中部大学教育研究23
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1.はじめに2020年度に、文部科学省は「地域連携プラットフォーム構築に関するガイドライン~地域に貢献し、地域に支持される高等教育へ~」1)を打ち出した。このガイドラインには、大学等が、地域ニーズを踏まえた質の高い高等教育機会を確保し、地域経済・社会を支える人材を育成することが、これまで以上に重要であること、および「大学等」「地方公共団体」「産業界等」の様々な関係機関が地域の将来ビジョンを共有し、地域の課題解決に向けた連携の強化を図っていくことが重要であるとの見解が述べられている。また、大学等の卒業生が地域にとどまるような施策を実施することも、このガイドラインの中で求められている。中部大学は、2013年度に文部科学省の「地(知)の拠点整備事業(COC事業)」に採択され、最終年度の2017年度に至るまで地域が抱える課題の解決と、地域に役立つ人材養成を通じて、地域社会に貢献していくことを目的とする事業を行ってきた。COC事業終了後も、COC継続事業として同内容の事業が現在(2023年7月7日)まで継続されている。地域が抱える課題の1つは「地域活性化」である2)。地域活性化を実現するためには、1人あたりの所得水準を増やすことを目的とする経済面と、人々が安心・元気になることを目的とする社会面の2つの軸があるが3)、後者については「スポーツ」が有効なツールになると考えられている4)。なぜならばスポーツは、顔と顔を突き合わせた親密な結びつきと協同を特徴とする親交的なコミュニティの形成に有効であり、この親交的コミュニティを基礎として、住民自らの手によって共通生活問題の共同処理を進める自治的なコミュニティにも発展しうるためである。地域活性化に資する人材の育成に、そのプロ機関である大学が貢献することが求められている3)。スポーツ庁の「令和4年度総合型地域スポーツクラブの実態調査結果概要」5)によると、総合型地域スポーツクラブが抱える現在の課題として、「クラブ運営を担う人材の世代交代・後継者確保」を71%のクラブが、「指導者の確保」を61%のクラブが挙げており、これらが全ての課題の中の上位1位と2位の割合を占めている。このため、若い世代の指導者を確保することが地域スポーツの振興、ひいては地域の活性化につながる重要な要素であると考えられる。そこで本稿では、「地域連携プラットフォーム構築に関するガイドライ―53―*1生命健康科学部スポーツ保健医療学科准教授*2生命健康科学部スポーツ保健医療学科非常勤講師*3人間力創成教育院健康とスポーツ教育プログラム准教授大学生が運営する地域運動教室の意義-地域活性化人材の育成に着目して-尾方寿好*1・桶野留美*2・松村亜矢子*3要旨地域が抱える問題の1つに「地域活性化」がある。地域活性化を実現する方法の1つがスポーツである。そこで、我々は、中部大学生が地域活性化に資する人材として成長するために、春日井市と社会福祉法人まちスウィングと共同で、大学外の地域コミュニティにおいて大学生が地域住民に運動指導を行うことができる機会を設けた。大学生は、50歳以上を対象としたシニア教室と、小学生を対象としたキッズ教室の2教室での運動指導を担当した。運動指導のみならず、運動メニュー作成および運動指導に対する反省を大学生に課した。この運動教室に参加した大学生2名が卒業後に社会福祉法人まちスウィングに就職し、同地域にてスポーツを通したまちづくり事業に従事している。これは、文部科学省の「地域連携プラットフォーム構築に関するガイドライン」の中に示されている「産業界等が大学等での人材育成に対する協力を積極的に行うことで、大学等の人材育成機能を高め、結果として優れた人材の定着といった好循環が期待される」との趣旨に合致する事例であると言える。キーワード運動指導、大学生、地域活性化、地域社会

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