2024幸友 VOL.27
29/36
したのが、二人の創業者の故・伊藤雅俊名誉会長と鈴木敏文名誉顧問です。私が入社した1987年、当時の会長の伊藤から著書「商いのこころ」を渡され、我々には信頼と誠実こそが大切だ、と教育を受け、鈴木からは論理的思考で小売業を科学するという単品管理思考を教わりました。簡単に説明すると、社会の変化を捉え、なぜを繰り返し、主体的に考え、行動に移し、検証し続けるという「変化への対応と基本の徹底」です。「変化への対応」とは、変えるべきことは勇気を持って変えていく。そして新しいことに常にチャレンジし続けること。「基本の徹底」は、絶対に変えてはいけない仕事の仕方や思考は永遠に続けること。この2つが全てのベースにあります。この考えのもとで挑戦しイノベーションを起こしてきたのが、単品管理思考です。単品管理とは昨日何が売れたかではなく、明日何が売れるかの仮説を立てること。当然全ての仮説が当たるわけではありません。このギャップを埋める思考こそが単品管理で、常に単品管理思考を繰り返してお客様の満足度を高めることが利益につながるという手法です。仮説なくして検証にはつながりません。一般的にはPDCAサイクルを回すと言いますが、我々はこのことを創業以来50年間、単品管理のループを回すと呼んでいます。 また、このループにはポイントがあります。単品管理にはきっかけとなる仮説が重要で、これは妄想でも想像でも思いつきでも構いません。それがチャレンジに値するのか、さまざまな角度からシミュレーションを繰り返します。それが単品管理のループの始まりになります。では、どのようにコンビニエンスストアでおにぎりを買うことを日常化したのか、そもそもなぜおにぎりだったのか。普通に考えればアメリカ発祥のハンバーガーにチャンスありと考えて良さそうですが、当時の創業メンバーは単品管理のループを回し、マーケットの広がりを考え、日本人に馴染みの深いおにぎりの方が日常に定着するであろうと開発に踏み切りました。今、年間約21億個売れる大ヒット商品に成長しましたが、ここまで伸ばすことができたのも単品管理思考でループを回し続けてきたからに他なりません。 セブン-イレブンはそれぞれの国の文化に合わせて、その都度求められる時代の便利が変化する中で日常をイノベーションしてきました。では、この先どんな戦略を考えていくのか。これには今の社会課題を見る必要があります。重要なのは環境問題や異常気象などの恒常的な潮流で、日本では地方を中心に加速度的に進行している少子高齢化や人口減少がそうです。この50年、当社はさまざまな変化に対応し、お客様の日常を変革することで経済的価値を生み出してきました。しかし、これからは経済的価値の提供だけではなく、いかに社会課題に向き合って解決していくのかが我々に課せられた使命だと思っています。この経済的価値と社会的価値を実現するために我々は4つのビジョン「健康・地域・環境・人財」を掲げています。この4つのビジョンを通じて、当社の目指す姿である「明日の笑顔を 共に創る」、これを実現していきたいと考えています。 たとえば、高齢化により商圏が年々狭くなっているというデータがありますが、ある過疎エリアに出店した際、高齢者の方に重宝されたサービスがマルチコピー機であることに私はハッとしました。ご高齢の方をターゲットとしたサービスではないからです。つまり、単品管理思考で重要なのは「人起点」ということです。AIがどれだけ発達してビッグデータが溢れても、結局最後は人に繋がります。食べる、見る、遊ぶ、すべて人です。我々は「お客様のために」とは一度も言っていません。「お客様の立場で考える」を入社以来、全社員が教え込まれます。これが単品管理思考の本質であり、当社の商売の原点でもあります。 創業者の鈴木は約15年前に真面目な顔でこう言いました。「将来ニーズがあるならどんな品揃えをしてもいい。コンビニエンスストアで車を売る時代が来るかもしれない」と。50年後の人々にとっての便利の定義は、きっと今とは全く違うはずです。少しでも早く正確な情報をキャッチして仮説を立てて挑戦する。我々はこの挑戦を愚直に繰り返し、未来に備えて準備していきます。持続可能な成長戦略とは28
元のページ
../index.html#29