中部大学教育研究24
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1はじめに1.1取り組みの背景・課題1つのキャンパスに全ての学部学科が集う4年制の総合大学としての中部大学を舞台に、筆者らはこれまで独自の「学生が作る講義」の構築を試みてきた(例えば;工藤,2005)。1クラス100名以上の全学からの受講者を対象に、毎回意見・希望を聴取し、互いの発想を紹介し合い、次の講義テーマおよび進行方法のデザインに反映して行く方法がとられた。しかしながら、2020年に始まった新型コロナウイルス感染症(Coronavirusdisease2019:COVID-19)の世界的大流行により、ほぼ全ての対面式授業が実施不可能となった。このような状況下で、上記のような試みの継続は一旦困難なものとなった。一方で、大学教育の方法に関しては新たな発想を生み出す契機ともなった。多くの講義を「遠隔」に置き換えて実施する中で、「受講者をどう授業に参加させるのか」といった課題と改めて向き合うことで、さまざまな工夫が生まれた。例えば、筆者の1人(鈴木)は、インターネットを利用した会議ツールを応用し、グループワークを取り入れた課題解決型のリベラルアーツ授業を実現させた。これら喫緊の課題に対応し試行錯誤する過程で、筆者らはコロナ禍以前にも増して受講者主体の協働型授業の重要性について認識することとなった。本稿では、これらの背景を踏まえて筆者らが実践してきた新しい授業創成の経緯について報告する。1.2教育の背景・課題現代社会はコロナ禍を経験し、人工知能(ArtificialIntelligence:AI)の開発は加速度的な発展を遂げている。このような背景のもと、学校の教育に関しても「新しい探究が生まれる場」への転換が提案されるようになった(例えば;孫,2023)。従来の知識伝達型授業の多くの部分はAIやインターネットを活用し効率化する一方で、学生が探究する主体となれるような教室をどうデザインするのか。筆者らは、これらの問いを共有し、議論を重ねながら、各々の得意分野をベースに大学教育の現場と対峙した。2新しい授業の創成以上の経緯から、「ワンキャンパスの総合大学だからできる新しい授業」を模索し、2023年度より、以下のようなクラスを立ち上げた。現在は、1クラス30名以下、春・秋学期合わせて7クラスに分かれて試行し―77―全学からの学生参加による協働型授業の新規創成-持続学を題材として-工藤健*1・大谷かがり*2・大橋岳*3・小山太郎*4・鈴木順子*5・塚元佑真*6・寺井一*7要旨中部大学の特別課題教育科目として、全学部・学科の学生参加による協働型授業を創成し実践した経過を報告する。コロナ禍以降の社会では、インターネットを利用した技術や人工知能の開発が急速に発展を遂げ、大学教育の現場は、知識伝達型の講義の場から、学生主体で新しい探究心を促す場への転換が始まっている。このような背景を踏まえ、筆者らは新しい授業をデザインし、その実践を通じて現代社会に対応できる人間力の醸成を模索している。「体験型」、「ディスカッション型」および「小論文型」に大別される授業形態を企画し、実際の科目に適用し、試行を始めている。今回、受講者アンケートおよび自由記述による感想・提案などから、これまでの取り組みの成果を検証した。概ね狙い通りの効果が表れている一方で、新たな課題が見えてきた。キーワード探究学習、協働型授業、グループワーク、リベラルアーツ、持続学*1人間力創成教育院特別課題教育プログラム教授*2看護実習センター助教*3人間力創成教育院教養課題教育プログラム准教授*4人間力創成教育院教養課題教育プログラム講師*5創造的リベラルアーツセンター教授*6人間力創成教育院健康とスポーツ教育プログラム助教*7人間力創成教育院語学教育プログラム教授
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