2021年9月29日

  • 学術・研究

光合成を人為的に制御できるか?脂肪酸によって光合成活性が変化する仕組みを解明(愛知真木子准教授ら)

発表のポイント

  • 微細藻類や植物の光合成活性を阻害してしまう物質として、微細藻類自体が産生する脂肪酸に含まれる多価不飽和脂肪酸*1が知られており、今回、その阻害作用の分子メカニズムを解明した。
  • 遊離した多価不飽和脂肪酸が、光合成の場であるチラコイド膜*2にある主要なリン脂質であるホスファチジルグリセロールに特異的に取り込まれることで、光合成装置を不安定化して失活させることを明らかにした。
  • 本研究成果は、光合成微細藻類を用いたバイオディーゼルなどのバイオ燃料生産の増産に寄与することができる。また、脂肪酸は環境中で生物によって容易に分解される物質であるため、環境負荷の低い農薬や藻類防除薬として期待できる。

概要

脂肪酸はバイオディーゼルの原料です。世界的に脱炭素社会を目指す機運から、アメリカ合衆国や日本を中心に光合成微細藻類を用いて脂肪酸生産を行う研究が盛んに行われています。しかし、微細藻類自体が産生する脂肪酸に含まれる多価不飽脂肪酸が光合成を阻害してしまうことから、増産の大きな課題となっていました。

東京大学大学院総合文化研究科の神保晴彦助教、和田元教授、中部大学応用生物学部の愛知真木子准教授らは、脂肪酸が光合成を阻害してしまう分子メカニズムの解明に挑みました。光合成では、光エネルギーを変換して細胞内へとエネルギーを供給しています。脂肪酸が光合成を阻害することは知られていましたが、どのような分子メカニズムで阻害するのかは明らかではありませんでした。

本研究では、光合成が過剰な光エネルギーを受けた際に失活してしまう現象(光阻害)に着目して、強光下において脂肪酸が光合成に与える影響を解析しました。その結果、脂肪酸の中でも二重結合を2つ以上もつ多価不飽和脂肪酸が、特定の膜脂質に取り込まれることで、光合成活性を阻害していることを明らかにしました。

本研究成果は、バイオ燃料の原料となる脂肪酸の増産に寄与するだけでなく、多価不飽和脂肪酸をベースとした農薬、赤潮やアオコの防除薬など、環境負荷の低い機能性分子の創出にもつながることが期待されます。

本研究成果は、9月28日出版のInternational Journal of Molecular Sciencesで発表されました。

用語解説

*1脂肪酸

脂肪酸は、炭化水素鎖にカルボキシル基が結合した構造を持っており、全ての生物に必須の物質です。炭化水素鎖は鎖の長さ・二重結合の数とその結合様式(シス・トランス)・修飾に応じて、多様な分子構造を持っています。二重結合を持つ脂肪酸を不飽和脂肪酸、その中でも特に二重結合を2つ以上もつ脂肪酸を多価不飽和脂肪酸と言います。

*2チラコイド膜

シアノバクテリアや植物細胞の葉緑体には光合成の場であるチラコイド膜という生体膜が存在し、その膜は糖を結合した3種類の糖脂質とリンを結合した1種類のリン脂質からなります。チラコイド膜に存在する唯一の主要なリン脂質であるホスファチジルグリセロールは、光合成の機能に必須であることがわかっています。

本学の問い合わせ先

研究に関すること
愛知真木子(中部大学 応用生物学部応用生物化学科 准教授)
Eメール:makiko@isc.chubu.ac.jp
電話:0568-51-6194(研究室直通)

報道に関すること
中部大学 学園広報部 広報課
Eメール:cuinfo@office.chubu.ac.jp
電話:0568-51-7638

中部大学の研究活動