中部大学教育研究23
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1はじめに中部大学学生相談室では相談業務の主軸となる学生を対象とした個別面接に加え、①学科必須科目1単元「社会生活の基礎・大学生の対人関係」の出前授業、②UPI学生精神的健康調査を含む調査の実施とハイリスク学生の呼出面接、③相談員の研修を受けた上級生サポーターによる一人暮らし学生対象のグループの運営や、自己理解他者理解を促す心理教育グループの開催を通して多層的な支援をしてきた(佐藤,2023a)。近年の学生相談室の利用件数は5年前の約2倍に達し、学生をめぐる教職員や学生の親・家族を対象としたコンサルテーション件数が相談件数の25.3%を占めている(佐藤・渡邉,2022)。2000年来、非常勤カウンセラーの勤務日数を増やすことにより堅固な相談体制が組織され(谷口,2018)、教職員の学生支援力の増強のため定期的にFD・SD活動が開催されてきた(渡邉・佐藤,2021;佐藤・渡邉,2022)。本学の学生相談室は1968年に専任カウンセラーが採用されて開室し、「相談室のある大学が珍しい時代に画期的な試み」(桐山,2018)とされていた。専任が配置されていた期間は短く、学外から週1日非常勤カウンセラーを招いて開室する期間が長く続いたが、その後1995年に専任カウンセラーが教員として再配置され、再出発の時を迎えた。学生相談室の支援体制が整備されるに伴い、相談業務から得られた知見を、授業や課外活動で学生対応の最前線にいる教職員の学生支援に活かす取り組みを模索してきた。2006年には、冊子『教職員のための学生と向き合う25の提案―こんなとき、あなたはどうしますか?―』(中部大学・教育を考える研究会編)が発行され、2012年には、DVDと冊子『アスペルガー症候群の学生を理解し支援するために』(中部大学学生相談室編)が制作された。その後10数年を経て、学生層の多様性、教育観の変化、社会の多様性の流れのなか、今日の学生支援の実際に合わせて『学生支援ハンドブック―学生の困ったに効く21の提案』(中部大学学生相談室編,2023)を作成するに至った。本研究では、これまで学生相談室が制作してきた学生支援の冊子2冊とDVDを取り上げ、その制作過程と取り上げられた項目の変遷から、今後本学学生相談室に求められる支援について考察することを目的とした。22006年制作『こんなときどうする?学生と向き合う25の提案』の制作理念:内容と課題2.1学生相談室体制専任カウンセラーが再配置された1995年からの5年間で、相談件数、学内認知度が上がり、2000年に非常勤カウンセラーの採用が実現することで、面接業務においての協働が可能となった。相談体制の拡充により、―71―*1教育戦略部門学生相談室教授ハンドブック制作から考えるこれからの学生支援佐藤枝里*1要旨中部大学学生相談室は教職員を対象に学生支援のために2冊のハンドブックとDVDを制作してきた。その制作過程と内容の変遷を考察したところ、学生層の多様化だけでなく、制作時の学生支援体制、学生支援に対する学内理解度、大学教育への社会からの期待が関連していることが推測された。今後、高大連携による入学前教育の強化やリスキリング拠点としての大学の在り方など、社会からの大学教育への要望の多様化が予測され、入学予定の高校生、社会人学生や高齢学生、留学生へと支援対象の拡大の可能性が推測される。家族の役割も変容を遂げ、大学生の子どもを持つ親・家族を対象としたハンドブックも必要となるかもしれない。教職員側の多様性が進む可能性もあり、学生相談室から発信される知見も様々な障害特性に配慮した情報バリアフリーの充実が期待されることになるのではないだろうか。キーワード学生相談学生支援ハンドブック大学教育支援多様性

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