2024幸友 VOL.27
16/36

 ご自身やご家族・知人が「重症な病気・事故で、集中治療室での治療を受けてひとまず回復したけれど、なんとなく調子が良くない」と自覚されている方はおられませんか?また、「家族が集中治療を受けたがその後から調子が悪い、残念ながら回復に至らず、そのあと自分の調子があまりよくない」という方はおられませんか?今回は「集中治療室で治療を受けた後の健康障害」と、集中治療や肺炎にも関連する「口の中の衛生と健康」についてお話しをいたします。 重症な病気や重度の事故の場合は、集中治療室(ICU)での集中治療が必要になります。集中治療では、ベッドの上で血圧・心電図などを24時間モニタリングされ、人工呼吸器を使用したり、多くの種類の薬剤が点滴され、さまざまな管が体に挿入されることもあります。新型コロナウイルス感染症の重症例に対して、「エクモ(ECMO:膜型人工肺)で治療をした」というニュースを度々耳にしましたが、エクモをはじめ心臓・肺や腎臓などの治療では、数日にわたり太い管を血管に留置することもあります。こうした治療は、意識がある患者さんにとっては苦痛が強くなるため、苦痛を和らげるために鎮静剤が投与されることもあります。 近年の医学の進歩により、集中治療で多くの患者さんの命を救えるようになりました。患者さんの病状が安定すれば、少しずつ治療に必要な管が抜けて、ICUから一般病棟へ移動することになります。食事やトイレへの歩行も可能となり、一般病棟で病状が回復すると、退院かリハビリテーションのために転院して、その後に退院して自宅で過ごす方もいます。 しかし、最近の研究では、重度な病気などで集中治療を受けた患者さんのうち、治療後数年にわたり「歩くのが遅くなった、歩ける距離が短くなった」などの身体的な機能の低下、「元気が出ない、落ち込みや不安が強い」など精神の不調、「物忘れがひどい、集中できない」など認知機能の低下が生じていることが明らかになりました。重症な病気は回復した一方で、こうした症状で辛さを感じたり、症状によって日常生活上の行動が減って楽しみが少なくなるなど、生活の質(QOL:quality of life)の低下で苦しんでいる方がいるのです。専門用語では、“集中治療後症候群”といいます。集中治療後症候群の症状は、患者さんが辛くなるだけではなく、ご家族の介護負担も懸念されます。また、患者さんがICUや救急部で治療を受けることで、ご家族(ご遺族)も、精神の不調が生じることも明生命健康科学部 保健看護学科 教授 江㞍 晴美15 えじり  はるみ15

元のページ  ../index.html#16

このブックを見る