幸友26
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寄り添う、共感に徹してほしいと思います。きちんと時間をつくって耳を傾ければ、相手は「自分は見捨てられていない」と感じて安心します。話すことで混乱がおさまって考えが整理され、自分自身で気づきを得られるかもしれません。だからこそ、聞く側には「聞く技術」が必要なのです。漠然とではなく、「本人はどうしたいのか」「そのためには何が必要なのか」を意識して聞きましょう。間違いを指摘したり、説得したりすることなく、あくまでも相手が思っていることを言語化するお手伝いをします。「悩みを打ち明けてくれて、ありがとう」という気持ちがあれば、きっと伝わるはずです。 営業成績は優秀でも部下の気持ちに寄り添えない上司も、企業にとっては大切な人材です。いくら社員同士が仲良しでも、儲からなければ企業は存続できません。だからこそ、経営者には、環境を整える手立てを考えてほしいと思います。必要なのは、みんなが気持ちを一つにできる目標です。企業にとっては「社是」がそれに当たるでしょう。 近年は、理想とされるリーダーの姿が変わってきています。漫画『ONE PIECE』が大ヒットしている理由の一つは、仲間たち一人ひとりの個性を大事にしながら長所を引き出していく、理想的なリーダー像を描いているからではないでしょうか。「サーバントリーダー」の好例だと思います。カリスマ的な牽引力で引っ張っていくのではなく、社員が目標を達成するためにサポートできるのが、サーバントリーダーです。自分もガンガン頑張りながら、「こうして仕事ができるのは君たちのおかげだよ」と、感謝の言葉を社員にかけてあげられる魅力的な経営者がいる会社なら、Z世代の若者たちも自分の身を置いて成長していきたいと思うことでしょう。人生の大切な時間を、素敵なモデルのいる場所で過ごしたいという気持ちは誰でも同じです。 人の上に立つ人物は、常に選択や決断を下さなければならない厳しい立場にあります。そんなリーダーの助けになるのは、歴史の力だと私は考えます。コロナ禍で中部大学が授業をオンラインに切り替えた頃のことです。大学の方針として、学生相談室は継続して相談を受け付けることになりました。そのタイミングで、とある卒業生から学生相談室宛に連絡がありました。内容は、「自分たちは大学生活を謳歌し、困った時には友人や先生に相談ができた。自宅で勉強しなくてはならない今の学生はどんなに心細いことだろう。カウンセラーの皆さん、彼らのサポートをお願いします」という激励です。もう一人、別の卒業生からも同様のメッセージが寄せられました。本学が築いてきた歴史の重みを感じるエピソードです。社会に巣立っていった先輩たちが、後輩の状況を思いやり、道を拓いてあげようとする力は、歴史なくして生まれません。 私たち人類は、過去に何度もパンデミックを乗り越えてサバイバルしてきました。いつの時代も先人の築いた道のりが示されていたからです。対人スキルに関する名著であるこの一冊も、企業の皆様がコミュニケーションのあり方を考える一助になれば幸いです。―「聞く耳」を持って、 組織を引っ張っていく 上司の存在が必要ですね。―リーダーにこそ意識の変革が求められるのですね。「プロカウンセラーの共感の技術」杉原保史 著 創元社本書は、「うちの上司に読ませたい」「うちの部下にも読ませたい」と読み継がれ、45万部を売り上げた『プロカウンセラーの聞く技術』に続く、京都大学学生総合支援機構教授の体験的知恵が詰まった1冊です。どのような悩みであっても、それが語られるとき、そこで求められているのは相手からの「共感」だと著者は言います。人間関係を深めていくためにも、個人の生きがいを高めていくためにも、ひいては前向きで健康的な組織や社会を築いていくためにもとても重要だと指摘される、対人関係スキルの基本、「共感」。ストーリーを追うことで体験的にスキルをイメージできる『マンガで読み解くプロカウンセラーの共感の技術』もお勧めです。佐藤枝里先生の18

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