾向が捉えられる。心身障害、特別なニーズ保育・教育に関する知識や、障害のある子供とのコミュニケーションや生活支援の方法についてなどの回答が多く、約半数の学生が「障害にとらわれない、その子の理解や支援方法」に回答している。一方で、「自分の中にあるバリア」や、「日本の障害児者を取り巻く歴史や社会の動向」「優生思想」「分離教育による影響」「医学モデルに限らない『障害』の捉え方」などについての回答は少ない。図6において「一般の学生も学ぶ必要があると考える」回答の明らかな多さと、図5の回答数の多い内容の傾向からは、自らが学んでいる特別支援教育に関する学びや、障害のある子の具体的な支援につながることを、多くの学生に学んでほしいと捉えていることが分かる。一方で、回答数の少ない内容からは、分離教育による機会の少なさの影響や、その背後にある優生思想、医学モデルに支配された「障害」観に伴う課題への関心の低さが推察できる。これらは、分離教育の中部大学教育研究No.23(2023)―46―

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