2025幸友 VOL.28
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 昔話の『桃太郎』を思い出してみてください。「どんぶらこ」と流れてきた桃を、おじいさんとおばあさんが川から取り上げることで、桃太郎はこの世に誕生します。この場面が出産を象徴しているように、私たちは先人たちが言葉に託してきた「思考の形態」を無意識のうちに利用しながら夢を見ると考えられています。このような“言語的な伝承”に含まれている意味を私たちはすでに忘れてしまっていますが、精神分析家がそこを補うことで、本人も気づいていない無意識が開かれるように導くことができます。そして、夢が示している意味に気づいた時、病も回復に向かっていくのです。 そのようにおっしゃる方は意外に多いですね。実際には、見ていることを忘れてしまっている場合がほとんどです。私自身、研究のために夢を憶えておく必要があり、枕元にいつもメモ帳を置いて書き留められるようにしています。目覚めたらすぐにメモしておけば、不思議と忘れないものです。枕から頭を上げた瞬間に忘れてしまうので、要注意ではありますが。そうして一定期間の記録を重ねていくと、いくつかの夢の間に共通点が見えてきて、ある時「あっ!」と意味に気づく瞬間が訪れます。このような一連の過程を通して「どうやら夢は同じことを伝えてきているのだな」と気づき、「自分は無意識のうちに、こういうことに苦しんでいたのか」と知ることができるのです。精神的な病を抱えていない方でも、気づかぬうちに葛藤を抱えていることはあります。夢は、それを私たちに教えてくれます。夢は、自分の生き方を捉え直す可能性を秘めているのです。 その通りです。夢や無意識の働きは科学的に説明しづらい点があるため、現代の実用主義的な潮流のなかでは重要性が見過ごされがちな研究分野です。しかし、果たしてそれでよいのでしょうか。「人間は自らの意思を完全にコントロールできる」と考えることは、とても危ういことだと思います。 現在、私は小学校などに出向き、さまざまな問題を抱えた児童への対応を検討しています。実は、子どもに表れている問題の中には、学校全体が抱える課題を映し出していることがあります。にもかかわらず、子ども一人の問題として処理してしまうと、真の原因を覆い隠しただけに終わってしまいます。一方、それを学校全体の課題であると受け止め、組織として問題に対処することができれば、解決の糸口を見出すことができます。 このような構造は、企業などの職場でも同じです。たとえば、先ほどお話しした「入浴の夢は出産の象徴」というテーマを知っていれば、社員がふと「昨日はお風呂に入った夢を見た」と話した時、「この人は自分の存在や生き方を問い直す必要を感じているのかもしれない」と気づくことができます。相手との関係性によっては、「何か悩んでいることがあるの?」と声をかけることで、部下との新しい関係づくりにつなげることもできるかもしれません。 一人ひとりが見る夢は、語られなければ誰にも知られないまま消えていきます。しかし、誰かに話すことで状況を大きく変える力を持つ存在でもあります。ぜひ皆さんも夢について話してみてください。―なぜ、入浴の夢が出産に関係しているのでしょうか?―私はほとんど夢を見ないのですが。―夢は、無意識下をのぞく鍵なんですね。「夢分析」新宮一成 著 岩波新書私は子どもの頃から、よく夢を見ていました。なぜ夢を見るのか、ずっと不思議でした。皆さんは、「試験の夢」を見たことはないでしょうか。試験の夢には、何らかの理由で自分の存在が揺らいでいる現状を、かつて試験に合格した経験をもとに支え直そうとしていることが表れていると解釈します。夢には人間の深層にある無意識の欲望や葛藤を教えてくれる役割があります。そこから新たな生き方を見出すヒントを提示してくれるものでもあります。この本は、そんな夢と人間の無意識の欲望との関係を、「空飛ぶ夢」、「数字の夢」など事例をもとに分かりやすく解説しています。「本当なの?」と思った方は、ぜひ夢の奥深い世界をのぞいてみてください。牧瀬英幹先生の18

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