地域史の編さんに携わることで、地元の知られざる姿を探る
プロフィール
水野 智之先生。名古屋市出身。名古屋大学大学院 文学研究科 博士後期課程修了。博士(歴史学)。日本福祉大学の非常勤講師、高千穂大学商学部准教授などを経て、2011年に中部大学に着任。現在は人文学部 歴史地理学科 教授。
休日は、家族との時間を過ごすことが多く、小学6年生の子どもと一緒にアニメを鑑賞することで、最近のはやりを知ることができた。
知人の大学教員から連歌の会に誘われ、コンクールに応募をしたところ、初挑戦にもかかわらず入賞できたことが、最近の喜ばしい出来事の一つだという。
先生の研究内容

「現在主に取り組んでいる研究テーマは次の二つです。一つは南北朝~織豊期の公武関係の研究です。朝廷と幕府、あるいは天皇と将軍・天下人との政治的な関係や権力のあり様を探っています。皆さん、戦国時代というと、将軍や大名つまり武家が全国を支配していたように連想するかと思いますが、実は朝廷の権力はしっかりと残っていました。軍事力が乏しいにもかかわらず、なぜそれだけの影響力があったのかという点について学界で議論されていて、これは単に武力だけの観点で比較するのではなく、文化的な行事や儀礼などの観点も踏まえる必要があると私は考えています。
もう一つは東海地域史です。特に愛知県史など、県内の自治体史の編さんに携わる機会に恵まれましたので、尾張・三河国の中世史を考察しています。中世までの史料はあまり多く残っていないので、少ない史料から特定の地域に根差した歴史を探ることは非常に困難です。尾張・三河国を舞台として、どのような勢力の興亡があったのかを探ることや、自分の生まれて過ごした身近な地域で、いかなる歴史があったのかを知ることは興味深く感じます」
研究を始めたきっかけ

「学部の3年生の頃から、自身で史実を探ったり、先行研究の学説を考察したりすることに没頭していました。ただ、研究者としての職を得ることは極めて困難だと知っていたので、就職するか、進学するかの二択で迷いました。そのような中、4年生になって教員採用試験に合格したので、教員になろうかと思いましたが、やってみたいことは若いうちにやっておかないと、年齢を重ねてからではできないと考え、教員を辞退し、大学院に進学することにしました。結果、研究を続けることができ、今につながっているので、本当に良かったと思っています」
県内の地域史の編さんやPR活動に携わる
「直近では、名古屋市の北側に隣接する豊山町の町制50年の節目に企画された豊山町史を編さんしました。中部大学の卒業生が町長に就任したご縁から大学との連携が実現し、町史編さんに協力する教員として、私にお声がかかりました。豊山町の調査では、学生と一緒に史跡や寺院、民家などを尋ねたり、古文書の調査を行ったりしました。学生は楽しんで調査をしてくれていたようです。
また、中部大学が所在する春日井市松本町でも、大学に町史の編さん協力のお尋ねがあり、私のもとにお話があったので、編さん作業に協力しました。松本公民館にある江戸時代から昭和・平成に至る文書なども調査しました。松本町にお住まいの方々に、昔の生活の様子、食べ物、遊び、行事、お祭り、お店、農作業、亜炭坑での採掘業など、聞き取りをしました。このように身近な地元にも大切な歴史や文化財があるという意識を特に若い世代の方々に持ってもらうことや、地域の魅力を新たに発見することに力を入れています。
地域史の編さん以外に、町のPR活動にも携わっています。豊山町では、学生と協力して文化財PR動画を作成しました。現在YouTube豊山町【公式】チャンネルで配信されています。他にも尾張旭市では2020年に市制50周年のイベントがあり、そこに講演者の一人として招かれました。その縁から尾張旭市でも魅力伝承番組として、地元のケーブルテレビと連携し番組を制作しました。こちらも現在、尾張旭市公式YouTubeチャンネルで配信されています」
先生の学生時代
「私の学生時代は、もちろん勉強で忙しかった思い出もありますが、いろいろなアルバイトをして慌ただしく過ごしていた印象も残っています。オートバイや車を購入する資金や、ウインタースポーツを楽しむためのお小遣いを稼いでいたほか、出かけることが好きだったので、自分の研究に関連する土地に足を運んだり、海外旅行などにお金を使っていました。そのような生活の中で、特に印象に残っている買い物の一つがワープロです。当時、学生がレポートを書くのは、手書きが当たり前でしたが、ワープロが登場したことで、書き直しが簡単になり、とても革新的でした。私も卒業論文の作成に取りかかる前に手に入れたくなり、学生の勉強道具としては大金であった10万円以上を出して、ワープロを購入しました。こうして思い返すと、自分のやりたいことをとことん追求していた学生時代だったように思います」


メッセージ

「自分の好きなテーマを見つけて、一生懸命考えることを期待したいです。私が専門とする歴史学は、史料に書かれていることを考察する学問であり、かつての研究者が取り組んだ考察よりも、より深く考え抜いて、新たな研究を切り拓いていくものです。これは研究に限らず、あらゆる面にも通じていて、現状をよりよく高められることに気づいたり、行動したりすることにつながります。そのため皆さんには、考える努力を積み重ねていってほしいと期待しています」
