中部大学教育研究23
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支援者としての経験を有するメンバーからの言葉を集約した冊子となった。5.2理念本学で『25の提案』が制作されて以降、大学生を対象とした支援ハンドブックが全国の学生相談室で制作されるようになった。18歳人口減少問題を背景に、多様な学生を受け入れることになった大学で、学生支援が大きな課題となったことの証左と言えよう。『学生支援ハンドブック』では、巻頭に表記法についての見解を記す必要があった。2022年度より民法改正により成年年齢が18歳に引き下げられたことを受けたことや、親のいない学生も在学していることから、「保護者」「保証人」でなく「家族」という表記を用いた。また、本学における学生支援に関する指針や対外的広報では「障がい」が用いられているが、参考文献や資料では「障害」が用いられていることが多く、表記の混在による読みにくさを回避するために「障害」で統一した。「聞く」「聴く」「きく」という様々な表記法があり、文中では「聞く」で統一したが、「学生の話をよく聞くことは教育的効果がある」という理念からタイトルに「効く」という文字を用いた。急激な社会情勢の変化を受け、学生支援が複雑化困難化するなか、入学時から丁寧な支援が必要となる発達障害学生支援や性的違和をはじめとする新しい人権、ハラスメント防止、親対応といった視点が不可欠となり、改訂版においてはこれらの諸項目を盛り込む必要があった(佐藤,2023b)。4章構成で、「学生に寄り添うために」で理念を、「学ぶ力を伸ばす」で学業支援を、「心の危機と向き合う」「問題解決のために」で学生の心理的危機とその対応を扱い、事例を精選した(図4)。学生支援の最前線にいる教職員が欲する情報をいかにわかりやすく伝えるかを考え、1項目を見開き2頁で扱うこと、対人関係・対人支援は「絶対正解」が得難い領域であるものの何らかの糸口・ヒントの提供となること、視覚的にわかりやすく直感的に理解しやすいことを考慮した(図5)。2019年に「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(読書バリアフリー法)が制定され、障害の有無に関わらず全ての国民が等しく読書を通じて文字・活字文化の恵沢を享受することができる社会の実現が求められている。学生相談室が制作する資料も、文字の大きさやフォントなどの「読みやすさ」と、情報提供の仕方が左右する「わかりやすさ」を軸に検討が加えられた。配色は、黒を基調にオレンジ色を用いた二色刷りとした。強い印象を持つフォントであるゴシック体で繊細な内容を表記した。ケース1では、「学生が相談に来たとき」の対応を示している。「『自分の話をちゃんと聞いてもらえた』と学生が納得しその後の成長につながるような対応がしたいのですが、どうしたらよいのでしょうか」という質問が記され、対応ポイントを太字のオレンジ色で明記している。時間に余裕がないときや内容を概観したいときに、太字部分を読むことでヒントが得られるようレイアウトされた。『アスペルガーDVD』で、発達障害やその傾向のある学生に対して、図示したり可視化したりすると情報伝達がしやすくなる旨を記したが、『学生支援ハンドブック』でも学内連携の手順をチャートにして掲載した。学生支援課と合理的配慮の申請窓口を有する学生支援部署スタッフの現場の経験値をもとにチャートが制作された(図6)。ハンドブック制作から考えるこれからの学生支援―75―図4『学生支援ハンドブック』目次CACASESEChapter 101●「共感と要約」で対応し一緒に考える姿勢を示す●目の前の学生をありのままに受容し変化をサポートする●時間の設定をする●経過を見守るAnswer「自分の話をちゃんと聞いてもらえた」と学生が納得し、その後の成長につながるような対応がしたいのですが、どうしたらよいのでしょうか。Question67目の前の学生をありのままに受容し変化をサポートする共感は、ゴールではありません。共感は、学生がこれからその課題に向き合いどのように乗り越えていくのかを一緒に考える上での基盤となるものです。学生のありのままの現状を認識した上で具体的な対応について考え、伝えていきましょう。学生の理解度や状況に応じて適切な言葉を選び、表情や反応から伝わっていないと感じられた時には話し方を柔軟に変えていきましょう。「わかりましたか」と尋ねるよりも「ここまでのところで確認したい部分はありますか」といった具体的な聞き方や、図示するなどの情報の視覚化も学生の理解の助けになるようです。時間の設定をする面談の開始時に何時まで(何分くらい)時間が取れるかを伝えておくと、学生も安心して話せるようです。授業の直前や夜遅い時間帯などに急に相談にやってくる学生もいます。そうした場合には、じっくり話を聞きたい気持ちを伝え、次に会う約束をしましょう。緊急性が高い場合や相談を受けた人がひとりで抱えるには重すぎる場合には、本人の了解を得て他の教職員と連携して支えていきたいと思っていることを伝えてください。経過を見守る直ぐに問題が解決しないときには「一緒に考えていけたらと思うのでまた〇日後に来ていただけたらと思いますが、いかがですか」と伝えてみましょう。次の約束は学生の安心に繋がります。面談終了後も普段の学生の様子を見守っていただければと思います。学生が相談に来たときうまく伝えられるだろうか、否定されないだろうかなど、学生が教職員に相談することは勇気がいるものです。そのようななか、自主的に相談に来たり呼出しに応じたりした学生には話しやすい雰囲気で接したいものです。「よく来てくれましたね」という労いの言葉や「雨が続きますね。寒くないですか」という挨拶はよい雰囲気作りになるようです。「共感と要約」で対応し一緒に考える姿勢を示す相談の時間は、学生にとって自分自身のことを静かに考える貴重な機会でもあります。この学生は何を伝えたいと思っているのか、困っているのか、焦っているのか、途方に暮れているのか、どのような気持ちなのかと相手の胸の内を考えながら聞いていきましょう。言葉だけでなく、語られる表情、声、視線、姿勢も学生を理解するのに役立ちます。話を聞きたい、一緒に具体的に考えていきたいと思っていることがきちんと学生に伝わる面談を心がけたいところです。途中で色々言いたくなる気持ちは一旦横におき、まずは話を遮らず否定せずに最後まで聞いてください。聞き手側の表情、声、視線、姿勢も重要です。腕を組んだり、足を組んだり、ふんぞり返ったりした姿勢は相手に威圧感を与え、話す意欲を低下させてしまうので注意が必要です。相槌を打ったり頷いたり、聞いた言葉を繰り返したりしながら一通り話を聞いた後に、「〇〇ということなのですね」と要約して伝えてください。わかってもらえた、共感してもらえてほっとしたという体験が困難を乗り越えていく学生の力になるかと思います。図5『学生支援ハンドブック』レイアウト

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