2024幸友 VOL.27
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でしょう。このように現場感覚をいつまでも失わないリーダーは、組織の道筋を間違って示すことはないと思います。 組織のトップは企業風土をつくる立場でもありますからね。私が出会った優れたリーダーの二つ目の特徴は、「チャレンジできる風土をつくろうとしていること」です。トップがチャレンジし続ける姿勢を見せていれば、従業員の間にも自然に挑戦する空気が生まれます。たとえ挑戦が失敗に終わったとしても、長期的に見れば組織の糧となり、パフォーマンスを上げられるようになるでしょう。過去の失敗談を「部長だって若い時は失敗ばかりでどれだけ損したことか」と、笑い話として伝えられるような会社は規模の大小に関係なく良い組織です。そこには、部下を信頼して全面的に仕事を任せ、失敗してもきちんとフォローに努めるリーダーの存在があるはずです。 以上のような社内の「縦のネットワーク」に加えて、経営者には社外の「横のネットワーク」も必要です。経営者は孤独な存在だからこそ、自分と同様の苦労をしてきた企業のトップとつながり、同じ目線で話せる場を大切にしてほしいと思います。また、趣味などを通じて仕事とは全く異なるネットワークから情報を得ることは、いつまでも柔軟な発想力や視点を保つことに役立ちます。 時代の流れを的確に読み、強いリーダーシップで会社を引っ張っていくカリスマ性のあるリーダーはごく少数です。ほとんどのリーダーは、この複雑な世の中を生き抜くための確実なビジョンや強烈なカリスマ性を持っているわけではないと思います。組織の内側だけを見つめている企業の活気は徐々に失われてしまいますが、事業を取り巻くさまざまな環境の変化や消費者の好み、トレンドなど、人的ネットワークから情報をうまく引き出して活用できている企業はいつまでも元気です。 多くの人を動かすために、経営学では歴史上、事業部制組織やマトリクス組織、ネットワーク組織などの組織構造が時代ごとに生まれてきました。組織を動かす手続きのあり方や社内ルールの決め方によって、組織は動きやすくも動きにくくもなることがわかっています。企業は時が経つほどに前例主義や形式主義に陥り、組織が硬直して動かなくなってしまうものです。経営者は、変化の方向性を見定めなければならない時に間違った方向へ進まないためにも、信頼できる情報網とマネジメントチームを保持していなくてはなりません。現場という内部環境と、市場や社会の動向を含めた外的環境の情報をともに得られるネットワークを構築するためには、情報アンテナが高く、他の組織との幅広いつながりを持った人材を社内で重用することも効果的です。良質な人的ネットワークを築いている人材は仕事のパフォーマンスが高いということも、ネットワーク研究によって証明されています。 いまやオンライン上で人と人は簡単に交流することができますが、対面のコミュニケーションを重ねて築いた信頼関係にはまだまだ及びません。ビジネスの先行きが不透明な現代、リアルな人的ネットワークにこそ、私たちは一筋の光明を見出すことができるのではないでしょうか。―トップと現場のダイレクトな接点が大事なのですね。―ネットワークが良質な組織を築くということでしょうか。「私たちはどうつながっているのか」増田直紀 著 中公新書ネットワークという言葉から、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。インターネット社会ではさまざまなつながりが生まれますが、人と人との直接的なつながり、すなわち人的ネットワーク(人脈)は、人生を左右する大きな要素です。経営学では企業の業績向上方策についてあらゆる研究がなされていますが、人的ネットワークも社員のパフォーマンスや企業の業績向上に無視できない影響を与えることが分かってきました。本書は、スモール・ワールドや6次の隔たり、クラスターやスケールフリーといったネットワーク用語をわかりやすく解説した上で、最後は、われわれ人間がコミュニティにおいて、孤立せずに信頼関係を築いていくことが重要だと説きます。皆さん自身の人的ネットワークを再考してみませんか。寺澤朝子先生の18

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