中部大学教育研究24
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3つの小テーマに分け、グループ(6~7名)に分かれて議論を深めて行く。各小テーマの冒頭には講義形式による【問いかけ】を行い、議論を始めるにあたってのアシストをし、グループ内の【自由討論】に移り、議論を収束させながら順次【レポート作成】に移る。この時のレポートが「最終レポート(小論文)」の1つの章になることを意識させる。これらを3セット(3つの小テーマ分)繰り返す。1つ目の小テーマは「心とは何か」。ここで各グループが全期間を通して探究して行く「心」について、ある程度の共通認識を擦り合わせておく。如何様にも捉えることのできる問いかけについて、様々なバックグラウンドを持った多様な学生同士が互いの予想外の発想に驚き、それらを認めつつ自身の考えを述べ、位置付ける訓練をした。受講者の中には、これまでに受講した哲学の授業から着想を得て、複数の著名な哲学者による「心」の捉え方について調べる者も現れた。他にも、学内の他の授業とのつながりや自発的な発展学習の成果が確認できた。2つ目の小テーマは「心はどう生まれたか」。ここでは【問いかけ】の段階で地球科学的アプローチを紹介した。恐竜絶滅後の世界でネズミのような姿をしていた霊長類の祖先の頭蓋骨の化石の変遷を辿って行くと、目が顔の前方に移動し、視力が向上し、表情筋が複雑に発達して行く様子が推測できる。これらの進化により我々の祖先は思いを表情で伝えたり、相手の表情を自分に置き換えたりすることが可能となり「思いやり」が生まれ、「心」が育まれて行ったと考えられる。また、これらの進化は約5000万年前に絶妙なタイミングで大陸が移動していなかったら生じ得なかったことなどを研究成果とともに紹介することで、我々の心は偶然の産物であることを意識させ【自由討論】を開始した。これにより受講者の間では、時間軸や様々な事象の「つながり」を意識した議論が始まった。一方で、身近な例として、幼児が心を発達させて行く過程について紹介する学生も現れた。3つ目の小テーマは「心は何処へ行くのか」。これまで議論してきた過去と同じスケールの未来について議論を促した。ここでは、多くの学生がインターネットやAIの発達に漠然とした不安を抱いていることが明らかとなった。「AIの提案通り行動しているうちに、未来の人類からは心が失われて行くのではないか」といった発言もあった。これら3つの小テーマによる議論を経て、各グループのプレゼンテーションをクラス全員で聞く時間を設けた。グループごとに話し合い、役割分担を確認し、必ず全員が交代で発表することを義務付けた。プレゼンテーションツールを用いたスライドの作り方や話題提供の方法まで、互いに良いところを評価し合った。最後は前述の寺井(2024)を利用しての「最終レポート」の作成。授業担当者の論文なども紹介しつつ、「小論文」の体裁を意識した仕上がりを要求した。3.2ポストイット・トーク2.2節の「ディスカッション型」で紹介した、付箋とホワイトボード活用によるブレインストーミングの様子を図2に示す。各小テーマについて、各自の考えを複数枚の付箋に分けて簡潔に記す段階で、先ずは自分の考えの整理ができる。これらを持ち寄って、互いに紹介しながらホワイトボード上でレイアウトし、それぞれの意見を分類しながら配置していく。これにより、互いの意見を相対的に比較することができる。また、意見の配置を通じて自分の「思考空間における位置」が見えてくる。ホワイトボードにどのような「地図」を描くかに関しては議論が白熱した。複数の正解が混在する議論の中で、相手の意見を認めつつも、自身の分類法の面白さを主張するケースも散見された。一方で、単純に縦全学からの学生参加による協働型授業の新規創成―79―図1全期間(15週)のフローチャートの例図2付箋とホワイトボード活用によるブレインストーミングの様子
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