中部大学教育研究24
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ている。どのようなデザインに基づいて、どのような形態の授業を企画したのかを以下に紹介する。2.1授業のデザイン全ての学部・学科から集った仲間同士によるディスカッションが要所を占めるが、ここでは「論破する」ことを良しとはしない。ワンキャンパスの総合大学で、自分と異なる意見を尊重しつつ、factを前に考え、自分の道を歩むための人間力を開拓する。受講者全員が「考えを口に出してみる」。グループ討論により新たな問いが生まれ、必要な体験や学びの方向性に気付く。解った事や気付いた「物の理」を持ち寄って議論を1段階深める。議論の流れの中で、必要な知識や最新の研究の動向については講義形式の授業を差し挟む。これらを繰り返しながらレポート・小論文等を完成させてゆく。2.2授業形態各クラス担当者の設定テーマの自由度および今後の発展性を優先し、授業形態は統一せず試行を始めている。大まかには、「体験型」、「ディスカッション型」および「小論文型」に分けられるが、多くのクラスではこれらを組み合わせた「複合型」の授業が展開されている。以下に、各授業形態の概要を示す。体験型:テーマに沿って理解を深めるため、現場に出て自ら体験してみる。あるいは実際に計測してデータを収集してみる。これらの経験あるいは結果に基づいて探究を進めて行く。筆者の1人(塚元)は、中部大学人間力創成教育院・健康とスポーツ教育プログラムの施設を利用し、「受講者自らが体を動かし、その様子を計測することによって自分を知る」といった体験を授業に導入した。筆者の大橋・大谷は、受講者と大学の外へ出て、研究施設や地域のコミュニティーとの交流を通して問題解決への提案も含めた発表会を企画・実施した。ディスカッション型:グループに分かれて各回のテーマについて議論し、互いの探究を進め、新たに生じた問題を共有する。手法としては、ワークショップ(中野,2001,2003)、KJ法(川喜田,1970,2017)を参考に、全学から参加した受講者が参加しやすい授業形態に落とし込んだ。筆者の1人(工藤)は、受講者自身の考えを簡潔に複数枚の付箋に記入させ、グループワークをスタートさせた。各グループはホワイトボードを囲み、付箋に書かれた考えを紹介しつつ議論しながら分類して行く。グループごとにまとまってきた概念をホワイトボード上に地図のように表現させ、全ての付箋を然るべき位置に分布させ、それらを用いて互いに他のグループの受講者に向けて発表会を実施した。具体的な実践例は第3章で紹介する。小論文型:筆者の1人によって執筆された「レポート・論文作成ハンドブック」(寺井,2024)を活用し、調査・理解したこと、考えたこと、将来への展望について小論文としてまとめ上げることを最終目標とする授業形態である。このハンドブックは、本稿執筆時点で終了している授業には出版が間に合わなかったが、今後は全てのクラス(他の授業形態も含む)で活用される予定である。2.3身に付くスキルこれらの授業に参加することにより、それぞれの授業のテーマについて理解を深めるだけでなく、以下のようなスキルを身につけることができる。・自分の考えを簡潔に伝える力。・相手の意見を理解し探究を発展させる力。・必要な(正しい)情報を得るためのスキル。・プレゼンテーションツールの効果的な使用法。・レポート・論文の作成法。3新しい授業の実践記録(例)ここで紹介した新しい授業は、中部大学人間力創成教育院・特別課題教育プログラムで運営している全学向け科目「持続学のすすめ」(行本・他,2020)の一部として2023年度に開設され、当該科目を発展させるクラスとして試行されている。この科目は、「平成21年度採択文部科学省大学教育・学生支援推進事業【テーマA】大学教育推進プログラム『持続学のすすめ』による実践型人材の育成-文理融合型教育による「あてになる人間」の育成-」の取り組みの中核を担う目的で発足し(行本(編),2012)現在に至る。今回の新しい取り組みの実践記録の例として、筆者の1人(工藤)の担当クラスに関する授業内容を中心に紹介する。3.1全体(15週)の流れの具体例全体を通してのテーマを『「心」は何処から来たのか?何処へ行くのか?~宇宙・地球の歴史を背景に、命の持続(生命の進化)とともに考える~』としたクラスの例を、以下に紹介する。当該クラスの全期間(15週)のフローチャートを図1に示す。中部大学教育研究No.24(2024)―78―

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