中部大学教育研究23
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もあり、各人の経験を生かした独自の役作りがなされ、完成後には視聴者から「プロの役者を起用したのか」との問い合わせを受けるほどの完成度が得られた。演劇部員の役作りには、当時TV放映されていた発達障害の傾向のありそうな主人公が活躍する人気ドラマ視聴の勧めが大いに役に立ち、こちらも「当事者を起用したのか」との問い合わせを受けたほどであった。情報の可視化のためのDVD挿絵は、フリーのカットは使わずにイラストの得意な学生に描き起こしを依頼した。制作資金は、2012年度の中部大学特別研究費CP(学内競争的研究費)を獲得し、学内の協働制作となった。3.2理念映像資料を基に、アスペルガー症候群に関する解説と学修面及び生活面からの支援のありかたの提示を通して、学生相談室から以下の思いを発信したいと考えた。まず第1に、当時まだ理解が得られていなかった発達障害やその傾向のある学生の障害特性を理解したうえで、彼らの肯定的な面に注目し適切な対応をすることで、可能性を伸ばすことができると言われていることを伝えたいと考えた。第2に、発達障害の学生への関わり方の基本姿勢は、健康な学生への支援の在り方にも通じるものであることを周知したいと考えた。そこで、支援のポイントとして、英国自閉症協会によるSPELLという関わり方の基本姿勢を取り上げた。SPELLとは、枠組みをもって対応するという構造化(StructureのS)、肯定的に接すること(PositiveのP)、その人独自の考え方を受け止める、共感すること(EmpathyのE)、ストレスや不安を与えず低刺激を図ること(LowarousalのL)、関わる多くの人・機関と連携すること(LinksのL)の頭文字である。こうした関わり方の基本姿勢は、実は学生支援の基本でもあるということを明記した。3.3課題制作当時在学していたアスペルガー症候群やその傾向のある学生とは学業面での問題がほとんどなかったことから、DVDの主眼は、彼らの特性や教職員側の具体的な情報伝達方法の周知におかれていた。当時はまだ限局性学習障害の学生は極めて少数派であったため、学習障害学生への支援を取り上げることはなかった。学習に困難を感じる彼らの支援については、熱心な指導教員との関係性においてか、若しくは熱心な指導教員に連れてこられた学生相談室において、その人らしい進路を共に考え、思うように学べない悔しさや不条理を聞くという形での支援として展開されていた。4昨今の学生支援の実情上掲DVD制作から10年が経ち、コロナ禍以降、学生からの相談内容も「心身健康」が増加し、ストレスが身体化するケースがより顕著となってきた(佐藤・渡邉,2022)。学生生活上のさまざまなリスク予防(カルト問題やハラスメント防止)が求められ、学科必修科目「スタートアップセミナー」参考テキストにも改訂が加えられていった(中部大学人間力創成教育院初年次教育プログラム編,2022)。コロナ禍の影響もあってか、対人距離の持ち方の困難さからくる対人関係の諸問題や自死の問題といった危機に直面する学生の理解と対応の知識も必要となってきた。また、学生相談室の利用者数、面接件数が10年前の約2倍に増加し、教職員と親・家族を対象とするコンサルテーション業務が全利用者数、全面接件数ともに業務の約3割を占めることが常態化するようになってきた(佐藤・渡邉,2022)。教職員が「気になる学生」を見逃さず、丁寧な対応をしていることの裏付けでもあるが、学生相談室の人的資源、マンパワーにも限界がある。学生相談室から、教職員が学生対応の際に心得ておくとよい点、留意点を可視化し発信することで、より適切な支援に繋がるのではないかと考えた。5『学生支援ハンドブックー学生の困ったに効く21の提案』の制作理念:内容と課題5.1学生相談体制2022年度の学生相談室は、専任カウンセラー2名と専任事務職員1名、非常勤カウンセラー5名が週1日勤務するという体制で運営されていた。本学の非常勤カウンセラーは授業経験を有しており、非常勤講師として採用されている。冊子制作にあたり、学生相談室の構成員である5名のカウンセラーに加えて、前職が学生相談部署であった学部教員5名にも執筆を依頼した。授業担当者及び中部大学教育研究No.23(2023)―74―図3DVD『アスペルガー症候群の学生を理解し支援するために』ジャケット表紙・裏表紙

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