中部大学教育研究24
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ために読むという姿勢をもつことで「漠然と読むよりも読書内容を深く理解できた」という学生のコメントもあり、初年度よりも知識面のサポートがより達成できたように思われた。しかしながら、こうした基礎的な技能や知識の育成に特化してしまえば、おそらくリベラルアーツ教育の意義はおそらく半減してしまう。なぜならこの授業は、自身にとっての身近な問いを探究しながら、「知」を求める態度そのものを育成するという点を重視しているからである。知識・技能の獲得という方法論的な側面が充実した2年目の授業では1年目以上にまとまりのある発表やレポートが増えた一方で、それぞれの発表・執筆内容に関する熟慮の程度、すなわち内容面での充実という点では個々の学生間で大きなばらつきが見られた。方法論を身につけるのは、あくまで自分が伝えたい内容を効果的に伝えるためである。問いの探究においてまずその内容を深めるにはさまざまな観点から自身の問いを分析する必要があり、そのためには他者の視点が欠かせない。筆者らは2年間の授業を経て、これまでの授業が個人活動とその「成果の共有」のためのグループ活動という構造を持っていたことに気づき、次年度にむけて、むしろ思考の過程そのものを共有し、その過程自体を楽しむ授業を行うべきではないかと考えた。3.3授業3年目(2023年度秋学期)表3に授業3年目(2023年度秋学期)の授業計画を示す。3年目の授業計画では、方法論に充てる授業時間を1時間減らし、代わりに(個人ではなく)グループでのポスター発表を導入するという変更を加えた。上述のとおり、前年までは知識や技能を身につけるための授業の側面が強調されていたことをふまえ、3年目はむしろ内容面に比重を置いて問いに関する思考の過程そのものを深めるというねらいから、グループ単位での活動時間を増やすことにした。それに関連して、15週目の授業では学生それぞれが執筆した途中経過のレポートを互いに読み合い、紙面上でコメントや質問をするというピア・フィードバックの機会を設けた。どちらかと言えば「成果物の共有」に終始していた前年度までの授業構成を変え、探究や思考の「過程の共有」のための機会を多く設けることで、他者との対話や学びを強調し、一つの問いを多角的に考察する態度を養うことを目指した。授業定員20名とした1,2年目と異なり3年目は40名定員としたこともあり、クラスサイズの大きさを考慮してグループでの学習機会を積極的に取り入れた。その結果、授業後の学生のコメントにはグループ活動の充実に言及したものが例年以上に多く見受けられ「問い」から始めるリベラルアーツの授業―51―19/261210/32310/10410/1713510/2424610/311711/72811/1411911/2111011/2821112/5221212/1211312/19212/261/2141/93151/16表3授業3年目(2023年度秋学期)の授業計画
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