中部大学教育研究2022
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1研究目的新しい学習指導要領(2017年改訂)が、2021年に中学校での全面実施を迎えた1)。主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)の視点から「何を学ぶか」だけでなく「どのように学ぶか」を重視して授業が改善される。特に「総合的な学習の時間」は、探究的な見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成することを目標にしていることから、これからの時代においてますます重要な役割を果たすものとされる。中部大学春日丘中学校では「総合的な学習の時間」の一部を利用して、中部大学との「中大連携活動」を実施している。この活動は、Society5.0に向けた人材育成2)で検討されているアクティブラーニング、STEAM教育、文理分断からの脱却の対策としてモデルケースとなる特徴を持つ。特に、STEAM教育の重要性が指摘される中、中学校におけるSTEAM教育開発の視点からこの活動の効果を評価して、今後の展開を考察することは有用と考えられる。総合科学技術・イノベーション会議の「Society5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」3)では、社会で新たな価値創造を高めていくためには、俯瞰的な視野で物事をとらえ、分野横断的、多様な「知」の集結、「総合知」を必要とし、サイエンスをベースに、異分野への興味関心、多様な知の受容力、社会的文脈や社会的課題への感覚を養うことの重要性に言及している。STEAM教育は、まさにこの課題解決・価値創造に向けたプロセスそのものであり、初等中等教育段階からの分野横断的な学び・STEAM教育の重要性が増しているとしている4)5)。日本発のSTEAM教育においては、SDGsといった共通テーマに関した概念を各教科で学習する多分野的な統合形態と、物質、エネルギー、情報、環境、生物等といった密接に関連した概念を2つ以上の教科等で学習する分野連携的な学習がすでに積極的に実施されているという報告もある6)。本研究では、大学との連携により実施された中学校でのシリーズ授業にSociety5.0に向けた人材育成・STEAM教育推進の観点から有用な特徴があると考え、生徒アンケートの分析結果をもとに中大連携活動の実施の効果を考察する。これをもとに、中等教育における課題研究の指導法、STEAM教育の開発について考え、校外連携を活用した活動の普及展開について検討―1―*1超伝導・持続可能エネルギー研究センター教授*2経営情報学部経営総合学科講師大学との連携による中学校でのSTEAM教育の開発-シリーズ授業による探究的学習・発表の指導効果-井上徳之*1・濱田知美*2要旨Society5.0に向けた人材育成の検討でSTEAM教育の重要性が指摘されている。新学習指導要領では、探究的な学びが全教科で重視され、課題研究に取り組む学校も増えている。しかしながら、課題研究の指導法や実施体制はまだ確立していない現状がある。中部大学春日丘中学校では中部大学との「中大連携活動」として、大学教員を講師とした少人数の班活動による多彩なテーマでのシリーズ授業を実施し、発展活動として啓明祭(文化祭)での出展内容を生徒自らが創作して対話的な発表を行った。中学生の指導では、「何を教えたかではなく、何をできるようにしたか」が大学教員にも求められた。この活動は、探究的学習・課題研究の指導法開発やSTEAM教育開発に有用な特徴を有している。そこで本研究では、中大連携活動の終了後に生徒アンケートを実施し、分析結果から活動の効果を考察するとともに、成果をSTEAM教育の開発に活用する可能性について検討した。キーワードSociety5.0、STEAM教育、カリキュラム開発、課題研究、科学コミュニケーション

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