中部大学教育研究24
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導を勇気づけるものとなっていた。7展望-これからの授業と教師の役割-「英語を学ぶ」「英語を使う」機会は、今や世の中にいくらでもある。容易に利用できるスマホアプリも数多くあるし、英語での発信をネット上で視聴したり読んだりすることも日常的に可能なことである。英語でコミュニケーションする場や機会も、リアルな社会にもバーチャルな世界にも数多く存在する。しかし、利便性と効果は正比例しない。BRIXのようなキャンパスライセンス規模の教材と、個人が無料またはサブスクリプションして購入できるアプリとは、その質に雲泥の差がある。学校教育でも早くから英語に接するようになっており、ディベートやプレゼンテーションなどのタスクを通じて「英語を使う」ことが要される場面も増えているはずである。それでもなお、英語教師としては、英語運用能力が着実に向上している印象を持ててないのはなぜだろうか。すでに何十年も同じ議論をしている気もするが、果たして大学での英語教育は「使える英語力」を伸ばすのに役立つことはできるのであろうか。e-Learningかどうかを問わず、どのようなツールや教材を用いるにせよ、さまざまな学習者が相手だということを、教師は忘れてはいけない。いつでも、どこからでも、いくらでも積極的に学習できる自由度を好む学習者もいれば、自由すぎると安心感を得られない学習者もいる。1つの学習を主体的に「している」と感じる学習もいれば、受動的に「させられている」と感じる学習者もいる。全員が同じ方向をめざし、みんなが一緒に同じ気持ちで、同じだけのことをしていく指導ができるのなら、管理者役の教師は楽である。しかし、もはや「みんな同じではないから困る」というようなことを言っている時代は終わった。今後も、多様さが広がることはあれど、統一に近づくことはないであろう。「目の前の学習者に合ったe-Learningを開発すれば良い」という意見が聞かれる。まず、学習者は入れ替わるので、学習者像を推定するには幅が広すぎる。とすれば、一定基準の限定的な教材にならざるをえない。また、開発に終わらず、その後の更新やサポートといった要素も念頭におかなくてはならないため、相当高額な教材制作費と人材が必要となることを考えれば、その時間と費用を教材選定・導入に回した方がコストパフォーマンスが良いのではと考えることができる。「e-Learningがあれば対面授業も教師も要らない」という意見も聞かれる。しかし、現実はむしろその逆ではないだろうか。「これさえあれば」という、誰にでも効果的なe-Learning教材はまだ存在しないからである。e-Learningの弱点を補えるのは、対面授業であり教師なのである。対面授業の価値は、様々な個が集まってこそ創り出される協同学習環境に身を置けることである。そこには個別学習にはないエネルギーが生まれ、相乗効果も、時にはその逆も現れるであろう。e-Learningには、こうした刺激は与えられない。自動採点にしろ自動評価にしろ、e-LearningやAI(人工知能)が得意とすることはそちらに任せられても、そこに不足する部分を補うという役割が教師にはある。対面授業でしか叶わないこと、教師がそこに存在していてこそ叶えられることが何であるかを悩むことも、生身の教師だからこそできることである。対面授業に残る価値があるとすれば、人と人が生み出すダイナミズムを感じられることではないだろうか。逆を言えば、何も感じられない授業は要らなくなるのかもしれないし、AIの方がましだと思われるような教師も要らなくなるのかもしれない。データには表れないような、学習者の様子や潜在力に気づくことには、教師の力量が問われる。これからの教師には、そのような視点と能力が一層求められるようになるのではないだろうか。あっという間に現実になってしまうかもしれないが、AIが教師力に追いつく、あるいは現代の教師を遥かに越える時が来るとしよう。「最先端」を追っていてはもう遅れているのである。それでもなお価値がある教師とはどのような存在なのかを含め、英語に限らず教育の本質を忘れることなく、先端の先、未踏の可能性を考え議論していくことが、すでに私たちには求められているのではないだろうか。本学の半世紀あまりの語学教育の変遷の中で、語学センターは語学設備の整備からサポート、成果の発信・共有を担う存在であった。BRIXに関しても、導入開始から語学センターが管理・運用を行ってきた。しかし、組織再編により、現在、語学(教育)センターは存在せず、2019年度から本年度までは、国際センターがBRIXの担当を引き継いでいた。2025年度からは、人間力創成教育院語学教育プログラムが管理・運用を担っていくことになっている。また、財政面での見直しや停電時のサーバ停止・復旧などの問題も解決すべく、2025年度からはクラウドサーバへ移行が予定されている。どのような管理・運用体制になろうとも、本稿で述べたBRIXの特徴には変わりはない。また、必要とする学習者に届くe-Learning教材としてBRIXが活用されていく可能性にも変わりはない。授業や自主学習でBRIXが一層活用されやすくなっていき、一人でも多くの英語学習者が少しでも幸せになれるようになることを、教師として見守りたい。中部大学教育研究No.24(2024)―44―

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