中部大学教育研究23
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冊子のもつ五感情報にも臨床的な意味があり、大切にしたいと考えた。そこで、冊子の表紙絵制作は、2017年に本学で開催された日本学生相談学会第35回大会(大会委員長桐山雅子名誉教授)のプログラム及び論文抄録集表紙イラストを担当した芸術療法を専門とする南山大学人文学部心理学科教員伊東留美氏に依頼した。分担執筆者および学生相談室事務スタッフに対して、『「私にとって、学生相談室はこんな場所です」という皆さまのイメージを「もの」「かたち」「いろ」などで教えてください』との質問項目が課された(伊東,2023)。学生相談室から連想されるイメージが、「ことば」もしくは「ことばの補助的表現としてのイラスト」として求められ、集められた素材から表紙絵デザインが完成した(図7)。日常から暫し離れて「自分の持つ学生相談のイメージとはどういうものなのか」をイメージする時間は、芸術療法的な時間であったと言えよう。表紙絵はパステルを用いた柔らかなタッチで描かれ、印刷会社のイラストレーターがタイトルの「ハンドブック」から連想したミシン目の入ったフックが描かれ、生命を育む大地、基盤となる土壌、土をイメージした茶色が用いられた。紙媒体に記されたメッセージを挟み込む表紙両面は優しく穏やかな印象に仕上げることで、ゴシック体を黒とオレンジの二色刷りで表記するメッセージ性の強さとのバランスを取りたいという思いは、表紙の完成によって達成された。6考察中部大学学生相談室が教職員を対象に学生支援のために制作してきた2冊のハンドブックとDVDを、その制作過程と内容の変遷の軸から検討したところ、学生層の多様化だけでなく、制作時の学生支援体制、学生支援に対する学内理解度、大学教育への社会からの期待が関連していることが考察された。『学生支援ハンドブック』の内容は、『25の提案』で扱われた健康な学生を含む学生支援の一般から、発達障害やその傾向のある学生の理解と支援のために制作された『アスペルガーDVD』を経て、より多様な学生対応に言及する内容へと変遷を遂げてきている。今後、高大連携、入学前教育強化の要請から、入学前の進学予定高校生や、リスキリング拠点の大学として社会人・高齢学生、留学生へと支援対象の拡大が推測される。また、IT技術革新により「学びの意義」も受け入れる学生も多様化が進むことが見込まれる。家族の在り方・役割も大きく変化しつつ、大学生の子どもを持つ親・家族を対象としたハンドブック制作を要望する声さえある。教職員側の多様性が進む可能性も考えられる。「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(読書バリアフリー法)」(2019年制定)に基づいて、学生相談室から発信される情報も伝達方法のバリアフリー化が期待されることが推察された。新しい人権といった法律面の変化だけでなく、これまでにない急速な変化を受けて、新しい体験や新しい感覚を持つ若者が大学に入学することになろう。個々の学生のもつ特性や独自性を汲み取りながら、学生の心理的成長の促進を可能にする学生支援の在り方を模索し発信していくことが強く求められている。引用文献中部大学学生部学生相談室編2023学生支援ハンドブック―学生の困ったに効く21の提案―.中部大学学生相談室編2012アスペルガー症候群の中部大学教育研究No.23(2023)―76―56571.学生相談室との連携駿河台大学健康相談室委員会編「教職員ための学生対応Q&A」pp.1より引用し、一部改変学生支援 連携フローチャート2.合理的配慮申請から実施までの流れ 中部大学の例:学生サポートセンター(障害学生支援担当部署)との連携サポート・配慮の例・履修登録指導 ・座席位置の調整・講義内容の録音許可 ・実技・実習配慮・レポート作成指導 ・レポート提出期限の延長・別室受験 ・試験時間の延長・評価方法の変更・調整 ・キャンパス内移動のサポート・課外活動にまつわる相談・サポート ・修学支援機器の貸し出し・地域関係機関との連携、移行のサポート等教職員気になる学生問題行動学生に自覚がある困り感がある教職員で対応解決できない学生に自覚がない困り感がない学生の話を丁寧に聞く学生の気持ちを受容(1回から数回)見守り、声かけコンタクト教職員で対応解決学生を学生相談室へ教職員が学生相談室へ学生相談室で対応教職員と連携・対応相談者(学生・家族)受付(学生サポートセンター)状況確認(アセスメント)関係者会議配慮内容決定(学長決裁)配慮依頼本人への通知配慮実施モニタリング保健管理室学生相談室管財課学部事務室教務支援課学生サポートセンター必要に応じて招集学科主任指導教員プランニング図6学生支援連携フローチャート図7『学生支援ハンドブック』表紙

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