中部大学教育研究23
56/137

環境で、恐らく問うことすらなかった、自明視された価値観や障害観からの回答であると思われる。また「自分の中にあるバリア」の回答の少なさからは、これを考えた機会の少なさや、学生にさほど「バリア」はないと感じている可能性などが推察できる。図6からは、特別支援教育を専攻していない学生全般に対して、その関心は、「高い学生も、まあまあいると思う」と捉える回答が8件、「低い学生が多いと思う」と捉える回答が6件あった。また、一般の学生は、「あまり学ぶ必要がないと考える」「学ぶ必要性をあまり感じないと思う」の回答は1件もなく、「専門知識を学ぶことに難しさを感じると思う」に7件、「学ぶ機会を積極的に作ると良いと思う」に6件の回答があった。これらの傾向から、保育士・教員を目指す学生に対し、特別支援教育に関する学びの必要性は認識されているものの、その関心には差があり、専門知識への難しさを感じる傾向がある可能性を、学生らの回答から推察することができる。4.2総合考察調査結果からは、障害のある子供との交流保育・交流教育やボランティア活動等の体験以上に、家族・親戚・友人などとしての「身近な関係で共に過ごす」体験が特別支援教育への関心の高さにつながることや、前述の学生が幼少期から同じ場で学ぶ必要性を認識していることが示された。このことは「幼少期から同じ場で共に学ぶ」体験がこうした関心や認識につながり得ることを示唆していると思われる。そして、その理由を、障害のある子供と障害のない子供の垣根をなくすこと、互いの理解、偏見の解消などとしている通り、回答学生ら自身は垣根の低い環境で育ちつつ、周囲の人たちと障害のある子供との垣根の高さや無理解、偏見などを感じ、「幼少期から同じ場で共に学ぶ」ことがその解消につながり得ると考えていることが分かる。それゆえに「分離教育の環境を変える必要性」の認識と同時に、周囲の無理解や先生方の負担から「困難さ」も感じているものと思われる。また、特別支援教育を専攻する学生が、特別支援教育を専攻しない学生に対し、特別支援教育に関する学びを得る必要性と共に、その「難しさを感じる学生が多いと思う」と回答する傾向が捉えられた。回答からは、特別支援教育の専門性は、心身障害や特別なニーズ保育・教育に関する知識および障害のある子供とのコミュニケーションや生活支援の方法として認識している傾向にあることが分かる。また、その学びの難しさを、特別支援教育を専攻しない学生が感じるであろうと捉えていることも分かった。したがって、こうしたことを全ての学生の学びにつなげていくには、その「難しさ」を感じる壁を低くするような動機づけが必要となることが示唆される。一方で、「インクルーシブ」教育としては、回答にもあったように、そもそも多様な子供が同じ場で学ぶことを目指す必要がある。「障害のある子供」と「障害のない子供」の区別の前提にある「障害」観は、「医学モデル」にあると考えられるが、互いの壁は、他者との差異の認識や否定的な眼差し、社会的障壁、機会不平等などにある。こうした「障害」の性質を捉えると、学生たちが学ぶ必要のある内容としての調査の回答には少なかったが、「日本の障害児者を取り巻く歴史や社会」「優生思想」「分離教育による影響」「医学モデルに限らない『障害』の捉え方」なども重要と考えられる。また、約半数の学生が「障害にとらわれない、その子の理解や支援方法」と回答した通り、どのような子供も「その子」として理解・支援・教育する視点が、インクルーシブ教育の根幹におかれる必要があると言えないだろうか。とはいえ、学生たちの回答からは、「障害のある子供」と「障害のない子供」が、共生社会に向けて、互いの助け合いの体験や接し方を学ぶ体験を通した学びの必要性、「同じ場で学ぶ」ことを絶対視せずとも、交流保育・教育の機会を増やす必要性を認識していることが捉えられた。また、これを進める上での限界を、指導体制や障害のある子供の「周り」の子・保護者の理解の困難さなどに感じていた。この「困難さ」に向き合っていくには、日本の教育の背後にある価値の次元を問い直す視点も必要となるだろう。調査結果からは、分離教育の歴史を残した「日本型インクルーシブ教育」の環境で学んできた現在の特別支援教育ゼミの学生たちが、未来の共生社会の形成者を育成するための新たな価値創造をなし得る可能性を秘めていると思われた。すなわち、分離教育の影響によって、その支配的価値への気づきの浅さと共に、真のインクルーシブ教育に向かうための「同じ場で学ぶ」ことへの課題と可能性を捉えつつあること、周囲の学生の認識の高さや関心には多様さがあると感じていることなどが捉えられた。その前提には、国連も指摘する「医学モデル」支配の「障害」観が根強いことも推察できる。調査において、保育士・教員を目指す全ての学生が学ぶ必要があると認識する内容として、「日本の障害児者を取り巻く歴史や社会」「優生思想」「分離教育による影響」「医学モデルに限らない『障害』の捉え方」などについての回答が少ないことからも推察される。こうしたことこそが、「日本型インクルーシブ教育」が「インクルーシブ教育」に向かう上で、必要な学びの内容であると思われる。国連からの指摘も、日本の歴史に支配的であった、「障害」観の捉え共生社会の実現に向けた保育士・教員を目指す大学生に求められる学び―47―

元のページ  ../index.html#56

このブックを見る