中部大学教育研究23
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て、クリニックに通いながら授業に通っている学生も少なくありません。家族関係も複雑で、相談されてもどう対応していいかわからない場合があります。そんなとき、あなたはどうしますか」という投げかけがされ、続いて以下の4つの選択肢が示される。①「頑張れ。あなたならできる」と肯定的に励ます。②自分にはわからないので他に相談に行くように伝える。③何かよい助言ができないかと知恵をしぼる。④とりあえず話を聞く。「とりあえず学生の話をしっかり聞いてほしい」というメッセージを巻頭に掲載していることからも、『25の提案』制作の目的が、大学人として学生と向き合うときの基本姿勢(学生の声に耳を傾けること)を広く学内に示すことであることが読み取れる。続く第2章「学生の話を聞く」では、受容と共感、傾聴をはじめとするカウンセリングの基礎知識、学生の話を聞くことの教育的意義が記されている。読み進めるうちに、第1章でのクイズ仕立ての「問い」の背景にある学生支援、学生相談の神髄に至るという流れとなっている。『25の提案』が制作された翌年の2007年に、日本学生支援機構から出された報告書「大学における学生相談体制の充実方策について」において学生支援の3階層モデルが提示され、「総合的な学生支援」と「専門的な学生相談」の「連携・協働」についての提言がされた。学内支援の方向性が全国的に明示される前に、冊子制作を通して、学生相談の理念、すなわち「対象となる学生一人ひとりが自己を理解し、コントロールし、自分らしい社会への巣立ち方を選択できるよう『個』としての主体を育てることにある」(高石,2020)という理念を示し、学生の心理的成長のために教職で協働しようというメッセージが発信されていたことは大変意義深い。学生支援という主題を通して深淵なる理念が披露され、多くの問題が提起された1冊となっている。2.3課題『25の提案』は、学内配布やFD・SDの参考テキストとして使用されただけでなく、全国他大学のFDSDでも広く用いられた。他大学からの引き合いに応じて増刷し、発行部数は12,000部に至った。出版から年月を重ねるなかで、発達障害やその傾向のある学生への支援を必要とする場面が報告されるようになってきた。学生をめぐるコンサルテーションのために来室した教職員から、対応の難しい事案についての項目を追加してほしいとハンドブックの続編を望む声が上がるようになった。32012年制作DVD『アスペルガー症候群の学生を理解し支援するために』の制作理念:内容と課題3.1学生相談室体制学生相談室の来談学生数はますます増加し、発達障害、引きこもり、退学、ハラスメント等、相談内容も深刻なケースが目立つようになっていった。2004年制定の発達障害者支援法と2016年の発達障害支援法一部改正を前に、本学でも発達障害学生やその傾向のある学生の理解と適切な対応が求められるようになり、視聴覚資料制作への機運の高まりが感じられるようになってきた。2007年に専任カウンセラー2名と専任事務職員1名での相談体制が構築されてから5年を経て、DVD『アスペルガー症候群の学生を理解し支援するために』(以下、DVDと記す)が制作されることとなった(図3)。制作企画は、専任カウンセラー2名に加えて、学生相談において連携をしてきた心理学科教員、学部事務室職員の4名で行った。学生対応の最前線にいる学科教員と学生支援課(当時は学生課)職員、学部事務室職員を対象に「よくあるケース」を収集するためにカウンセラーが聞き取り調査を行った。その結果、「講義場面」「呼出面接場面」「窓口対応場面」での教職員の困り感を取り上げ、解決のヒントが求められていることが明らかになった。発達障害の学生の様子とその対応を、大学での「よくあるケース」としてドラマ化して映像で表現するために、学内関係部署スタッフの協力を得て協働制作することとなった。撮影から細かい編集に至るまでの作業を学内メディア教育担当部署職員に依頼した。教員2名と学生支援部署職員1名、そして、学内演劇部学生3名に出演要請をした。学生対応の「よくあるケース」の映像化だったことハンドブック制作から考えるこれからの学生支援―73―図2『25の提案』のレイアウト

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