幸友26
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部分は骨髄内にいる赤芽球内で合成されています。同時に毎日約4万個の赤芽球を作る必要があり、DNA複製も非常に高い活動度が必要とされます。この状況は白血球や血小板にも当てはまります。 造血細胞は非常に沢山の細胞を常時、作る必要があるため、多くの材料を必要とします。鉄はヘモグロビンの構成元素であり、鉄の欠乏はヘモグロビン量の低下を引き起こして鉄欠乏性貧血になります。細胞増殖にはDNA複製が必要であり、シアノコバラミン(ビタミンB12)の働きが十分でないとDNAの合成が障害されます。その結果、造血細胞の産生が減少します。鉄同様にシアノコバラミンも体内では合成できない分子であり、外界から吸収する必要がありますが、胃の壁細胞から分泌される内因子がないとシアノコバラミンの吸収不全が起こります。造血細胞は骨髄にある幹細胞からの分化と増殖によって維持されているため、シアノコバラミン不足などによるDNA複製障害は赤血球だけでなく血小板や白血球の減少を伴うこともしばしば見られます。臨床でよくあるケースは、胃全摘の手術後5〜7年後くらいに発症する貧血です。 貧血を訴える患者さんが来ると、以上のことを想起しながら、オーダーした採血データを眺めます。そこで赤血球1個あたりの体積が小さければ鉄欠乏性、大きければシアノコバラミン欠乏性貧血を疑い、体内の鉄またはシアノコバラミンの濃度を測定します。経験的にはこの2つのケースで半数くらいの貧血患者さんの診断が可能となります。 その後の治療はどうなっているのでしょうか。材料不足ですから、足りないものを補給するだけです。鉄欠乏であれば、鉄剤の内服または注射薬が処方されます。内服ができる場合はクエン酸第一鉄ナトリウムなどが長年用いられてきましたが、吐き気の副作用がよく見られるのがネックでした。最近はリオナという商品名でより吐き気の副作用が低い内服薬も手に入りますので、もし鉄剤の吐き気でお困りの方がいらっしゃいましたら主治医にご相談ください。シアノコバラミン欠乏の場合は消化管吸収不全があるベースにあるために、注射剤での投与が基本になります。このため、薬局で売っているようなサプリメントの摂取では効果不足となると思われます。 このような貧血症の場合は診断、治療は比較的シンプルであるケースが多いので街の開業医さんが直接対応してくれることも多いと思います。その一方で、これに当てはまらないケースも同じくらいあります。このような場合には血液専門医へ紹介されることとなります。その診断は良性から悪性のものまで多種多様なケースがありますので、紹介医の先生の顔色を良く観察してみるのも一つのヒントとなるかもしれません。16

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